『 本当はちがうんだ日記 』 穂村 弘

◆ 本当はちがうんだ日記  穂村 弘 ( 集英社文庫 ) \480  評価…★★★☆☆       <作品紹介> 自意識が強すぎて身のこなしがぎくしゃくしている。初対面の人に「オーラがない」と言われてしまう。エスプレッソが苦くて飲めない。主食は菓子パン。そんな冴えない自分の「素敵レベル」を上げたいと切望し続けて、はや数十年。 みんなが楽々とクリアしている現実を、自分だけが乗り越えられないのは何故なのか?世界への違和感を異様な笑いを交えて描く、めくるめく穂村ワールド。  ( 文庫裏表紙紹介文 )
歌人だけど歌よりも随筆が有名な気がする著者。私はそのいずれも余りちゃんと読んだことはないのですが、どうも私が作品を読む方々の周辺におられるようで、あちこちで名前だけはよくお見かけして、妙に親しい感じがしていました(笑) で、今回初めて本としてまとまったものを読んで、その想像をはるかに超えたダメっぷりに驚愕。これほどダメで嫌な自分をさらけ出すってのはある意味自虐系ですが、所々に 「 こんな自分がちょっと好き 」 とか 「 でも、俺、結構捨てたもんじゃないんだよね 」 という感じが見え隠れするので、ちょっと判断に困ります。まぁ、それは決して嫌な感じではないのですが。あと、そういう見方をするのは単に私の性格が悪いせいかもしれませんが。 このこっちがひいてしまうくらいの自分のさらけ出しぶりと、それでいてウェットではなく冷静で分析的な感じは中島義道氏に通じるところがあるかも。もちろん、中島氏に比べればずいぶんとヌルイですけどね^^; 私は著者に深く共感するところもあるのですが、どうしてそんな?と驚き呆れるところもあるので、何か読んでて凄く不思議な感じでした。 友達としてはいいけど、恋人には絶対嫌なタイプかなぁ。中島氏くらい突き抜けていれば恋人でもいいかもしれないけど ( あくまでも著者との比較の話でね^^; )。まぁ、著者の場合は現実的に嫌な逸話付きで紹介されてるから、余計にそう思うのかな。ウィーンに行ったことも行く予定もないけど、風邪ひいてお見舞いにきてもらうこととか夜道で不審者に遭遇して怖くなって電話することとかは経験あるものね。 ちなみに私がすこぶる共感したのは、「 レジでの支払いの際の一連の流れの中に現実特有の圧力のようなものを感じてしまい、それを撥ね返して行動を完遂するだけの強さが持てない 」 というところですね。 穂村氏はその圧力に 「 酔って 」 しまい、受け取ったお釣りを小銭入れに入れることもできず、あちこちのポケットが小銭だらけになるそうです。 私はそこまでではないのですが、スーパーやコンビニのレジではできる限り迅速に支払いをせねばという妙な圧力を感じてしまい、小銭を持っていてもつい札を出してしまい、その結果大量に発生した小銭のお釣りを手に握って逃げるように去ったりしてしまうのですね。で、店外で財布に入れたりします。こういう質なので、財布はがま口タイプしか使えません(T_T)  「 あだ名がない 」のにも共感^^; 著者のそれとはちょっと違うのですが、私は姓も名も簡単でありふれている上に目立った特徴のないヒトだったので、あだ名を持ったことがないんですよねー。一過性の呼び名とか一般名詞による呼び名 ( 「 お姉さま 」 とかね^^; )をごくわずかな人が使ってたくらいで。なので、あだ名にはかなり憧れがあったりします。 あと40年以上( 私は近く… )も生きてるのに、「 自分の人生はまだリハーサルで、本番は始まってないんだ 」 という極めて愚かな感覚を持ち、 「 でも、本番っていつ始まるんだろう… 」 と漠然とした不安を抱えながら生きているところ。 まぁ、著者はあるきっかけで ( 本書あとがき参照 )突如として本番のステージにあがることを決意して、とっとと結婚までしてしまうんですけどね。この経緯が収録作では語られておらず、後半で突然 「 妻 」 が登場してくるので物凄く裏切られた気分になります。別に結婚したからと言って本番だとも言い切れない ( 現に私も結婚はしてますし )し、ダメダメな著者が一歩踏み出したということで祝福したいとも思うのですが、何か非常に唐突なのでね。どうしてこんな構成にしたのだろうと苦情を言いたいですね。わざとなのかしら? それと、私自身は絶対にしないだろうけど妙に共感を覚えるようなものもありますね。 『 結果的ハチミツパン 』とかがそう ( 面白いので詳細は敢えて割愛^^; )。この人は何て愚かでダメダメなんだろうと思いつつ、「 結果的ハチミツパン 」 の製造過程を妙にリアルに感じつつ読み、最後に目の前のエレガントな友達を不思議そうに見る著者に何故か共感してしまうという。他にも、これに共感しちゃう自分がイヤって話もありますが、それは秘密^^; そして、全く共感できない、コイツ最悪!と思わせてくれる自分語りも面白い^^; たとえば、「 好きな女性のタイプは、山で熊に襲われたときに僕を守って戦ってくれるひと 」 であると言い、風邪で寝込んでいる女友達のお見舞いにカップ焼きそばを持って行き、当然そんなモノを受け付けられない状態である女友達にお湯を沸かさせて、結局自分が食べて帰る ( そもそも自分が食べたかったからカップ焼きそばを買ったらしい )とか、同棲してた恋人が高熱に苦しんでいたけど勝手にコトに及んで、自分だけ満足した後は枕元に缶ジュースだけ置いて部屋を出て行き、治っているかと思われる二日後におそるおそる部屋に戻るとか。好みのタイプはともかく、病人への接し方ふたつは凄いですよね(-"-;) まぁ、女友達も恋人も、そんな彼を全く非難せず受け入れているので別にいいのかもしれないんですけど、一般的に言うと物凄いクズ野郎だと思います。読んでて、「 サイッテー!! 」 と叫ばずにはいられませんでした…。 他にも、そこかしこにダメ野郎ぶりがあらわにされています。ちょっと凄いですよ。 その他、ふつうに面白い随筆などもありますが、著者と感覚が合わない人には受け入れにくい一冊かもしれませんね。奇妙な生き物の観察記録を読むつもりで見れば面白いかも^^;  ( 10月読了分 )