『 モンスター 』 百田 尚樹

モンスター (幻冬舎文庫)

 

◆ モンスター 百田 尚樹 ( 幻冬舎文庫 ) ¥760

 

 評価…★★☆☆☆

 

<作品紹介>

田舎町で瀟洒なレストランを経営する絶世の美女・未帆。彼女の顔はかつて畸形的なまでに醜かった。周囲からバケモノ扱いされる悲惨な日々。思い悩んだ末にある事件を起こし、町を追われた未帆は、整形手術に目覚め、莫大な金額をかけ完璧な美人に変身を遂げる。そのとき亡霊のように甦ってきたのは、ひとりの男への、狂おしいまでの情念だった─────。

( 文庫裏表紙紹介文 )

 

 

いつものように細かいことを言うようですが、このあらすじちょっと変。

事件を起こして故郷を出たのは確かですが、醜さを思い悩んだ末に起こしたわけじゃないし、それで町を追われたわけではない。

このあらすじ読むと一体どんな事件なんだろうって期待するけど、全然チンケな事件で、そんなに有名になるようなものでもなく、ましてや伝説になって残るようなものでもないです。

 

 

 

 

 

 

読後の感想を一言で言うと 「 陳腐 」 ですね。これに尽きる。

 

私は作者の他の作品を読んだことがないのですが、最近流行ってる人だよな、しかも、それらは確かボクシングもの、太平洋戦争ものっていう異質のジャンルだったよねというくらいは知っていて、それで今回は整形美人か…と、結構期待して読んだのですが、それを差し引いても、ええ?これ? って感じ。

帯の惹句の 「 『 美 』 の価値観を根底から覆す最大の問題作 」 っていうのは、端から疑ってた( そもそも「『 美 』 の価値観 」 てのは何だよ… )けど、それでもなぁ…。

 

まぁ、扇情的な題材で極端な話なので、不満を感じながらもそこそこ面白くは読んだ( つまりテレビのバラエティ番組を下らねぇと思いながらも最後まで見てしまったような感じだと思ってください^^; )ので★は一応2つにしたけど、作品の出来とかいう意味でいったら★1つじゃないかな。

繰り返すけど、あまりにも陳腐だ。

 

単に陰気で冴えないブスといった程度から本書のような畸形的な不細工まで、程度の差こそあれ、不美人が整形して絶世の美女となるというテーマの作品は結構あると思うんですが、展開も結論も結局みんな同じなんだよね。

体で整形費用を稼いで、どんどん美しくなっていき、その過程で、仕事もプライベートも含め様々な男と出会うが、男は結局みんな同じとか、男女含めて見た目で扱いが全く変わるとか、見た目がどうあるかで本人の人間性も変わるとかさ、そんなのみんな大昔から知ってるつーの。

経験的にも知ってるし、フィクションでもさんざん目にしてるよ。

 

で、これを女性が書いていたら、まだ読み方も違ってくるかもしれないんだけど、作者が男性なので、何今さらこんなこと得々と書いてんだ、バカとかつい思っちゃって、作者が物凄く薄っぺらい人間であるかのような気すらしてきて、他のダメな部分についても物凄く厳しく評価をし始めてしまって、もうほんとダメですねf^_^;)

普段はご都合主義なんかはもう少し生温かい目で見るんだけど、そのダメさを補う部分がないからさ。

まぁ、まだ人生経験の少ない若年層とか、大人だけど今までそんなこと考えたこともなかったっていう素朴で純粋な方々(笑)が読んだら凄く面白くて、衝撃作なのかもしれませんが。

 

 

※以下ネタバレ有り※

 

 

 

とにかく、その薄っぺらな美醜の問題を除いて何が言いたいのかを考えたときに、一応もう1つ柱になるのが、ヒロインの恋愛というか執着というかなんだけど、これも何だかなぁと。

つまり、恋愛とは幻想と思い込みであるということを言いたいにしては微妙なんだよね。

結局ただ1つの恋のために生きて、恋のために死んだヒロインが幸せだったのかどうかと言えば間違いなく幸せだったと思うのだよ。最後に皮肉なエピローグつけてるけど、別に本人は知らないんだしさ。

