西村寿行氏の作品紹介~『異常者』他

異常者 西村 寿行  (講談社文庫) ¥580  評価…★★★☆☆ <内容紹介> 東京地検検事の妻が白昼、異常者によって拉致され、凌辱の限りを尽される。遅々として進まぬ捜査に業を煮やした検事は、一匹狼の調査屋・千年道士に助けを求めた。事件の想像を絶する成り行きが、千年の魂を震撼させた。千年は深夜の阿蘇山麓へ、香港の暗黒街へと、苛烈な調査行を続けていったが…。 (文庫裏表紙紹介文)
二万時間の男 西村 寿行 (徳間文庫) ¥560  評価…★★★☆☆ <内容紹介> 夕暮れの峠の茶屋に一人の女性が車の故障で助けを求めてきた。親切を装う茶店の夫婦は彼女に猿轡を噛ませ凌辱する。峠で失踪した妻を探し執念の捜査を続ける警視庁刑事の曾我は、一年三か月後、白骨化した妻と対面した。一方、諏訪湖を見渡す峠に、茶店の借り受けを申し出る夫婦があった。店の所有者桐生は夫婦を性の奴隷として屈従させ、異常な関係を続けるが…人間の業の深淵を描く表題作他、全四篇。 (文庫裏表紙紹介文) 幻の白い犬を見た西村 寿行 (徳間文庫) ¥600  評価…★★★☆☆ <内容紹介> 山東まさの車が、崖から濁流の天竜川へと転落した。目撃者は、彼女が車の前を走る白い犬を轢き殺そうとして追っているように見えたという。確かにブレーキを踏んだ跡はなかったが、犬の足跡もなかった。保険調査員、尾形は山東家が短命の女系家族で、明治時代に彼らの里が山津波で潰滅したことを知る。謎の背景には、数世代前の山東家のおぞましき因縁が関わっていたのだ。戦慄のハードロマン全七作。 (文庫裏表紙紹介文) ---------------------------------------- ほんとは西村寿行氏の訃報を知った日に、すぐ蔵書録をアップしようと思ったのですが、氏の作品を立て続けに3冊読んだらちょっとクラクラしてきてしまい挫折しました…。 で、改めて挑んだのですが、やっぱりうまく書けないので、こういう形での紹介となりました。 私の手持ちの本が偏っているというのもあるんですけど、やっぱり西村氏の描写は凄いです…。初めて読んだ時にはその性描写というか女性に対する扱いのひどさに圧倒されてしまって他の部分にあんまり目がいかなかったのですが、読み返してみると色々な部分で凄い話が多いです。全盛期にはキオスクとかに置かれていて通勤時のサラリーマンとかが読むエロ系娯楽小説っていうイメージだったのですが、そんなに軽く読める感じでは決してないです。情念とか業とか因縁とか何かどろどろのぐちゃぐちゃに渦巻いてる感じです。 でも、それは私が女だからひっかかってしまうのであって、男性が読んだらそんなに気にならないもんなのだろうか?だったら物凄く嫌だな…。 しかし、SMでもポルノでもない(一応)のに「性奴隷」って言葉が頻出するのには驚きましたね(@_@;) 時代的なものもあって、今読むと笑っちゃうような設定や展開があったり(例えば『異常者』には、かの有名なダルマ女が本当に出てくる)、凄くキツイ話なんだけど現実感が薄い(戦争がらみだったり、寒村の貧しさによる悲惨な人生だったり…。これは松本清張とかもそうですよね)とかいうのもありますが、色んな意味で一読の価値はあると思います。 この中では『幻の白い犬を見た』 が動物モノもあるし、性描写や暴力描写も比較的少ない作品が多くて読みやすいと思いますが、作品集として一番おすすめなのは 『二万時間の男』 ですね。以下、若干ネタバレを含みつつ作品紹介します。 表題作は、昭和20年代前半に東北の貧しい山間部の貧しい家庭に生まれた故に転落し、果ては犯罪者になる姉弟とふたりに関わる男たちの話なのですが、読んでると鬼畜にしか思えなかった姉が最後に哀れでかわいい女になってしまう妙。しかも、ラストは切ない。しかし、姉弟を性的にも人間的にも辱め貶めて、結果的に罪を犯すまで追い込んでしまう小金持ちのヒヒおやじ桐生はほんとに最低最悪で吐き気がします。人間は自分の快楽のためだけに他人をこんなに貶めることができるのでしょうか?悪意は全くない感じなところが余計に許しがたい。でも、こういう輩って現実にもいるんだろうなぁ。 『滅びる』 は、ほんとに凄い話。 平凡な妻子ある会社員が突然いい女に言い寄られて思わず据え膳を食ってしまう。その反応は意外に冷たいものだったが、予想以上の美しい肉体に充分に満足した。事後何の会話もないまま別れ、一週間が過ぎ、あれは夢だったかと思い始めていた男の家にに女が乗り込んでくる。妊娠したから一緒に暮らす、妻子がいても構わないと言うのだ。 脅迫的な言辞も交えながらの女の常軌を逸した行動に困惑し、精神的に追い詰められていく男と妻。ところが意外な事実が明らかになる。女は近所の医者の妻だというのだ。一体何の目的でこんなことを? この近所の医者の妻ってわかった時点で相当に驚くんですが、一連の行為の真の目的がわかった時にはほんとに驚愕です。凄い夫婦だ。 『魔性島』 は、設定が古い上に女性が性の捌け口でしかない描かれ方で、読んでて気分が悪くなってきます(T_T)  西村氏は結構自立した女性や強い女性を描いているし女性蔑視というわけでもないんだと思うんだけど、遭難したとたんに良識がなくなる男(一部女も)とか10人に輪姦される話とか、ちょっと耐えられない…(-"-;) でも、こういう話が氏の作品の典型のひとつではある。 しかし、この話の場合はラストも救いがないし、ほんとにひどいです(T_T) 『恩讐分かちがたし』 は愛娘を残虐に殺され、しかも犯人がわからないという状況で刑事である父親のとった行動は…という最初の驚きと、展開の驚き、ラストの驚きがあって、これもいい話です。しかし、情の薄い私は、あんたら、どんだけ執念深いんだと突っ込みを入れたくもなる^^;