『 屋烏 』 乙川 優三郎 

屋烏 (講談社文庫)

◆ 屋烏 (講談社文庫) ¥520

 評価…★★★★☆

 <作品紹介>
揺枝( ゆえ )が16の歳に勘定奉行の父は政変に巻き込まれ横死を遂げた。母はその5年前に既に他界し、跡目を継ぐ長男である弟はわずか8歳。他に家族もない以上、実質的な当主の役目を果たすのは揺枝しかいなかった。
本来であれば娘として花開き、婚期を迎えようとする年頃の揺枝は一家の主として、そして弟の父ともなり、母ともなり、わき目も振らず働き続けた。そして、その努力の甲斐あって弟が一人前の御役について家禄も父の時代に復し、妻も迎えることができた。
しかし、ようやく肩の荷が下りたと思ったその時には揺枝は28歳になっていた。

弟夫婦は姉に深く感謝をしており何くれとなく気を遣ってくれてはいるが、揺枝自身が明らかに邪魔者となった己の存在が気詰まりで仕方が無い。若さを失い、自分の幸せを得ることができなかったことはもはやあきらめがついており、自活の道も持っており、家を出ることに何の問題もないが、弟夫婦が邪魔者を追い出したと世間に噂されるのではないかということだけが気がかりで、揺枝はあと一歩を踏み出せないままに日々を過ごしていた。

そんなある日、揺枝はふとしたことから父が横死した時に味方となって斬り合ったという宮田に出会う。その時に出来たという大きな刀傷を顔に残す宮田は、その容貌に加えて優れた剣の腕がありながら不遇であるという立場故か、粗暴な振る舞いが多いというような悪い噂が絶えなかった。
しかし、揺枝には宮田はとてもそんな人物だとは思えなかった。現に小雨の中で下駄の鼻緒を切って困っている揺枝に宮田は親切にしてくれ、爽やかな印象を残して去っていったのだ。
身分も低く、その直後にも更に悪い噂が流れた宮田を、世間はもちろん弟も悪く言うが、揺枝は自分の見たものと判断を信じる。
そして、宮田へのほのかな想いを胸に抱き、それが成就するのではという淡い期待をも抱いていた時に思いもかけないことが起こる。それは…( 表題作 )

ほか、『 禿松 』 、 『 竹の春 』 、『 病葉 』 、『 穴惑い 』の全5篇を収録。





著者にしては珍しく全体的にほのぼのした終わり方の話が多いです。
割り切れなかったり納得できなかったりするところもあるけど、まぁ全体的にはOKじゃない?みたいな^^;  
愛し合って結ばれたわけではないけど、幾年月かを夫婦として暮らしたことにより生まれた情愛により…みたいな話が多いのがちょい微妙だけど、この時代にはそういうのがリアルなんだろうなぁ。まぁ、考えてみれば、昭和中期までくらいはそんな感じだったという気もしますな^^;

いずれも、そんな大事件が起こるわけでもない ( いや、それなりの事件はあるんだけど、余り切迫感がないのだな ) し、激しい感情のやりとりがあったりするわけでもない、物語性が余りない感じのお話ばかり。でも、面白く読めるし読後感もいい。たまにはこういう作品集もいいですね^^  
なので評価はやや甘め^^;

表題作は完全にハッピーエンドで、みんないい人で揉め事らしい揉め事もないという。
しかし、裏表紙の紹介文にかなりの嘘があるんですよね。「 ならず者 」 っていうのは全然違う存在だろう(-"-;)  
宮田は顔に傷があって良からぬ噂があるだけで、実際は誠に礼儀正しいし、ちゃんと御役にもついてるし、非の打ち所のない立派な武士ですよ。
いい歳の武家娘とならず者の恋愛ですって!? と、わくわくして手にとった私としては相当に納得できないのですが、まぁ、いい話だったので勘弁しといてやります。

( 09.11読了分 )