『アヒルと鴨のコインロッカー』 伊坂 幸太郎

(4/28読了)

 

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

 

◆ アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)  伊坂 幸太郎 ) ¥680

 

  評価…★★★☆☆

 

<内容紹介>

気づけば僕はモデルガンを握り、ボブ・ディランの『風に吹かれて』を口ずさみつつ、書店の裏口を見張っていた。何故そんなことになったのかの理由は判然としないが、何のためにそうしているかは一応明確だ。それは河崎が広辞苑を奪うために書店を襲う手助けをするためだ。そして、僕と河崎は二日前に同じアパートの住人として出会ったばかりだった。

 

悪魔めいた風貌で謎めいた言動をする河崎と出会ってから、僕のまわりは妙なことばかりだ。そのうち、ひょんなきっかけから僕は河崎に大きな秘密があるらしいことに気づく。

 

「僕」が主体の現在と「わたし(琴美)」が主体の二年前の話とが交互に語られ、段々と河崎の持つ物語が明らかになってくる。そして、全てが明らかになった時、河崎は僕にこう言った。「神様を閉じ込めに行かないか?」。はじめて会った時に「一緒に本屋を襲わないか?」と言ったのと同じ調子で。

 

 ※以下ネタバレ有り

 

 

 

うーん、こういう構造の話ってあらすじがうまく書けない…。しかし、考えてみると伊坂さんはこういう重層構造の話が好きだよね。

 

 

さて、本作品はお話としては今までの伊坂作品の中では一番感心しなかったかもしれません。河崎がドルジだったというオチは結構びっくりだけど、意外と予想できないでもないんだよね。しかし、まぁ、それはいい。大筋としてはいつものようによくできたお話だと思う。でも、所々にこれはないんじゃって違和感を感じるところがあって。

 

随一は本家・河崎の自殺。「ようするにさ、授かった能力は使わなくちゃ駄目だってことなんだ。俺は見てのとおり外見に恵まれた。それなら、この世の女という女に声をかけて、可能な限りセックスをするべきだ。そう思わないか?」なんてことを堂々と言って、その美貌だけではない天性の魅力で実際に手当たり次第に女性と懇ろになる彼のことを私はかなり気に入ってたのだけど、彼のエイズが発覚した辺りであれーって感じがするんだよね。

普段の洒脱な言動に似合わないというのもあるけど、何よりもエイズに限らず性感染症ってものが存在するということは明らかなんだから、余り一般的でない自分の行動に普通の人以上のリスクが伴うことくらいは覚悟しとけよとか思っちゃうし。

 

で、自殺の理由が付き合ってたことのある女の子がエイズで死んだからって、はぁー?って感じですよ。うつしたうつされた云々はおいといても死ぬことはないと思うし、何よりもドルジと一緒に計画してた琴美ちゃんの復讐計画を実行する前に死ぬな!と声を大にして言いたい。しかし、作中で麗子さんも怒ってたから、作者は敢えてそうさせたわけですよね。うーん…。

でも、実に魅力的な青年だなぁと思ってたのに、最終的に単に口がうまくて女好きで自己管理ができてない心の弱いダメ男(言い過ぎ?)みたいになってしまったのは残念です。それがリアルな人間の姿と言えばそうかもしれないけど、彼は全然リアルじゃない存在だったわけだしねぇ…。

 

次はペット殺しの連中が何かとってつけたような感じがすること。伊坂作品に全くそぐわない設定のヤツラだからかなぁ。会話も存在も妙に嘘っぽいというか。動機なき犯罪にしても何かしっくりこない。これがちょっと作品を薄っぺらくしてる感あるかも。これに関わって起こってしまう琴美ちゃんの死も、そのせいでなのか何か微妙な感じだし。かなり最初から彼女は死ぬんだろうなとは思ってたけど、あんな死に方か?って。

 

あと、現在の数多くの出来事が二年前に琴美ちゃんが発した台詞を踏まえてるみたいなんだけど、そこが私は逆にうっとうしい感じがした。早い段階で気づいちゃったからかなぁ。話の展開もそれで相当読めちゃうし、ちょっとどうかと思った。復讐の手口から最後のコインロッカーのくだりまで予言されてるんだもん。

 

 

……と、大好きな伊坂作品なのに文句めいたことばかり言ってしまいましたが、もちろんこの作品にもこの作品ならではの魅力はあります。

特に今回の題名は出色ではないでしょうか。この奇妙だけど魅力ある題名が読了後ちゃんと腑に落ちるって素晴らしい。そして、その元になってる「アヒルと鴨」のくだりもいい。日本人と他のアジア人の違いとか説明する時に使えそうだよね。

 

それとこの中で紹介されているブータンは非常に魅力的です。男女関係に大らかで一夫多妻も一妻多夫もあり、家の財産は女が継ぐ。そして、かなりのんびりした輪廻転生と因果応報(例えば今したことは来世で返ってくるかもしれない、とか)の思想に基づいて大らかに暮らしている。「生まれ変わりの長い人生の中でたまたま出会ったんだ。少しの間くらいは仲良くやろうじゃないか」と考え、祈る時には他人のことも祈る。自分がその国にふさわしいかどうかは別として、ちょっと住みたくなりますね。

 

その他細かい表現とかで素敵だなぁと思うところはたくさんあるのですが、私が最も気に入ってるのは動物園からレッサーパンダを盗み出すことに成功する姉弟!本筋には余り関係ないけど(笑) 

2年前には失敗したけどその後も研鑽を重ね(?)、現在になってとうとう成功するんですよ。これは全然現実的ではないけど、個人的には夢のあるいいお話なのです^^;   私もレッサーパンダ飼いたい…。