でも、もちろんこれを凄く哀れだとか不幸だと思う人もいるとは思うんだよね。

 

そうそう、だからヒロインが最高に幸せな状態で死ねるので、実はこれは物凄くハッピーエンドなんですよ。これを皮肉ととる必要は別にないわけ。

だって、人の幸せなんて主観で違うわけだから、結局のところ思い込みでしょう。だから、それが傍から見たら砂上の楼閣であっても別に本人が良しとするのならばいいわけですよ。

でも、そう言いたいわけでもないみたいだしな。

 

ちなみに、私はこの結末を読んで、これは最高に幸せな最期だなと思うと同時に、女バカにすんなよとも思いましたね。

つーか、要するに作品自体がそもそも女をバカにしてるように思うんだよね。

男は女の見かけに全てを左右される愚かな生き物だといいながら、女はその男に全てを左右されるってことを言ってるわけだもん。

あと、何だかんだ言って、ヒロインも男を見かけで選んでるんだよなとか。

 

まぁ、この辺、追求するとめんどくさくなるのでやめときますが。

 

たださぁ、十分過ぎるほどの美しさも金も手に入れた女が結局初恋の男を忘れられず、その男と恋愛するために全てを投げ出すような計画を立てるとか、幾ら余命わずかとわかったからといっても、ちょっと有り得ないと思うんだよね。復讐のためにというならわかるけどさ。

初恋の相手をどうこうとか、成功してから、かつて手に入らなかったものを何とかしようっていうのは男の発想じゃないのかね?

 

あと、ヒロインの執着する英介くんが高校生のときに株で大儲けするエピソードの必要性が全くわからん。細かいとこで、これいるかってエピソードいっぱいあるけど、これが一番意味不明だ。

英介はほっといてもモテる男なんだから、美女をとっかえひっかえした理由にこんな極端なエピソードいらないだろうし。

 

本作に出てくる人物は、ヒロインを初めとして皆さん薄っぺらくて、全く魅力がないんだけど、唯一ヒロインが最初に勤めたヘルスの店長であった崎村だけは、全体を通して人間的に魅力を感じるなと思ってたんだが、彼が最後にヒロインに求婚するのは、いい話ではあるが、決してヒロインを愛してるからではないよなぁと思う。

老後を1人で過ごすのが寂しかったのと同時に、昔馴染みの狂える哀れな女を救ってやって、いいことした気分になりたかっただけじゃないのかな。

あ、そうか。人はこれを愛と言うのだったなf^_^;)

 

 

あと、本筋には関係ないんだけど、作中で 「 小股の切れ上がったいい女 」 というときの 「 小股 」 とは口角のこと、つまり、いい女は少し笑ったように見える口の形をしているという珍説が披露されているんだけど、これ、一体どこから拾ってきたんだろう???

確かに、小股とは体のこの部分ですっていう定説はないというけど、私、いまだかつて、そんな珍妙な説を聞いたことがないです。 股から口っていくらなんでも飛びすぎじゃねぇか? 一体どうやって結びつけるの???

ちなみに、一般的に言われる小股は足指の股 ( 特に鼻緒を挟む指の股 ) を指すのが多分最も多くて、あとは脚のつけ根とかダイレクトに股のどこやらとかいう説が多いみたいです。やはり、股だけあって、当然ながら下半身に集中しております^^;

上半身では唯一襟足というのを聞いたことがあるが、これは「 足 」 と形容される部分でもあるし、形状的にも「 股 」 につながるのはわかるよね。

 

 

しかし、陳腐と言い放つ作品にこれだけ長々と感想を書くあたり、やはり美醜の問題というのは女の心に深く引っかかるものであるのだなぁ、なんてな(^_^;)

私、昔からどうでもいいことに限って勢いでだらだら書き付ける傾向にあるんだよな。

ほんとに書きたいことや書くべきことはちっとも書けないのにな。

 

( 4月26日読了分 )