『アウト オブ チャンバラ 』 戸梶 圭太

 

アウト オブ チャンバラ (講談社文庫)

◆ アウト オブ チャンバラ (講談社文庫)   ¥820

 評価…★★★☆☆

<作品紹介> 湯女風呂大好きな江戸版ダメフリーターの平六。ひょんなことから刀を拾い、侍気取りで町に繰り出すが…「拾い刀、錆び刀」。 昇進して罪人を拷問することを夢見る同心の山園は、夜鷹連続殺人事件の囮捜査で女に扮するよう命じられ…「夜鷹同心」。 カオス・シティー江戸を舞台に描く、奇想天外時代劇全6編。 (文庫裏表紙紹介文)

 

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この紹介文が余りに感心しなかったので、今回は逆に引用してみました。卑近な例を持ってきて関心を惹こうというのはよくわかるんですが、それでも、江戸時代の日雇いと現代のフリーターを一緒にするな!と思わずにはいられない。あと、食うや食わずの日雇いの若者がそうそう湯女風呂なんか行けるか?とかね。

戸梶作品なんだから、そういう突っ込みはしなくても…と思うかもしれませんが、これが意外にも本書は時代小説としてちゃんと成立しているので、これはやっぱりよろしくないと思うのです。

特に、『 拾い刀、錆び刀 』は江戸の低所得者層(まぁ、それこそ今で言うワーキングプアーですか(笑) の生活とか意識みたいなものや、普通の時代小説では余り書かれない殺伐とした感じなどが描かれていて、なかなか面白い作品なので、こういう紹介をされるのは非常に残念です。

『夜鷹同心』も、牢屋同心と夜鷹の関係(トカジっぽく誇張はされてますがね)とか、当時の物売りや大道芸人の風俗などが描かれてて面白いです。本筋はちょっと珍妙だし、確かに物凄く要約し辛いですけど、これじゃあなぁ…。

あらすじがうまく書けないなら、この作品集の妙な面白さや戸梶作品の魅力について紹介するとか、何か方法があると思うんですけどね。

他の作品も本筋は奇妙な話なんですが意外と江戸の風俗とかがちゃんと描かれていて、時代小説として読んでも悪くはないです (※変な話が嫌いな方には全くおすすめできません )。

ただ、話がそれほど面白くないかなぁ…。どう甘く評価しても「奇想天外時代劇」というのは言い過ぎじゃないかしら。偉大なる先達・山田風太郎氏を例にとるまでもなく、時代小説って結構奇想天外なものがありますからね。

 

 


※以下ネタバレ有り※

 

 

ここ数年どんどんエスカレートする戸梶作品のぶっとびぶりは、全て面白く快く受け入れられたものですが、これはどうもなぁ…。面白くないわけじゃないんだけど、何と言うか中途半端な感じなんですよね。戸梶圭太の書く時代小説とは果たして如何なるものか!?という、こちらの期待が大きすぎたせいかもしれないですけど。

文庫裏紹介文の注釈(というか文句というか)のところで触れているように、思いの外ちゃんと時代小説しているところもまた微妙なんですよね。

正統派に比べると相当に現代語ですが、外来語や時代考証に全く合わない事物を使ったりはしてなくて、もっとハチャメチャ(死語)なのを予想していたので拍子抜け。

時代小説として認めるにはちょっとふざけ過ぎだけど完全否定もできない感じ。作者は何をやりたかったのかしら?とか柄にもなく思ってしまいました。(私は自分にとって面白い作品であれば、作者の意図や文学的価値などはどうでもいい人なのです)

 

お話は、前述の『 拾い刀、錆び刀 』、『 夜鷹同心 』なんかは、時代小説好きにはよくある設定や風俗をこういう感じに書くのかという面白さが感じられるし、そうでない人にはそれはそれでキャッチーな感じで面白いです。

町火消哀歌 』もその類ですが、お話はかなり戸梶節ですね。ファンには一番読みやすいかも。

本書中ではずっと違和感を感じていたフォント変更もこの作品では結構自然でしたしね。

ちなみに一番効果的だったのはコレですな。戸梶作品がいかなるものかご存じない方々のために敢えて引用。

「犬とヤリながらはしご曲芸して江戸を一周してから火の見やぐらの上で『ち組』の纏をケツから入れて口から出して切腹して人足にくるくる回してもらいながらはらわたを撒き散らしてやるっ!」

原典に忠実にフォントも大きくしてみましたが、さすがにこれは私のブログの品位が下がるなぁ(笑)

これが見開きに3回繰り返されて、この台詞自体はその後も頻出するというようなところが戸梶作品の手法というか面白さというかのひとつなのですが、こういうのを受け付けない方は多いと思うので、わかりやすい警告として引用してみました^^;

 

『 ミッション屋形船 』はちょっとよくわからないなぁ…。江戸風俗としてはふざけ過ぎでるし、話もちょっと不思議な感じです。

 

ザ・ワイルド・キャッツ・セブン 』はお笹が猫化するくだりはよくわからないけど、茶汲女に夢中になる江戸の男達の様や、もろもろの小ネタが結構面白い。

 

『 錆びだらけの剣士 』は時代小説というよりはホラーですね。私は結構好きです。

 

町火消~』のところで少し触れましたが、戸梶作品は内容だけでなく、フォントや挿絵などの表現も含めて色々と実験的なことをしようとする傾向があり、ポストモダン文学の洗礼を受けた私は何となく懐かしいような微笑ましいような気持ちで見てはいたのですが、正直なところ年経た身にはちょっとうるさい感じはあるのですよね。特に私はフォントを大きくされたりするのが余り好きではなくて。

でも、今までの作品だと作品自体のパワーに押されて、さほど気にならなかったり、むしろ効果的だと思うこともあったんですが、本作においてはどうもいけませんでしたね。内容的にいいところがあっても、それで現実に戻されるというか…。まぁ、それが狙いなのかもしれませんが。

 

総じて余り感心はしなかったけど、次回作が出たらやはり読んでしまうでしょうね。戸梶作品からはまだ目が離せない(笑)

しかし、最近の(…と言っても私は文庫派なので数年遅れですが)戸梶作品はアタマもココロも余り動かさないでいいものが多い気がするなぁ。娯楽作品として読む分にはそれで全然良いんですけど、やはり物足りない気はしますね。