『 明治開化 安吾捕物帖 』 坂口安吾

明治開化  安吾捕物帖 (角川文庫)

 

◆ 明治開化 安吾捕物帖 (角川文庫) 坂口安吾 ¥660

 

評価…★★★☆☆

 

<作品紹介> 文明開化の明治新世相のなかで、次々と起きる謎の奇怪な事件。それにのぞむは、赤坂氷川町の隠宅で自適の日々を送る、幕末の英傑、勝海舟。彼の名(迷?)推理にほだされつつ、事件解決に活躍する紳士探偵、結城新十郎。そして勝手に首を突っ込んでくる、個性様々な仲間たち。独特のユーモアと毒舌のなかに文明批評のわざをピリリときかせながら、卓抜な推理的構成で捕物帖の面白さを堪能させる、安吾の傑作エンタテインメント。  ( 文庫裏表紙紹介文 )

 

一応時代小説に分類しましたが、題名からもお分かりのように捕物帖=推理小説です。 登場人物の設定とか描き方のあっさりとした感じは『半七捕物帖』とかの伝統的な捕物帖に近い感じなのですが、事件の内容やトリックは結構凝ってます。

ただ、「明治開化」というサブタイトルで、しかも、タイトルは作品内容に関係なく作者自身の名前を冠した『安吾捕物帖』というところから漠然と期待していた風俗小説的な部分は私には余り感じられず、歴史上の人物である勝海舟先生は推理も大半的外れだし、一体何のために出てるんだろうという感じでありました。

でも、初版と同じであるらしい文庫本解説(尾崎秀樹!!)を見ると、私とはむしろ真逆の意見なので、時代が違うと、こういう部分でも見る目が変わるものなのだなぁと改めて感心(^_^;)

 

一部で偏愛されがちな作家・坂口安吾の作品であるという先入観は捨てて、気楽に読んでこそ楽しめる作品だと思います。

 

 

 

 

※以下ややネタバレ有り※

 

さきに言ったとおり、風俗小説的な部分は結構あっさりなんですが、推理小説的な部分は意外なほど凝っているというか、犯罪的にも人間関係的にも結構「 えっ? 」と思うくらいどろどろだったり、複雑だったりします(^_^;)

ミステリー的には、現代人でスレた本読みである私などはさほど驚きはしないけど、当時としては結構衝撃の結末って感じだったのではないかしら?という感じ。

書き方はあくまであっさり淡々としていて、登場人物たちの感情表現も薄いんですけど、やってることは驚くほど残酷で利己的というのが多いですね。

同じ題材で江戸川乱歩だの横溝正史だの山田風太郎だのが書いてくれたら、どんなにエログロになるだろうかと思うとちょっと残念な気がするくらい(^_^;)

中でも『 血を見る真珠 』 なんていうのは、そんなにみんな欲望のままに行動するものかなのか? 常識とか良識とか、何ていうか心のストッパーみたいなものがある人はいないのか? あと、女性の人格は? 等々と言いたくなるようなお話で、あまりに極端なので、現代人としては逆に推理がしづらい感じです。

オーストラリア領の小島に航路調査という名目で真珠の密漁に行く船の乗組員と、彼らに雇われた真珠採りの潜水夫と海女の夫婦2組という設定もかつて目にしたことがなく、当時盛んだったという南洋真珠漁の話なども含めて非常に興味深く面白いだけに、事件が何かより一層不可思議な感じがします(*_*)

香山滋の冒険小説を彷彿とさせましたね。あれもめちゃくちゃで面白かったが、何かシュールだった(^_^;)

してみると、やっぱり時代なのかなぁ。

 

時代と言えば、本作もそうなんですが、明治時代の推理物とかってやたらと癩が出てくるんだよね。

人の姿を隠したり、存在を消したりするのに適当な設定であるのとか当時のイメージ的にジャンル作品に似つかわしい気がするのはわかるが、今の目線で読んでいるとちょっと微妙な気持ちになります(~_~)

今の目線で見ると、感動の恋愛ものにしようと思ったら白血病持ってくるみたいなもんで、余りに安易だしな。 (4月16日読了分)  

 

 

怪奇探偵小説名作選〈10〉香山滋集―魔境原人 (ちくま文庫)

 

◆ 怪奇探偵小説名作選〈10〉香山滋集―魔境原人 (ちくま文庫)  ¥1,365  

 

著者はゴジラの原作者としてマニアの間では有名な方です^^  

この頃の怪奇小説、探偵小説、SF小説の類はみんな何か同じにおい(カストリ臭?(笑))が して、変に面白くて私は好きです。  

このシリーズ、多分、今手に入りにくいと思うけど、おすすめです^^