『からくりアンモラル 』 森 奈津子

からくりアンモラル (ハヤカワ文庫JA)

 

◆ からくりアンモラル (ハヤカワ文庫JA) 森 奈津子 (ハヤカワ文庫JA ) ¥777

 

 評価…★★★★☆

 

<作品紹介> 秋月と春菜の姉妹は共に愛らしく聡明だが性格は対照的だ。姉の秋月は小悪魔的、妹の春菜は優等生。そんな二人の性格の違いはそれそれがクリスマスに贈られたペットたちへの接し方にも現われていた。秋月は贈られた仔犬にすぐに飽きてしまったが、春菜は成長型ロボット・ヨハネを辛抱強く教育し、ついには春菜とヨハネと仔犬で仲良く遊ぶほどになった。

そんなある日、秋月に初潮が訪れる。変化する自分の体や周囲の状況に苛立ち動揺する秋月は気晴らしにヨハネを利用することを思いつく。素直なヨハネの反応に思わず更なる悪戯を仕掛けてしまうが、それは思いがけない結果をもたらす。(表題作)

 

他、『愛玩少年』 (人間とは違う方法で生命を維持する「新人類」が世界を支配するようになった現在、「旧人類」となった人間達は彼らの栄養源として養われるようになった。新人類は旧人類とセックスすることによって彼らの精気を吸い取り、それをエネルギー源とするのだ) 、『レプリカント色ざんげ』 (今は娼婦になっているセクサロイドが波瀾に満ちた生涯を語る)など、濃厚な性描写がありながらも何故か切なく叙情的なSF全9篇を収録。

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設定は結構ハードめにSFでありながら描かれる性愛描写は実に濃厚。なのに、どの作品も驚くほど切ない。不思議な作品集です。

 

※※※作品の特性上、以下の文章には性的な描写や発言が多く含まれます。そういった内容が苦手な方はご遠慮下さい。※※※

 

 

※以下ネタバレ有り※

 


 私の森奈津子体験はSFバカ本だったので、伝説の名作 『西城秀樹のおかげです 』 に代表されるお笑いエロSFみたいな作品のイメージが強かったため、この作品集はちょっと驚きでした。 森作品なので性愛について描かれるのは承知の上でしたが、いつものお笑い系より描写も設定も濃厚で、『あたしを愛したあたしたち』(12歳の藍子の前に15歳と19歳の自分が現われ、むりやり彼女の身体を弄び始める。実は彼女は性的な快楽を得ることによってタイムトラベルできるのだ)に至っては、女の人は好きでも自己愛傾向はない私には理解不能なこともあり、ちょっと気分悪いかもという感じになりましたが、まぁ、濃厚ではあるけど耽美と言えば耽美です。登場人物は皆美しいし、全体的に少女期の叙情みたいなものが漂ってるしね。

表題作の秋月が初潮を迎えた時の何とも言えない苛立ちや、その時期は人によってまちまちだと思いますが、自分の体が自分の意思とは関わりなく異性の欲望の対象となってしまい、時には強制的にその欲望を押し付けられるということに気付いた時のおぞましさや怒りみたいなものは女性ならみんな共感できるんじゃないかなぁと思います。

「カラダだけが目当てなんでしょ!」とか言うバカ女に全面的な共感はできませんが、女性が強制的に性を押し付けられ、また強制的に奪われる性だというのは否定できない事実で、その事実に思考がある程度影響されてしまうのは仕方のないことなんですよね。男性にはわかりにくいかもしれないですが。

まぁ、例えば夜道で暴漢に襲われたとして男性が奪われるものは大抵ひとつでしょ。女性の場合はふたつあって、それが同時に奪われることも頻繁にあるんですよ。もちろん、これは数だけの話ではないけど。 そういえば、最近ではイジメの場(って変な表現だけど)でも女性はその性を利用されるらしいですねぇ。仲間にレイプさせるとかいうのは昔でも稀ではあっても存在したけど、関わりないとこで商品化して場合によっては利益を得たりするだけに現在の方がタチが悪い。

