『 サラサーテの盤 』 内田百

サラサーテの盤―内田百 集成4〉  内田百   (ちくま文庫) ¥1,050 評価…★★★★★ <作品紹介> 薄明かりの土間に、死んだ友人の後妻が立っている。夫の遺品を返してほしいと、いつも同じ時刻にそっと訪ねてくるのだ。はじめは字引、次に語学の教科書、そしてサラサーテ自奏のレコード―。 映画化もされた表題作「 サラサーテの盤 」をはじめ不可思議な連作「 東京日記 」、宮城道雄の死を描く「東海道刈谷駅」など、百 の創作を集める。筑摩書房HP紹介文より) 表題作他、『 東京日記 』、 『 桃葉 』、 『 断章 』、 『 南山寿 』、『 菊の雨 』、 『 柳検校の小閑 』、 『 葉蘭 』、 『 雲の脚 』、『 枇杷の葉 』、 『 とおぼえ 』、 『 ゆうべの雲 』、 『 すきま風 』、『 東海道刈谷駅 』、 『 神楽坂の虎 』を収録。  ※ 文中の 「 百 」 の後の空白部分はweb上表記できない文字です。    門構えに月で、読みは 「 けん 」。
表題作が基になっているという映画を今頃になって、ようやく見たので久々に読み返してみました。 うーん、やっぱり素晴らしいですねぇ。これが一体何回目なのかわからないくらい再読してますが、いつ読んでもいいのです。若い時に出会って心酔して、その後年齢を重ねていっても変わらず良いと思える作品というのは、私の場合なかなかないのですが、百鬼園先生はどれをいつ読んでも素敵です。 どちらかと言えばユーモラスな随筆の方が有名で、私もそちらから入ったし、そちらも大好きなのですが、小説がまたほんとに素晴らしいのです。ジャンルにあてはめにくい作品が多いと思うのですが、この作品集はホラーや幻想文学寄りではありますね。奇妙で、怖ろしく、でも、どこか滑稽な感じもする不思議な世界を、美しく力のある文章で描いています。あからさまに怖いことや気味の悪いことを書いているわけではないのですが、時にじんわりと時には芯から怖い小説集です。随筆とはイメージが違うようですが、飄々としているような曖昧なような何とも不可思議な感覚は共通してます。 まぁ、私如きがいくら駄弁を弄したところで、その素晴らしさは到底伝わりませんので、熱く語りたい気持ちはあるのですが、この辺でやめときます^^; ちなみに、ほんとは私が持っているのは今は亡き福武文庫版です。当時は百鬼園先生の文庫など殆ど存在せず、このアンソロジーが出た時は狂喜して揃えたものです。他社の文庫が随分と出た今となっては旧かなじゃないのは物凄く残念なのですが、当時は百鬼園作品の魅力に圧倒されてさほど気にならなかった気がします。それと、福武文庫版の文字のみの表紙が気に入ってます。百鬼園作品にふさわしい気がします。  そういえば、こちらの方が収録作品が多いですね。昔の文庫は字が小さかったからなぁ。 ちくま版の他に、『 梟林記 』、 『 鶴 』、 『 北溟 』、 『 虎 』、『 棗の木 』、 『 青炎抄 』が入っています。でも、ちくま版の『 東海道刈谷駅 』は入ってないですね。というか、ちくま版は何故これをこの巻に入れているのだろう?ちょっと違いませんかね? しかし、百鬼園先生の「 けん 」は何故web上表記できないんだろう?昔はできたのに。