『 臓物大展覧会 』 小林 泰三

◆ 臓物大展覧会  小林 泰三 (角川ホラー文庫) \700  評価…★★★☆☆ <作品紹介> 彷徨い人が、うらぶれた町で見つけた 「 臓物大展覧会 」 という看板。興味本位で中に入ると、そこには数百もある肉らしき塊が…。 彷徨い人が関係者らしき人物に訊いてみると、展示されている臓物は一つ一つ己の物語を持っているという。彷徨い人はこの怪しげな 「 臓物の物語 」 をきこうとするが…。グロテスクな序章を幕開けに、ホラー短編の名手が、恐怖と混沌の髄を、あらゆる部位( ジャンル ) から描いた、9つの暗黒物語。  ( 文庫裏表紙紹介文 ) ある日、義子のもとに高校の時の同級生・康子から電話が入る。さほど親しくもなかった彼女からの突然の電話の用件は、別の同級生に連絡先を教えていいかという確認だった。 その小田信美という同級生のことは顔すらろくに覚えていなかったが、何でも彼女は高校の文化祭で同じ班だったメンバーに礼がしたいので会いたいと言っているのだという。ちょっと妙な気はしたが断る理由もないし、了解した義子だったが、その直後から驚くべき事件が起こり始める。 最初に彼女のもとに届いたのは、康子が惨殺されたという報せだった。 ( 『 透明女 』 ) 「 私たち、誘拐されたの。小学校から帰る途中、道草してる時に 」 。 僕と一緒に暮らしている恵美が、唐突にそんなことを言い出した。 何かの冗談かとも思ったが、どうも実際に体験したことみたいだ。 その特殊な経験が彼女の今の性格に関係しているのだろうと興味を持った僕は、恐る恐る彼女に話を聞かせてもらえるかと切り出した。彼女はちょっと驚いたようだったが、頷き、語り始めた。 そして、彼女の話が終わった時…… ( 『 攫われて 』 ) 男の生きる世界は全てがロボットによって運営されていた。家事や、経済活動、教育、そして、政治までも。 しかし、決して人間がロボットに支配されているというわけではない。ロボットはあくまで人間を主人として敬い、従っている。ただ、どの分野においてもロボットの方が優れているので、人間はすることがないだけなのだ。 従って、ほとんどの人間は日々遊び暮らし、ロボットがその全ての面倒を見ていた。 しかし、男はそんな生活に疑問を抱いていた。 そんなある日、彼はロボットに頼ることなく暮らしているという女性に出会う。 ( 『 造られしもの 』 )
文庫裏紹介文と私が紹介した各物語のあらすじをあわせて読むと、ちょっと不審を感じませんか? そう、本書は看板に偽りあり!なのです(T_T) 『 臓物大展覧会 』 という題名にグロテスクな描写に満ちたプロローグで、めいっぱい期待させておきながら、実際収録されている話は全然ソレ系じゃないんですよー(>_<) ホラーですらない作品も多い、というかSFが一番多いですね。 ミステリもあるな。一応ホラー風味やグロ描写があるものもありますが、全くないものもあります。これってひどくないですか? 私が読みたいのは書名にふさわしい内容のものなんです(>_<)  他の作家ならいざ知らず、 『 玩具修理者 』 や 『 人獣細工 』 を書いた小林泰三ですよ? それが 『 臓物大展覧会 』 ですよ? こちらの期待感は否が応にも高まりますよねぇぇぇ~(>_<) 私は映画はともかく、小説ではぐちゃぐちゃしたグロ描写があるような残虐ものは大好きというわけではないのですが、たまに読みたくなってしまうんです。で、今回はそれを求めて買ったので、ほんとがっかりでした(T_T) …と、まぁ、そういう特殊な期待を裏切られたという感は否めないのですが、作品集としては結構面白かったです(^_^;) ※以下ネタバレ有り※ 特に、『 SRP 』 は牧野修的な感じのあるコミカルなSFで、小林泰三ってこんなのも書くんだと感心しました。ちなみに「 SPR 」 = 「 科学捜査研究隊 」 です。 この往年の円谷プロ作品のような名前を聞くだけで、ホラーや正統SFとは違う何かへの期待感が高まるでしょ?(^_^;) 更に言えば、隊長は言動の危なげな若い( 多分 )女性と物理学の研究員あがりの青年のふたりっきりで、でも、ちゃんと白と橙という配色でデザインされた素敵な制服があるそうですよ( 笑 ) それと、著者のミステリ系の作品も本書で初めて読んで、これもなかなか感心しましたね。 あらすじ紹介した 『 攫われて 』 は、ある種の叙述ミステリと言っていいのかな。 いわゆる謎解きではないのだけど結構驚愕のラストです。 『 悪魔の不在証明 』 はミステリっぽい体裁で、色々な要素 ( グロ、宗教、化学系の各種論理、人間心理など ) が詰め込まれている何だか妙な作品。オチは途中で読めるけど、中盤の展開はちょっと驚きですね。理屈っぽいやりとりが続くので、そこが人によっては退屈と思うかも。 『 釣り人 』 は星新一っぽい作品。 登場人物も 「 エヌ氏 」 なので多分意識して書いてるんでしょうけど、著者らしさもちゃんとあるし、悪くないです。 あらすじ紹介した 『 造られしもの 』 は凄いベタな話で、全く予想通りのオチを読んだ時は一体どうしたんだろう?と思いました(*_*) 設定がわかった段階で、これだと話の展開はこれしか有り得ないって思っちゃうんですが、まさか、そんなベタな話を今さら書かないよね?と思って、何らかの新味を期待しながら読んでたのだけどなぁ…。ああ、まぁ、最後の生き残りを育てるというんじゃなくて、社会を成り立たせるために中心となる人間をひとり製造する ( 文字通りの意味で ) というのは新味ではあるか。 あとの作品は既読のものもあったし、まぁ、そこそこと言ったところですね。 うーん、こうして見ると私の求めていたものに適うタイプの作品は、巻頭の 『 透明女 』 だけじゃないか。やっぱりひどいわ…(-"-;) あらすじ紹介はネタを割らない程度にしましたが、もう少し詳細を語ると、惨殺された死体は解体されただけでなく、体内の各所に臓器と入れ替えるかのように様々な物が押し込まれていたのですね。 押し込まれていた物はガラスコップ、ビニールチューブ、ラップ、ペットボトルなど、日用品を無作為に使ったのかと思わせる品目だが、よくよく検討するとそれらにはひとつの共通点があった。それは全て透明な品物であるということ。つまり、犯人は被害者を透明な存在に変えようとしていたのだ。その犯人は予想通り信美だった。そして、彼女は残りのメンバーも次々と殺害していき、最後に義子のところに訪れる。身に覚えはないが、彼女の恨みを買うようなことをしていたのだと思っていた義子は、必死で謝罪し命乞いをするが…。 …という感じで、最後に微妙に意外な展開があるんですが、それも結構予想されていた展開だったりはします。この話のポイントはストーリー云々ではなく、人体損壊の様と壊れてしまった人間の怖さだと思うので、それで全然いいんですけどね^^; まぁ、話としてもそれなりにまとまってて、それなりに怖いかな。