更に話はちょっと逸れますが、最近のイジメって純粋なイジメ(これも変な表現ですが……)ではなく営利目的になっているところが非常にタチが悪いですよね。大昔からイジメの常套手段として、所持する物品や金銭を奪ったり、強制的に万引きさせて貢がせたりとかいうのはあったけど、あくまで手段ですからね。まぁ、いずれにしても良くないことなんですが、質とかレベルとか意味とか色々変わってきてるなぁと思って暗澹とします。

おっとと、ほんとに話が逸れました。少女がメインの作品集のせいか遠い昔のことを思い出しますね。ここで、閑話休題の休題をして性差の話を再開するのも疲れるので、いいかげんに個別の作品紹介と感想に移りましょう。

 

表題作は凄くわかるようでわからなかったりする不思議な作品。物凄く共感できたりできなかったりなのですね。それは秋月と春菜が極端に描かれてるからかもしれないですね。とんがった少女っぽい感想を言えば、やはり勝つのは愚鈍な素直さなのねとか思ってしまいました。

 

『あたしを愛したあたしたち』 は先にちょっと触れたように、12歳の少女のもとに未来の自分(これも少女と言っていいくらいの年齢)がやってきて、ふたりががりでむりやり性に目覚めさせる、そうすることによってタイムトラベルができるから……という話なんですが、何度書いても奇想天外でグロテスクな話だよな(-"-;)

美少女だらけで絵的にはきれいだけど(あ、74歳がひとり混ざるけど)、タイムトラベルしてまで自分しか愛せないのはダメじゃないか? 

「あたしは、あたしを愛している。そして、あたしも、あたしを愛してくれている。この思いはだれにも邪魔させはしない!」 …って、言われてもなぁ。何だろなぁ…(-"-;)

倒錯とか自己愛とか年少での性体験とか、まあ、そういうのはいいんだけど、本来は他者との接触で知るべき感情や感覚の全てを自分を通して知るというのは凄く間違ってると思うんだよね。ある種の成長物語のように書かれているけど、それは違うでしょう、と。いや、自分とはいえ未来や過去の存在だから他者といえば他者なのだが…。ダメだ、ちょっと論評不能です(*_*)

 

『愛玩少年』。紹介文でも触れましたが、そこで言うところの「新人類」というのは、いわゆる吸血鬼のことです。吸血鬼は血を吸うことによって吸った相手を吸血鬼にしてしまうので、あんまり増えると最終的には食料がなくなるという古典的なネタからきた斬新な設定のお話。 確かに、血=精気という構図なのだろうからこれはアリだよな、とちょっと感心。

ただ、このお話では条件がついてて、ヘテロ間での正しいセックスによってしかエネルギーチャージできないことになってるのね。そこで、同性しか愛せない新人類とそれに絡む旧人類の悲劇みたいのが起こってくるんだけど、まぁ、複雑にアブノーマルな話です。

 

『いなくなった猫の話』。 これはふつうにいい話ですね。舞台は宇宙のどこか。ハイブリッドと呼ばれる人間と猫または犬のDNAを合成して作った人造生物がいる国。ハイブリッドは本来は愛玩用として造られた存在で、知能は人間と変わらず、身体能力は高く、容姿は美しい。そして、成長は犬猫同様に早いが寿命も同様に短い。そんなハイブリッドと禁じられた恋に落ちた女性のお話。きっちりSF設定で、かつ人間模様があって恋物語があって、ハッピーエンド。素晴らしいです。

 

