『どーなつ』 北野 勇作

どーなつ

 

 

どーなつ 北野 勇作 (ハヤカワ文庫) ¥693   

 

 評価…★★★★☆

 

<あらすじ> 『ここ』は半径5kmたらずのほぼ円形の土地。黒いもやのようなものに覆われ、円の外側からは観測も侵入も不能なその土地は、戦争中のある日忽然と発生したため『爆心地』などとも呼ばれる。ところがある人が偶然この内部に侵入できる方法を発見した。そして、様々な人がそれぞれの理由で内部に入って行き、やがてそこで少し奇妙なひとつの社会が形成されていく。

おれは『ここ』へ親父に連れられてきたらしいが、『ここ』での記憶は不安定で真偽も彼我も区分は曖昧だ。おれの場合は仕事がそれを助長している傾向もある。おれの会社ではフォークリフトの代わりに「電気熊」という脳で直接制御する機械を使っているからだ。そして、おれにはアメフラシを使って生体人工知能を作る研究をしている恋人がいた。

 

「電気熊」「アメフラシ」「海馬」「田宮麻美」などを主なキーワードに、同じようで微妙に異なった世界での話が錯綜しながら進行してく連作長編。

 

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あらすじ書くのすっごい難しかった…。でも裏表紙の紹介文はいまひとつな気がするので何とか頑張ってみました。とりあえず、「脳で制御する電気熊」とか「アメフラシを利用した人工知能」とかにひっかかた人は読んでみて、まず間違いはないんじゃないかと思います。 結構しっかりサイエンス・フィクション的なところもあるけど、全体の雰囲気は表紙絵のものに近い感じかな。この独特の文体というか雰囲気が北野氏の魅力なんですが、奇妙な話を余り説明もせず簡潔な文章で淡々と綴っていくやり方はダメな人はダメかもしれませんね。

 

 

  ※以下ネタバレ有り 

 

 

私は北野氏の作品を発表年代順とは逆に読んでしまっているらしくて代表作とか出世作にまだ行き着いてなかったりするんですが、解説とか読む限りこの独特の雰囲気は昔からみたいですね。 すっごく面白いとかぐいぐい読ませる力があるとかいう感じではないけど妙に惹きつけられる感じなんですよ。短編連作の形で長編を書くスタイルが多いのもそれを助長してる気がします。同じ世界観を持つ独立した短編集として読むことも可能で、私はそこも結構好きです。

 

どちらかというとオチや説明を求めるタイプの私が北野作品を好きなのは、我ながらちょっと不思議なんですが、多分それは氏の描き出す奇妙な世界が好きだからでしょうね。説明されなくても充分に魅力的な奇想と妙にほのぼのした感じの文体があいまって、満足しちゃうのでしょう^^;

 

本書の中では『熊のぬいぐるみを着た作業員の話』の「電気熊」がやっぱり魅力的。 現実には「熊を思わせる」程度みたいなのですが、読んでる方は完全に熊型をイメージしちゃいますよね。で、「夜の熊集会」をするらしいとか書かれたら、浮かんでくる絵はめちゃめちゃかわいいじゃないですか。ああ、見てみたい。あと、個人的に「人工知熊(人工知能の誤植か?)」というのが妙に受けた^^;

 

それと『本当は落語家になりたかった研究員の話』も好き。落語ネタが好きだというのもあるんですけど、この話は知能の進化したアメフラシくんが語り手みたいなんですね。

「そうかあ、田宮さんの手助けをするためにいろんなことを試して、やっと少しはかしこくなったのかもしれないのになあ。田宮さんの腕のなかで、ふるふると触覚をふるわせながらぼくはそんなことを思った」というところがぐっときました。アメフラシくん、かわい過ぎる…。