『 20世紀の幽霊たち 』 ジョー・ヒル

20世紀の幽霊たち  ジョー・ヒル/訳:白石 朗 他 ( 小学館文庫 ) \980

 評価…★★★★☆

     

<作品紹介>

奇妙な噂がささやかれる映画館があった。隣に座ったのは、体をのけぞらせ、ぎょろりと目を剥いて血まみれになった“あの女”だった。4年前 『 オズの魔法使い 』上映中に19歳の少女を襲った出来事とは!? ( 『 二十世紀の幽霊 』 )

そのほか、ある朝突然昆虫に変身する男を描く 『 蝗の歌をきくがよい 』 、段ボールでつくられた精密な要塞に迷い込まされる怪異を描く 『 自発的入院 』など…。

デビュー作ながら驚異の才能を見せつけて評論家の激賞を浴び、ブラム・ストーカー賞、英国幻想文学大賞、国際ホラー作家協会賞の三冠を受賞した怪奇幻想短篇小説集。 

( 文庫裏表紙紹介文 )


※以下ネタバレ有り※

本書は朝日新聞の書評で瀬名秀明氏が激賞してたのとスティーヴン・キングの息子であるという興味から読みました。前者はともかく後者は著者には失礼だとは思いますが、やはりねぇ。

でも、出版社はこの事実を伏せている( というか利用していない。帯や紹介文にまったく書かれていないのです! )のは物凄く評価されるべきことですよね。やはり作品は先入観無しに読まなきゃ。願わくば、キングの息子だということは書評にも書かないで欲しいものです。

って、自分がめいっぱい書いてんじゃねぇかという話もありますが。これで知ってしまった方がいらしたら誠に申し訳ございません…m(_ _)m

で、様々な先入観を持って読んだにも関わらず、決してがっかりさせられることはありませんでしたが、そんなに感心するほどではなかったですね。これはと思うところもあるにはありましたが、「 面白い! 」 とか 「 素晴らしい! 」というような作品はなかったなぁ。エンタメというより文学寄りだからかもしれないけど。あ、そうか。だから、余り感心しなかったのか。最初から文学だと思って読めば確かにかなりいいかも。着想と作風のバラエティは素晴らしいです。うーむ、そうか、では★をひとつ増やしとくかなぁ…。( ←増やしました^^;)

表題作は余り感心しませんでしたが、紹介文にもある『 蝗の歌をきくがよい 』はなかなか良かったですね。カフカを連想させずにはおられない、というかそのものの設定でありながら、しっかり現代アメリカホラーになっているところがとても良いです。これは文学とホラーの素敵なマリアージュですね(笑) あと、ラストが明るいところも素敵。

そして、私が最も好きなのは 『 年間ホラー傑作選 』! これはホラー好きにはたまんないでしょう(笑) あ、これが冒頭にあるから後の作品への評価が辛くなったというのもあるなぁ。私、本書に収録されているどの作品よりも、この作中作( あらすじだけですが )に魅力を感じます^^;

ホラー好きに受けるという点では 『 アブラハムの息子たち 』 も同様ですね。カラーはだいぶ違うし、ジャンルもちょっと違うけど。ヴァン・ヘルシング教授をテーマにしたアンソロジーのために書いたというこの作品は、教授のことを知らずに読んだら父と息子をテーマにした文学作品のようにも思えるのではないかしら。知っていて読んでも、何が真実なのだろうという気持ちにはさせられます。

『 おとうさんの仮面 』 と 『 自発的入院 』 は幻想文学、『 末期の吐息 』 と 『 マント 』 は幻想文学とホラーの中間って感じかな。まぁ、ジャンル分けはどうでも良いですが、この辺はなかなか面白い。

あと、『 ポップ・アート 』 ね。序文などで余りに褒められてるので、私のようなひねくれ者はちょっと反発したくなるのですが、残念ながら(笑)これは確かにちょっとしたものです。まぁ、好みは分かれると思いますが。

12歳のとき、おれの一番の親友は空気で膨らませる人形だった 」 という文章で始まるので、孤独な少年の話なのかなと思って読んでいると、すぐに色々と不審な点が目に付いてきます。名前があるとか話をしたというのはともかくとして、単独で学校に行ってるらしいとか主人公と同じ家に住んでないらしいとか。

で、最終的にこの親友=アートは正真正銘人間の両親から生まれた正真正銘の人間である、ただし、何故だか体がビニール製の風船であるということがわかります。何でもその体質は遺伝らしいのですが、それ以上のことは語られず、どういう仕組みになっているのかも不明です。その極めて得意な体質( と言うか何と言うか… )は、作品中ではちょっと変わった病気とか障害程度の扱われ方なのですが、ユダヤ教であるアート一家が彼の割礼の問題をどう処理したのかなど細部がなかなかリアルです。確かに風船は切れないですよねぇ。

そして、その体質ならではの不幸な事件が起こり、悲しい別れがあり…というのは、まぁ、ある程度は予定調和な感じなのですが、本作が凄いのはそこで終わらず、主人公が新たな風船人と出会い、そして彼女と結婚するという展開を迎えるところですね。そんなとんでもない話ですが、主人公が新妻に初めてアートのことを語るラストシーンは詩的で悲しく美しいです。これはカフカの流れを汲む文学作品ですね。

あとの作品は現代文学系が多いかな。全くホラーや幻想文学の要素のない作品もあり、それらの中にもなかなか読み応えのある作品があります ( 純文学系の賞もとってるらしいから当然か… )。

で、比べちゃいけないと言いながら、つい引き合いに出しちゃいますが、私見では父であるキングのような圧倒的なパワーのある作家ではないですね。しかし、奇想に彩られながらも堅実で力のある作品を書く、なかなか魅力的な作家だと思います。ホラー( 特に映画 )への愛情も随所に感じられるし。というか、ホラーが特別なものではなく、血肉になっているという感じかな。ごく自然な要素として取り入れてるって感じ。ここで、つい、その特殊な生育環境を想像しちゃったりするのですが^^; 

ただ、これで長編を書くとどうなんだろうという気はしすね。当たり外れがありそうな気がしないでもない。上手いのと面白いのは違うし、特に私は面白ければいいというタイプだし(笑) 実際に長編も書いていて既に刊行されてもいるそうなので、機会があれば読んでみたいですね。