『繰り返される初夜の物語』。んーと、これ非常に突飛な設定のお話なのですが、大枠だけ言えば、生体人形というアンドロイドみたいな存在を娼婦としている娼館があって、その中に特殊な設定をされている娼婦がひとりいる。その娼婦は固定された記憶がなく自分が生体人形だということも知らない。彼女のデータは毎日、その日の客の好みによって設定され更新される。つまり、彼女は毎日別の女として生まれ変わるのだ。…というようなお話。

で、設定はもちろん娼館で用意してあって、「貧しさ故に売られた農村の娘」とか「かどわかされた大商人の娘」とか「借金返済のために自ら身を売った少女」とかいうような基本設定に、恋人や婚約者の有無、客の役柄の設定(見知らぬ客、恋人、身内など)という細部設定ができるという。 凄いっすねー、もはや性のテーマパークですねぇ。(違う?)

で、こういう設定だとわかっていながらも娼婦に溺れてしまう男はいるもので……って話なんですけど、オチは思いのほかいい話な感じのオチです。まぁ、これは単純に耽美で隠微な性愛描写を楽しめば良い作品のような気もする。楽しめるかどうかは好き好きですけどね^^;

 

『一卵性』。これも自己愛系っつーか……。一卵性の双子の姉妹の妹の方が姉に異常な愛情を持っており、そこにテレパシーとかSF的要素が入ってきて、最後は姉妹とそれぞれのパートナーが入り乱れてもうひどいことに……という話(我ながら凄いまとめ方…)。私は苦手だが、当事者同士が幸せなら、まぁいいか、と。 

 

罪と罰、そして』 も私の感覚的にはこれに近いなぁ。女の子同士が血縁じゃないのが救いだが。

 

レプリカント色ざんげ』。これも凄い話なんですが、実は本書の中で一番好きかもしれない。『SFバカ本シュール集』の館淳一氏の作品も好きだったし、ひょっとして私はセクサロイドの類が出てくる話が好きなのか?(@_@;) うーむ、自分の意外な一面を発見。

……というのは冗談で(多分^^;)、この話はそのセクサロイドの転変が物凄いところが好きなのです。仕える主人や扱われ方、そして本人の行動の転変も物凄いんですけど、私が興味があるのはハードの方。属性とか形状がもの凄く変わるの。最初は黒人青年で、次は白人少女、そして最後は雌山羊って(>_<) まぁ、人工知能移すだけだから何でもアリアリなんだろうけどもさ。

でも、ということは、作品冒頭で「ねえ、学生さん。こういうところは、初めてなんでしょう?寝物語で商売女に過去のことを訊くなんてさ」とか言ってるのは雌山羊かい! そして、学生さんは何を思って、雌山羊と寝物語をしてんですか!とか思ってバカ受けしてしまったのでした^^; 

要は笑える要素があるところが好きだったという。もしかしたら、雌山羊にまで身を堕としてって涙すべきところなのかもしれないんですが、申し訳ないけど私にはツボだったの。

 

『ナルキソッスの娘』。これが一番色模様の少ない話ですね。物凄い自分勝手で能天気だけど愛情溢れる父親・ヒロシが実に魅力的です^^ こんな人間以上に人間的なアンドロイド造れるのかしら? 他の登場人物もみんな素敵。うん、これも好きな話だ。でも、これだけちょっと毛色が違うよね。

しかし、ヒモとして暮らしているヒロシが娘に語るこの台詞は秀逸だよな。 「いいかい、カヤノ。大人には大人の事情がある。一応、愛しあってはいるけどね、実はニナは僕の体が目当てで、ぼくはニナのお金が目当てなんだ。子供にはわからないだろうけどね」 いや、お父さん、それ以上何をわかれと?って、感じですよ。

これの前の、ニナに軽い暴力を受けているということを訴えたカヤノに、「ぼくだって、よく、鞭で叩かれているんだよ。おまえは知らないだろうけど、ニナの寝室でね」としゃあしゃあと言ってのけたのにも爆笑したが。ヒロシの人工知能造った人の顔が見たいよ^^;

 

(※8月下旬読了)