『 禍記 ( マガツフミ )』 田中 啓文

◆ 禍記 ( マガツフミ )  田中 啓文 ( 角川ホラー文庫 ) \660   評価…★★★★☆       <作品紹介> オカルト雑誌の新米編集者、恭子はホラー小説の大家、待田から「禍記」という謎の古史古伝の存在を聞かされる。そこには、歴史の闇に葬られた人類誕生以前の世界のことが書かれているという。恭子はその書物に魅かれていき…。 赤ん坊をすりかえる取りかえ鬼、孤島で崇められるひゃくめさま、そして、子供にしか見えないモミとは?神話、古代史、民間伝承を題材に、恐怖の真髄を描破した伝奇ホラー傑作集。   ( 文庫裏表紙紹介文 )
いやぁー、田中啓文だぁーって感じの作品集ですねー。悪趣味で行き過ぎたグロ描写にバカバカしい設定。これですよ!( 褒めてます^^; ) それぞれの作品は神話や民間伝承などが題材にされているということ以外は共通点はなく、全く独立した話になっているのですが、一応、 『 禍記 』 という伝説の書とそれを追い求める人々の話で全てを繋いでいる形にもなっているのですね。各短編は面白いんだけど、その形式が逆に全体を浅い感じにしているのはちょっと残念かな。 『 禍記 』 パートのラストは結構好きなんですけどね。予想できるしムリもあるんだけど^^; ※以下ネタバレ有り※ 『 取りかえっ子 』 は、よく出来てるけど少々やり過ぎみたいな設定ですね。で、込み入ってる割には予想できる展開だし。しかし、ベタな話ではあるけど子供による子供殺しって嫌だわ…。 『 天使蝶 』 は怖さとかグロさはそれほどでもないけど、奇想という点では随一ですね。 人間の赤ん坊にその地域にだけに生息している稀少な蝶を寄生させ、うまく融合して蝶の翅が生えた赤ん坊という状態になったら 「 ミツカイ様 」 として村の守り神にするという風習のある村に、それを知らずに引っ越していった家族のお話です。って、これだけ読んで設定が一発で理解できた人は凄いかも^^;  どう考えてもムリだろ、デタラメだろ!って感じの設定なのですが、読んでるとそれなりに納得できなくもない力業が素敵です。あと登場人物たちの自分勝手ぶりと壊れ具合も啓文作品らしくていい(笑)  蝶に寄生された赤ん坊の何とも言えない禍々しい感じといい、ミツカイ様製造のために数多の乳児が犠牲になる設定といい、子供好きには全くおすすめできない話ですね。しかし、『 蝿の王 』 といい、これといい、啓文さんはよっぽど天使キライなのね^^;  『 怖い目 』 が私は一番イヤかも。虫ネタなんだけど、軟体系寄生虫系なんですよね。 「 ひゃくめさま 」 の力によって眼病が治るという信仰のある島( こちらは発祥は江戸よりは古いらしいが土着ではなく、各地から眼病や目の不自由な人が集まってきて構成されている )があり、そこへの入島の儀式として得体の知れない軟体動物や昆虫を生で食わされるというのですね。正体のわかるところで、生のヤツメウナギのぶつ切りに、生きて蠢くナメクジにトンボ…といった具合(>_<) いずれも目に縁があるということだが、ナメクジはちょっと無理がないかな。目が飛び出てるってことなら、せめてカタツムリの方が良くない? まぁ、ナメクジの方が手軽に入手できるし嫌悪感は強いけどね^^; で、そういう儀式の気味悪さ、島民たちの陰湿さ等々あって、結局、「 ひゃくめさま 」 の正体はナメクジなんかを食ったことによって特殊な寄生虫に寄生されて全身が目玉に似たコブだらけになった人間だったというのがオチなんですが、まぁ、とにかく生理的な嫌悪感が強い作品ですね。極度の近視で活字中毒の人間としては、視力を失う恐怖というのも凄く強いですし。現状の極度の近視でもいいですから、目が見えなくなるようなこと ( 世の中から視力矯正具がなくなるとかいう事態も含めて! )がありませんようにと改めて神に祈りました。 『 妄執の獣 』は人間の大人を憎むモミという生き物( 大人によって殺された嬰児の魂が変じた妖怪という説も )が現れ、夜中に子供たちの部屋に訪れて大人を憎むように洗脳していき、大人を殺させようとするというお話です。一番あっさりした感じかな。子供たちが集まって凶悪なことを…という点では、これまた 『 蝿の王 』 を彷彿とさせますね。 『 黄泉津鳥舟 』 はホラーというよりSF寄りですね。 『 異形家の食卓 』 とか 『 銀河帝国の弘法も筆の誤り  』 系。 宇宙船がワープする際に超空間を通過し、それにより人間が精神に異常を来たすということが判明し、様々な研究の結果その超空間とはどうやら「 あの世 」であるらしいということがわかる。そして、ワープ航法を実用化し、宇宙空間を自由に旅行するという人類の欲望はとんでもない結論に達する。超空間を通る際にはそれにふさわしい状態になれば良いというのだ。つまり、そこを通過する際には死んでおくということだ。当時、既に安全確実な蘇生技術は確立されており、この方法は比較的抵抗感なく受け入れられる。更に、あの世側からの侵入を防ぐためには日本の陰陽道の技術を利用した結界が開発され、この空間の通過は完全に安全快適なものとなった。 …という前提だけでも凄い突拍子もない話なのですが、物語は更にとんでもない方向に展開していきます。考えようによっては物凄く純粋で感動的なラブストーリーだったりするのですが、ケータイ小説とか読んで涙してる人は受け入れてくれないんだろうなぁ(笑) そういえば、話の内容は全然違うけど、宇宙空間と妖しの空間が一部干渉し合うところがあって、それを防ぐために宇宙船のクルーは日本の護符のようなものを用いるって話が異形コレクションの 『 未来妖怪 』にあったなぁ( ← 平谷美樹 『 黒いエマージェンシーボックス 』 )。 やっぱり、宇宙空間と妖怪だの心霊だのって親和性がありますよね。最近マンネリ気味の異形もこの巻はなかなか面白かったです。 ( 10月読了分 )