『死者の刑務所』 (2005・米)

デッドマンズ・プリズン APS-177 [DVD]

◆ デッドマンズ・プリズン (2005年・アメリカ)  

 

監督: ピーター・マーヴィス/出演:ベイ・ブルーナー、ブリック・ファイヤーストーン 他  

 

 評価…★★★☆☆

 

<あらすじ> ある日突然、散弾銃で知人4人を殺害した男が捕らえられる。現場で自殺を図ろうとしたが弾切れで果たせなかった男は奇妙な供述をするが聞き入れられず、すぐに重犯罪者専門の刑務所へ投獄される。刑務官が心得えを言い渡す間にも、彼は激しい咳を繰り返し、顔色は蒼白でいかにも具合が悪そうだ。上からの指示が来たこともあり男は医務室へと連れて行かれるが、その途中でとうとう大量の吐血を始める。

そして、医務室で医師と向かい合った男・ディーは、この体調不良の原因は特別な生物毒素に感染しているためだと言う。そのウィルスは極秘の存在だが恐ろしい症状を引き起こし感染率は極めて高い、自分はそのウィルスを外に出さないために殺人を犯したのだという。これが警察でも繰り返したが聞き入れられなかった彼の供述だ。

医師も当然適当にあしらいつつ、「感染するから俺に触るな!」と必死で言い募るディーを診察しようとするが、そこでディーが大量吐血してしまい彼はそれをもろに顔面で受けてしまう。 彼の話を信じているわけではないが気分もよくないし、とりあえずディーを独房へいれることにして、後始末をしようとした医師のもとにCDC(米疫病管理センター)から女性調査員ベケットが訪れる。ディーの供述に気になることがあるので調査に来たという彼女は、その詳細を明らかにしようとしない。

そうこうするうちにディーは、余りの症状の激烈さに様子を見に来た看守に襲い掛かって射殺されてしまう。 医務室に運び込まれた看守やその同僚から話を聞いて青ざめるベケット。その様子とはっきりしない話、さらにはディーの症状などに不審をもって、詰め寄る所長ら。実はディーの供述はすべて真実だったのだ。それはディーの血を浴びたり、襲われたりした連中の様子を見れば明らかだった。

軍部からの指示により、ウィルスを広めないために刑務所は封鎖されることになる。そして、内部の人々は次々とゾンビ化していく。ベケットは何とか外部に出て状況を打破しようとするが……。

 

 


 久しぶりの正統派ゾンビ映画…と言いたいところだけど、このゾンビはちょっと違うよなぁ。どっちかというと新しい病原体によるパニックものですな。おお、してみるとこれもジャンルミックスか? 刑務所+病原体+ゾンビか。トリプルなわけね。 残念ながらその設定は全然活きてないけど、ゾンビ映画としてはまぁ悪くないです。

 

 

※以下ネタバレ有り※

 

 

全篇通して画面は暗く映像もクリアじゃない感じで、グロ描写もきっちりしてるし、マジメに怖いゾンビ映画を作ろうとしてるんだなぁという感じがして好感がもてましたね。突っ込みどころはもちろん数多くあるけど笑いどころはなかったし。

まぁ、ラストはさすがに苦笑せざるを得なかったけどね…。ベタは予想してたけど、あんなベタはないだろう…(-"-;) せめてもう少し盛り上げてくれよ…。 

 

そして、一番リアルでグロかったのはゾンビ云々よりウィルス感染して具合が悪くなって様変わりしつつ大量に喀血してるシーンだったりしたけど、受け止める側の問題も多分にあるし(私はゾンビ慣れしているので、ゾンビがらみの映像ではそうそうショックを受けないのです)、そこはまぁご愛嬌ということで^^;

 

しかし、私も飽きもせず懲りもせず見続けてるけど、ゾンビ映画でほんとに怖いのや目新しいのってもう作れないんだろうなぁ。前者はゾンビが余りに記号化しすぎてるのでまずムリだろうし、後者はまだ可能性はありそうだけどゾンビとしてのルールをあんまり変えちゃうと違うものになっちゃうしね。

