『 壊れるもの 』 福澤 徹三

壊れるもの

 

◆  壊れるもの 福澤 徹三 (幻冬舎文庫) ¥630

 

 評価……★★★☆☆

 

<あらすじ> 42歳の西川は大手百貨店に勤めている。入社当時は売上げ日本一といわれた百貨店だったが、バブルがはじけた今となっては経営に陰りが見え会社も自分も将来はかなり不安な上に、上司や同僚はバブルを引きずったような無能で自分の利だけに敏いイヤミな奴ばかりだ。仕事もやりがいがあるとは言えない。しかし、世間的に見れば一流企業でそこそこ悪くない給料がもらえる生活に特に不満を感じたことはなかった。ことに念願の一戸建てを手に入れた今となっては、ローンを返すまでは何があっても働き続けねばならない。

半年前に手に入れたその家は、中古ではあるが高級住宅地と言える場所にあり、妻も娘も大いに気に入っていた。思春期に入ってから妙に反抗的になったとは言え、やはり娘はかわいいし、年齢を重ねても、まだ人目をひく程度の美貌とスタイルを保っている妻もそれなりに愛しくはあった。ぬるい幸福感に形にはならない程度の不満と不安が混ざっているような日々が、このまま定年まで続いていくのだろうと西川は漠然と思っていた。

しかし、そんな西川の日常に突然綻びが生じ始める。最初は目に見えないような亀裂だったそれは、やがて現実の世界に大きく食い込み始める。妻の不審な行動、会社での何者かによる陰謀、体調不良、家の近所で目にする不可解な光景。

「 その土地はイミチだった 」という言葉が、やがて西川の過去のおぞましい記憶と結びついた時、現実も彼の精神も崩れ落ちていく。

 

 

※以下ネタバレ有り※

 

 

うーん、これってサイコホラーか? っていうかホラーなのか? 確かにある種の恐怖を描いてはいて、それは人によってはかなり身に沁みてコワいものだとは思いますが、サイコホラー的に精神的に追い詰められるという感じではないしねぇ。 そして、その西川の現実生活の崩壊のリアルさと恐ろしさに比べて、いわゆるホラー要素である「 イミチ(忌み地)」 と 「 ドリームハウス 」 のくだりは何だかなぁって感じなんですよね。忌み地については、最後まで説明されたのかどうかもよくわからない程度だし、ドリームハウスについてはオチが読みやす過ぎるし。そこに至るまでが非常に面白かっただけに最後の方はちょっと呆気にとられる感じでありました(*_*)

あ、でも西川が妻を殺すシーンは良かったですね。これはまだ現実の範疇だからなんだろうな。以下にちょっと引用。 英雄は陽子の上に覆いかぶさって、渾身の力でネクタイをひく。 「 ありがとう。もういいんだよ 」 胸の下で、もがき続ける陽子に囁いた。どうしてそんな言葉がでてくるのかわからない。たまらなく切ないものがこみあげて、夢中で繰り返した。 「 ありがとう。もういいんだよ、もういいんだよ 」 殺しながら自分でもわけもわからず 「 ありがとう。もういいんだよ 」 って繰り返すところが妙にリアルな感じで怖いのです。現実の殺人犯もこういうことを言っていそうな気がしますね。

 

まぁ、多分、本作のメインは超自然的な怖さではなくて現実的な怖さの方なんでしょうね。その狙いは解説の人選からも伺えますし(選ばれた当人もそう言っているし)。 とはいえ、ホラーファンとしては消化不良感がありますよねぇ(T_T) 

そもそも「 イミチ(忌み地)」 と 「 ドリームハウス 」のふたつの物語が必要だったのでしょうか?どちらかひとつでよかったのでは?  いずれの要素も話の展開のためには必要ではあると思いますが、キイワードはひとつでいいと思うんですよねぇ。

 

……と、読後の拍子抜け感から、つい批判的な感じに傾いてしまいましたが、その難点を差し引いても面白い小説ではあると思います。ラストもかなり嫌な感じでいい感じ(笑)ですし。ともかく、凄く筆力のある人だなぁと再認識しました。いわゆるホラーとしてはちょっとどうかなと思いますが、コワい話、嫌な話としては素晴らしい出来です。中年以上の、会社勤め経験のある方に特にお勧め^^;