『 パンチョ・ビリャの罠 』 クレイグ・マクドナルド

パンチョ・ビリャの罠 (集英社文庫)

 

◆ パンチョ・ビリャの罠  クレイグ・マクドナルド/訳:池田真紀子 ( 集英社文庫 ) ¥800

 

 

 評価…★★★★☆

 

 

<あらすじ>

物語の始まりは1957年メキシコ・シウダーファレス、、アメリカのとの国境の町だった。

15歳の時に年齢を偽って、ある戦いへ兵士として加わって以降、波瀾万丈の生活を送った後に現在は売れっ子の犯罪小説家となっているヘクターが、駆け出しの詩人バドのロングインタビューを受けている安酒場に、昔なじみの傭兵上がりの山師で詐欺師ウェイドがミイラ化した頭蓋骨を持ち込んできたのだ。

ウェイドが確実な儲け話になるというのも当然、その首は30年ほど前に様々な人間に狙われながらも行方不明になっていたメキシコの英雄パンチョ・ビリャの首だったのだ。

 

その話に乗るとも決めていないうちからヘクターと不幸にもその場にいたバドは、イェール大学の男子学生友愛会フラタニティ)や秘密結社、FBIアメリカの大物上院議員、パンチョ・ビリャ絡みのメキシコの伝説的な悪党連中等々の首の争奪戦に巻き込まれるはめになる。

このバラエティに富んだ面々の共通点は、いずれも目的を達成するためには手段を選ばないことだ。どうせ命が危ないのなら積極的に儲け話を追求することにしたヘクターとバドは、とりあえずメキシコからロスへと向かうことにする。

 

ビリャの首とそれに関わる連中の複雑な関係や陰謀、果ては隠された財宝まで飛び出す一方、ヘクター昔なじみのこちらも大物作家や映画監督、女優などとの人間関係も絡んで、事態は混乱を極めるが、ヘクターとビリャの首の行く末はいかに!?

 

フィクションと実在の人物と史実を織り交ぜたロード・ムービー的でポップなパルプ・ノワール

 

 

 

 

 

 

「 ともかく文学ファンと映画ファンなら、節々で一言コメントしたくなるようなニヤリと楽しめる小説 」 という池上冬樹氏の惹句が微妙に不安だなと思いつつ、本を裏返し、「 エルロイ+ケルアック+コーエン兄弟タランティーノ=クレイグ・マクドナルド? ──── アマゾン・フランス 」 という評で、そんなに期待できないけど、大ハズレということはなく、それなりに楽しめるエンタテインメントなんじゃないかなと思い、購入。

最近アタマというかココロというかが疲れているので、エルロイまで行かないバッタ物程度の方がむしろいいかなという気持ちもあり。

ちなみに言えば、実は私、池上冬樹氏の帯は基本的に疑っってかかります^^;  

「キング絶賛!」よりは信頼感あるけど(^_^;)

キングの悪趣味と違って、池上氏は批評は確かだけど、帯になってると言葉どおりに受け取れないことが多いんですよね。

 

で、結論だけ言えば、意外なほど面白かった。

主人公であるヘクターの設定が複雑で華麗過ぎて何だかよくわからないし、色々と納得できない点があるのと、実在のこれまた華麗な人物達がやたらに出てきて、本筋とはあんまり関係ないドラマを繰り広げるのが、やっぱり何か納得できない上になじまない感じがするんだけど、まぁ、それはそれで面白いと言えば面白いんですよ。

 

ヘクターも含めて登場人物は皆魅力的で、感情移入しやすいんですよね。

とんでもない悪党ホルムダールすら何か憎めない気がする。 若くて美人のアリシアの前でやたら紳士ぶってて、それがまんざら芝居でもない感じなのに、最後には熱くなっちゃって地がでちゃうシーンとか何かかわいい^^;

常識的に言えば、ひどい恥知らずで裏切り者なんだけど、あくまでも自分の欲望に忠実で、自分の信念を貫くところがいいのかもね。

 

 

ただ、そういう風に割り切れず、「だから、ヘクターは何者なの!?」とか「 マレーネ・ディートリッヒはこんなじゃない!」とか「オーソン・ウェルズがぁぁぁ」とか思っちゃう人には、全くダメな作品かと思います(^_^;)

さっきも書いたけど、そもそもこの部分は本作に限って言えば不要なのではないかという気もするしね。

これだけの有名人をこれだけ大勢出すなら、こんながっつりじゃなく、ほんの少し通り過ぎる程度に出した方がいいと思うんだけどなぁ。

実際に御馴染みの人物がさり気なく名前だけ登場してるのを見たときにはにやりとさせられたし。

 

ちなみに、パパ・ブッシュとブッシュはどちらも結構リアルだと思うけど、作者はジョージ・ブッシュを人間的には嫌いじゃないんだなと思った^^;

 

バドの異常なまでの適応能力と目覚しい成長ぶりとかも、私は面白かったけど、リアリティなさ過ぎ!って怒る人もいそう。

でも、タランティーノの映画にリアリティを求めないのと一緒で、ここはなくてもいいんじゃないかなと思うわけ。というか、むしろ過剰な方が面白いんじゃない?って思う。

大体、フラタニティの登場と退場( 大抵は原型をとどめず^^; )とか、ビリャの首の替え玉つくりとか、完全にコメディでしょ。しかもスプラッタ。スプラッタ・スラップスティクス?(笑)

そもそも簡単に人死に過ぎだし、簡単に殺し過ぎだしな。映画向きな作品なんだけど、そういう意味では映画にしたら血みどろ過ぎて引くかも。いや、私は嫌いじゃないんだけどねf^_^;)

 

ただ、その一方で、ちょっと切ないような苦しいような話( ヘクターの妻子の話、アリシアの過去。2人の恋愛。そして、若者には気にならないかもしれないけど、ヘクターの老いと病^^; )があるのが、いいんだけど、これまた馴染まない感じはある。

いっそ割り切って、そういうの全部無しにしてドタバタにしてしまったら?という気もするけど、それじゃ映画見た方がいいよねって感じになるかな。

エルロイまでいかなくていいから、もう少しだけ、その辺をうまく書いてくれるといい作品になるんじゃないかなぁ。

 

あと、舞台の大半がメキシコであり、色んな意味でメキシコという国に非常に重きを置いている話だと思うんだけど、その割には何か全然メキシコ感がないのがちょっと気になる。

普通こういうの読んだら、ああメキシコってこうなんだ!みたいのがあると思うんだけど、全然そういうのなくて、さらっと読んでしまった。ロードムービーっぽいのに、その道は具体的などこかの町のどこかの道じゃなくて単に道って感じなんだよね。

まぁ、大筋に関係ないし何の支障もないとは思うけど、こういうのが作品の深みとか面白みになるのではないかね。

 

色んな材料をこれでもかってほどに詰め込んで、一見豪華で中身がぎゅうぎゅうに詰まってるっていう風に見えるんだけど、実はそれぞれの材料がまだ煮え足りなかったり、味がついてなかったりで、隣の材料とちょっと風味が合わなかったり、隙間ができてたりして、食べてみると見た目ほど満足できないんだけど、それぞれの材料はいいものを使ってるから、全体としてはまぁ、おいしいと言ってもいい料理が仕上がってるって感じかな。

 

 

でも、もう何作か読んでみたいなという気にはさせてくれたし、ヘクター・ヘミングウェイ問題が気になるので、続編が出たらきっと読むと思います^^;

 

 

(4月23日読了分)