本作のゾンビも正統派ではなく、製薬会社が作り出した死体を蘇生させるウィルスによって人為的にできたものなんですが、前述の通りやっぱりゾンビとしてはちょっと微妙な感じです。 そのウィルスは生体に感染するとまずそれを殺すんですね。(あ、これって 『デッド・フライト』 と同じ設定かな? でも、あちらは確か蘇生後利用するから肉体を損傷しない造りのウィルスみたいだけど ) で、すぐにゾンビとして蘇生させるんですが、このウィルスの怖いところは感染力が極めて高いところです。体液による感染が主なのは従来のゾンビやゾンビウィルスと同じなんですが、噛み付かれたりしなくても感染者の血液や唾液や汗などを何らかの方法で体内に取り入れてしまっただけで伝染ってしまうのです。つまり感染者のくしゃみが届く距離にいれば感染しちゃうわけ。こわーい(@_@;) 

けど、それでゾンビになったら何だかちょっとマヌケですよね…。まぁ、さすがに映画の中では、血しぶきを浴びたとか血反吐をかけられたとかで血液が媒体になってますけどね^^;

しかも、このウィルス早いと5分で発症するんですが、強面の看守のようになかなか発症しない人もいます。その差は遺伝子構造だとか冒頭の方であっさり説明されてました(ほんとにこの一言だけ)けど、これは 『バタリアン5』 風味ですね。

ただ、『バタリアン』のときはゾンビの素が麻薬だったので、摂取量と体質に影響されるというのは素直に受け取れたんですが、この映画の場合はご都合主義感が拭えないなぁ。まぁ、B級ホラーからそれをとったら何が残るって話もありますが(死体と血糊とバカな若者が残る^^;)。 

 

あと、最近のゾンビ映画はほとんどがそうなんですが人に襲い掛かる説明が全くなされてないのも気になります。ゾンビになったら人に噛み付くってのは確かに常識なんですが、一応それぞれに理由はあるんですよ(個人的には『バタリアン』のが秀逸だと思う)。 特にこの映画のゾンビはまっとうなゾンビ(ってのも何ですが(笑)ではないんですから、そこの理由付けはデタラメでもいいからちゃんと設定だけはしてほしいものです。

 

しかし、この映画にはひとつ私を驚かせてくれた点があります。それは子供が犠牲者になること。しかも二人も!(ちなみに男女各ひとりずつ。公平ですね) 襲われただけじゃなくゾンビになって襲いもするし、おいおい、最近のアメリカ映画でこれは有りなのかいベイビー?って感じでしたよ。びっくり(@_@;)  

そのアグレッシブな姿勢は評価するけど、それがやりたいがために刑務所に子供二人もむりやり登場させてる(ひとりは所長の子、ひとりは面会に来てた子)らしいところがちょっと嫌だな。(見てる時にも思ったけど、ひょっとしてあの名作を意識しているのだろうか…。ラストもそうだし…)

 

それにしても、この映画のヒロインは外見的にも内面的にも全く魅力がないんだけど、何故こんなキャストなんでしょう?人間的にもダメだし、仕事人としてもダメなくせに何でだかうまいこと最後まで逃げのびた(そういえば射撃だけは上手かったな)さえないねえちゃんが、元祖ゾンビ映画と同じラストを迎えても全然悲劇って感じがしないんですが。

ちなみに他の登場人物も全然感情移入できないタイプの人ばっかりだった(余り頑張ってる様子も見受けられないし)ので、この作品であのラストは無理があります。これならいっそウィルスが蔓延するラストにした方がいいんじゃないですかね?

 

それと、オーラスにお約束で「ガーってやるゾンビ」の画が挿入されたけど、あれは完全なる蛇足ですね。様式美をふたつ重ねちゃダメでしょう。しかも、どっちもちゃんと成立してないし。

 

ああ、様式美といえば、ゾンビが大量に出そろってからの戦闘シーンの唐突なロック調BGMはいらないんじゃないですかねぇ? ゾンビ映画にロックBGMはつきものと言ってもいいけど、こういうマジメな造りの映画には合わないと思います。あれで随分しらけちゃいましたもの。

あと、刑務所で女性が本来ならほとんど出ないからって面会に来た女(多分)と受刑者がイチャつくシーンを入れるのはちょっとムリがないかな。いくらケダモノでもあんなサービスはいらないよ…(-"-;)

 

うーん、こうして振り返るとこの作品は、ほんとにゾンビ映画のお約束や何かをこれでもかと詰め込んであるんですねぇ。そんな無駄な努力をせずにせっかくのジャンルミックスを活かす方向で作ればよかったのになぁ。もったいない。

しかし、筋金入りのゾンビ映画好きは、この映画を何だつまんねぇなとかC級以下だよとか思いながらも暖かい目で見てしまわずにはいられないだろうなぁ。現に私がそうですから^^;