『 囁く谺 』 ミネット・ウォルターズ

囁く谺 (創元推理文庫)

 

◆ 囁く谺  ミネット・ウォルターズ/訳:成川裕子 ( 創元推理文庫 ) ¥1,155

 

 

 評価…★★★☆☆

 

<作品紹介>

6月のある日、ロンドンの高級住宅街の一角で、浮浪者が餓死しているのが発見された。それだけでもちょっとしたニュースだが、このニュースに更なる彩りを添えたのは、そのガレージの持ち主である女性が、放っておいても国の費用で問題なく賄われるはずのその浮浪者の葬儀代を自ら申し出て負担し、葬儀にも参列したということだった。

 

事件から6ヶ月後、貧困とホームレスに関する特集の中のアイキャッチにすべく、発見者の女性・アマンダもとへ取材に訪れた雑誌記者のディーコンは、彼女から意外な話を聞かされる。彼は自ら餓死を選んだに違いないというのだ。だが、それよりも不可解なのは、裕福で美しく、しかも知的で自立した女性だが、かなり冷たい感じのする彼女が、自宅のガレージに勝手に入り込んで死んだ浮浪者という迷惑極まりない存在でしかあり得ないような男に強い関心を抱いていることだった。事件発生時にもできる限りマスコミを避けていた彼女が、事件後半年も経ってから、しかも自分にも事件にも直接関係のないようなこの取材を受けるのを了承したのも、すべてビリーの死の真相を明らかにしたいためだというのだ。

 

2人の間にとても接点があるようには思えないが、一般的な同情心に駆り立てられての行動にしては少々度を越している。興味を引かれたディーコンは、この浮浪者の素性を調べ始める。すると、このビリーと名乗る浮浪者が思いのほかに興味深い人物であることがわかってくると同時に、発見者であるアマンダにも思いがけない過去とそれにまつわる事情があることがわかってきた。

 

果たして浮浪者の正体は? そして、2人の人生はどこかで交錯していたのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

このところ立て続けに読んできた作者の作品の中ではいまいちかなぁ。

 

登場人物は脇役に至るまで、皆なかなかに魅力的 ( これは必ずしも好感が持てるという意味ではありません^^; ) で、筋立ても凝ってるし、読んでいて面白いことは面白いんだけど、読み終わってから、ええ?って感じになる。

全体的にとっちらかってる感じなんだよね。

それは、さきに挙げた良い点2つが悪く作用しているとも言えるけど。

 

あと、今までの作品と違って、完全に男性主人公だけの目線で話が進んでるのも敗因かも。

女性キャラが強烈なのに定評がある( 私の中でね^^; )作者なのに、本作にはヒロインになる女性がいないんですよね。

一応、アマンダがそういう位置づけといえなくもないし、彼女は、後に明らかになる行動面からするとかなり強烈なキャラではあると思われるんだけど、様々に疑われていて話のキーになるという役柄上、心理描写とかが全くできないので、キャラクターの掘り下げようがないんですよね。

 

おかげで、本作には直接的な恋愛模様の類が全く出てこなくて、私の好みからすると大変に爽快なのですが、その分やはり人間関係が浅い感じになり、利害関係や隠し事なども減るため、緊迫感のようなものがなくなり、全体的にダレた感じになるのは否めないんですね。

 

氷の家 (創元推理文庫) 』 の警察官と容疑者的位置の女性の唐突な恋愛的事態 ( 変な表現ですが、いろいろと複雑なのです^^; ) には呆れて、少々げんなりはしましたが、やはり、あれあるが故の場の緊迫感とかは凄いんですよね。

まぁ、あの作品は設定自体がちょっと特殊で、それ故の緊迫感が元々かなりあるから、単純比較するのはフェアじゃないですが。

 

うーん、やっぱりダメポイントは強烈なキャラクターの不足かな。

さっき女性キャラが弱いってことを書いたけど、考えてみれば、別に男性で強烈なキャラクターがいればそれはそれで納得したかもだし。みんなそれぞれに魅力的というのは、裏を返せば、そこそこの魅力しかないということかも。

 

 

※以下ネタバレ有り※

 

 

 

あと、その魅力的なキャラクターが生かし切れてないんだよね。

主人公がいまいちなのは意外とよくある話だし、しようがないにしても、負の魅力満載 ( 嫌悪する方でのマザコン、自覚はあるが行動できず抑圧しているゲイ、ルックス残念、コミュニケーション不全気味、でも、専門分野での能力は抜群だし、妙に憎めない ) のバリーと正の魅力満載 ( 暗い過去を持つ天涯孤独の美少年( 美は言い過ぎ? )、まともな教育を受けていないが頭がよく、芸術的な才能を持ち、天性の愛嬌と抜群のコミュニケーション能力を持つ ) のテリーのどちらもこれという活躍もオチも詳細な説明もないまま終わるっていうのは、やっぱりダメなんじゃないでしょうか。

どうでもいいけど、今書いて気付いたが、この2人の名前は韻を踏んでるんだな。やっぱり対になる存在なのかしら(^_^;)

私は、バリーには思い切って母親を殺して欲しいなと思ったりもしたけど、そんな不幸にしてもかわいそうだし、やっぱりテリーの出生の秘密とか、そういう系で欲しかったね。

 

それと筋立てが複雑な割には、オチは、ああそうって感じなところもいまいちポイントでしょうか。

それぞれに深い話ではあるんだが、それが複数あるということと、全てが推測でしかないところが、感動を薄めるんですね。

しかし、この人、少女性愛者好きだよな。まぁ、この人に限らず同じネタを繰り返し書く人は多いけどさ。

ちなみに、特に説明なかった( よね?)けど、南ア・ケープタウンの謎の女性ミセフ・メトカーフはマリアン・フィルバートなのよね? こんなに愛されてるんなら、ジェームズ・ストリーターは、そんなに悪い奴じゃなかったのかなって思ったりしたが、これも余分と言えば余分だよね。

本作が重版もかからず、店頭にもネットにも在庫がないわけが頷けたわ。

 

でも、基本的にミネット・ウォルターズって、何か日本市場での評価低い感じですよね。大型書店でも最新刊以外ほとんど店頭にないし、重版もほとんどかかってない。

実際、私もうっかりこの歳まで見逃していたわけだが、文句なしに面白いし、日本人好みの作品だと思うんだけどなぁ。まぁ、そもそも創元社なのがいかんのかな。同じ作品でも文春や講談社の海外文庫で出るのと創元文庫で出るのでは、きっと全然売れ行き違うんだろうなぁ。いや、私は大好きなんですけどね、創元社。推理もSFも。もっと本屋に置かれるようになって欲しいものです。

 

 

( 4月28日読了分 )