『秘密捜査』 ジェイムズ・エルロイ

◆ 秘密捜査 ジェイムズ・エルロイ/小泉 喜美子 訳 (ハヤカワ文庫) \1,029

 評価…★★★☆☆

<作品紹介>

舞台は1951年のロサンゼルス。まもなく27歳になるフレディはロス市警のパトロール警官だ。大学卒で背が高くおまけに美形の彼は、早く昇進して捜査課にうつることを目指しつつ、夜毎の女遊びとゴルフに耽っていた。彼のゴルフの腕前は相当なもので、上司にコーチすることを条件に良い勤務条件をとりつけたり、有力者と知り合いになったりもして、なかなか上手くやっていた。そんな時、パトロール中に遭遇した強盗事件で相棒が犯人に撃たれ殉職してしまう。公私ともにいいコンビだった彼の死に激しいショックを受けたフレディは、相棒を厄介者扱いしていた上司の、その死を利用するような台詞に怒り、今まで抑えていた嫌悪感を露にしてしまう。

その結果、フレディはロス市警管轄の中で最低の地区へと転属させられる。しかし、彼はその環境の中で自らを有利にすべく立ち回っていく。そんなある日、彼が一夜を過ごしたことのあるマギーという女が殺されたという記事を目にする。マギーはちょっと変わった雰囲気があり言動も普通ではないところがあった。その死が単なる強盗とはとても思えなかったフレディは独自に捜査を開始する。やがて、彼が目星をつけたエディという人物によるマギー殺害の確実な証拠をつかんだ上に、他の事件との関わりも見えてきたフレディは、違法捜査を承知でそのことを上司に報告する。フレディはマギーの仇をとりたいと思うと同時に、この件を自分の出世の手づるにしようとしようとしていたのだ。

そして、望み通り捜査課に移ったフレディは、そこの名物刑事ダドリイ・スミスと共に事件を解決する。ダドリイは何かと問題の多い人物で、違法な行動をあれこれした上に、この功績を自分のものにしようとしていたが、フレディは恋人になったばかりの検事・ローナの協力を得て上手く立ち回る。そして、フレディは一躍世間の脚光を浴びるが、それはほんの束の間だった。エディの無実を証明する有力な証人が現われたのだ。ここから全てが崩れていき、ダドリイの悪質な画策もあり、結局フレディは退職に追い込まれ、協力したローナも職を辞することになる。

失意の中にありながらも愛情あふれるローナとフレディの生活が始まる。しかし、定職につかないフレディのせいでやがて関係はきしみ始める。事件から4年後、ローナとの破局を目前にしたある日、フレディはとある新聞記事に目を留める。その殺人事件の記事を見た時から4年前のフレディが蘇ってきた。突然の閃きから、彼の転落を招いたあの事件の真相の糸口をつかんだフレディは独自に捜査を始め、やがて驚くべき真相へと到達することになる。


エルロイの文庫作品で取りこぼしがあるとは思わなかったなぁ。訳者あとがきによると本書が本邦初登場作品だったらしいからムリもないか。ちなみにデビュー後2作目だそうです。こういうことがあるから本屋巡りはやめられません^^;

毎度おなじみロス市警が舞台で、ダドリイおじさんも出てくるし、ブラック・ダリア事件にも触れられているけど、LA四部作やホプキンズシリーズとは随分雰囲気が違いますね。まだパルプノワールに至ってなくて、警察小説が入ってる普通のミステリって感じです。最初の方は各エピソードが何の脈絡もなく書かれてる感じで、ちょっと戸惑いますが、これはエルロイらしいといえばらしいかな。まだ洗練されていないだけなんでしょうね。登場人物がむやみに心に傷を負ってるのもおなじみの設定とも言えるか。ただ、フレディとローナの関係が何だかなぁって感じなんですよね。お互いが恋に落ちる理由がよくわからない。フレディの側はまだ納得してもいいけど。

あと、翻訳のせいでローナが何か変な感じなんですよね。言葉遣いが不自然な感じなのが魅力を減じているんです。特に「 わたくし 」という一人称が凄い違和感。自分は原文読めないくせに訳文に文句つけることは余りしたくないんですが、この作品の翻訳は全体的にちょっと頂けないですねぇ。訳者自身もあとがきで、「大骨折りをした」「泣かされた」とし、「原文の味をあえてそこなわない努力もしたつもり」と述べてはおられますが、その努力は残念ながら結実してないと言わざるを得ないですね。訳者は作家でもある大ベテランで、語学力や文章力に問題はない筈だから、単にエルロイと合わなかったってことなのでしょうか。うーむ。お互いにとって残念なことですね(-"-;)

※以下ネタバレ有り※

さて、肝心なストーリーはというと、これがなかなか良い出来なんです。ミステリやサスペンス紹介の常套句である「驚くべき真相」は本作においては掛け値なしの事実です。本当に驚けます(笑)

前半のいわゆる警察小説+ミステリ部分は、いつもの感じにちょっと青春風味を加えた感じでそれなりの面白さなんですが、後半の警察を辞めて4年も経ってから始まる真相究明とその真相が面白い。普通なら想像し得ないような結末なんですが、ほんのわずかなひっかかりを辿っていき、そこからわかってきたことや推理できることを更に辿っていき、やがて、そこに至る頃には読者の側も見当はつくようになっています。

しかし、ロサンゼルスの殺人事件の真相を追っていったら、ウィスコンシン州の片田舎の二つの家庭の確執に辿り着くとは思いませんでしたねぇ。そこで、フレディが事件の真相を再度究明するきっかけになった事件の被害者であったマーセラが、どのような成長をし、変化を遂げ、事件を自ら招くような状況に足を踏み入れてしまうのかが描かれるわけですが 、この部分がちょっと独立した話を読んでるような面白さなんです。ここまで書いてきて自分の説明下手に嫌気が差してきたので、詳細は割愛させて頂きますが(T_T)

しかし、マーセラは魅力ある女性というよりは烈女、猛女という印象の方が強いですが、その彼女をベタ惚れさせたドク(ちなみにこいつが犯人)は確かになんとも魅力的ではあります。ひどいヤツですけどね。

(10月下旬読了分)