『 浜町河岸の生き神様―縮尻鏡三郎 』 佐藤 雅美

◆ 浜町河岸の生き神様―縮尻鏡三郎  佐藤 雅美 ( 文春文庫 ) \610  評価…★★★☆☆       <作品紹介> 一番札をお持ちの方」佐吉の声で拝郷鏡三郎の一日の仕事が始まる。元は勘定方だった鏡三郎は、政争に巻き込まれていわゆる縮尻御家人となり、いまや八丁堀近くの「大番屋」の元締。欲と欲とが突っ張り合う金公事から、夫婦の揉め事、心中死体の後始末までよろず相談事が持ち込まれる。 人気シリーズ第三弾。 ( 文庫裏表紙紹介文 )
縮尻鏡三郎 』が長編小説としてきれいにまとまっている感があったし、すぐに続編が出ることもなかったので、昨年 『 首を斬られにきたの御番所―縮尻鏡三郎 』 が出た時はどうなんだろうと思いましたね。というか、正直、これはシリーズ化すべきではないんじゃないのかと思いました。 で、実際に読んでもいまいちだったのですよ、二作目は。時間が経っていたこともあって、何か違和感が大きくて。あのスケールの大きな話から急にチマチマした話になるのが馴染めないし、鏡三郎の娘夫婦のあれこれや、鏡三郎とおりんの再婚とかの話が個人的に好きでなくて。しかし、三作目となる本作はなかなかよろしかったです。結局、こちらの気持ちの問題なのかしら。でも、鏡三郎の娘夫婦の設定には相変わらず違和感が拭えないけど。いくら何でもちょっと型破り過ぎはしないかな(-"-;) と、まぁ、そういう登場人物に対する思い入れなどを別にして話だけで見れば、本書はなかなかのものでした。ネタも構成もバリエーションに富んでいるし捻りが効いている。視点がちょっと普通の時代小説と違うんですよね。さすが佐藤雅美って感じです。まぁ、鏡三郎は佐藤作品には珍しくダメ男ではないし女にもモテるんですが(笑) ※以下ネタバレ有り※ 本書で一番感心したのは 『 お構い者の行く末 』 かな。面白いというより、その構成に呆然としました。あれだけネタを詰め込んでおいて、真実は明らかにされず推測だけで終わるなんて! しかも、その推測も世間話の範疇ですよ。以下、めいっぱいネタバレで内容紹介しますね。 鏡三郎の友人の羽鳥誠十郎にお構い者だったという人物を紹介されるのですが、それが鏡三郎が縮尻御家人になる原因になった事件で遠島になった人物の息子で、お構い者となったのも父親の巻き添えだったということがわかるのですね。そして、羽鳥とは浅からぬ縁であるらしいその男について、鏡三郎はもうひとつ関わりというか情報を持っていた。それは、その男が自分の妻子を殺害したのではないかという容疑をかけられていたということ。そして、当人と会って話した印象からも、その他の情報からも、心証は限りなくクロに近く、確認したところ羽鳥も同意見だった。しかし、この奇妙な縁のある三人での会食があった後に起こった呉服屋一家殺害事件で更なる真相が明らかになってくる。 で、一連の情報から鏡三郎は男は妻子を殺してはおらず、今回の事件は真の下手人に対する復讐であったという推理をするのですが、羽鳥は妻子を殺したのも彼で、今回の殺人は逆恨みに近いものではないかという何とも陰惨な推理をするんですね。親しい相手が言うんだからこちらの方が真実に近いのかもしれないけどひどい。そして、こんな推理をしておいて特に何をするでもなく、蕎麦屋に呑みに行くふたり。ほんと、何だこれって感じでした。 これに続く 『 思い立ったが吉日 』 も、かなり何だこれってお話。こちらは逆に不自然なくらい、いい人ばかり出て来て、取り立てて事件があるわけではないんですが、妙なめぐり合わせで全員が微妙に不幸になるんですよね。 いや、それなりに幸せなんじゃないか、あるいはこの方がみんな幸せになるんじゃないかという見方もあるけど、やっぱり、不自然な展開から現在に至った割り切れなさみたいなのは残るんじゃないかと思うんですよねぇ。ああ、直接的ではないけど全ての原因となった感がある茂兵衛だけは幸せか。大昔のちょっとした恩義で大金をせしめた上に、今も恩人扱いだもんね。空気読めとか言うことがしきりに言われる昨今ですが、実際はKYな方が人生は幸せなのではないかと改めて思いましたね。KYで、自己評価が不当なほど高く、他人に気を使わない人は多分天下無敵だと思うんですよねぇ。 …と、話が逸れてきたので、この辺で感想も終了しましょう^^;