『あした 慶次郎縁側日記』 北原 亞以子

あした 慶次郎縁側日記 (新潮文庫)

あした 慶次郎縁側日記 (新潮文庫)

◆ あした 慶次郎縁側日記 (新潮文庫) 北原 亞以子 ¥590

評価…★★★☆☆

<作品紹介>
泥棒長屋に流れ着いた老婆の悲しみが、出世にとことん無欲だった若き慶次郎の思いと交わる表題作「 あした 」。無精な夫を捨てた、髪結い妻の思わぬ本音を描く「 春惜しむ 」。内緒の逢瀬を重ねてはらんだ娘が、未来ある思い人を必死に庇う「 むこうみず 」など、円熟の筆致が香り立つ江戸の哀歓十景。
慶次郎への尽きぬ思いを語る、生前最後の著者談話も収録した、人気シリーズ第13弾!
(文庫本裏表紙紹介文)





作品の内容よりも何よりも、既に著者が亡くなられてしまっていることが一番胸に来るなぁ…。
本書を読んでいてもつい、ああ、この後どれくらい北原さんの作品が読めるんだろう( 私は文庫のみでの読者なのでやや時差がありますf^_^; )、もっともっと北原作品を読みたいのに……とか思ってしまうんですよね。
ああ、本当に惜しい人を亡くした(/_;)
亡くなられた当時はブログを書く気力もなくて、訃報記事をアップしていないのが悔やまれる(>_<)

で、それはさておき、本書の感想ですねf^_^;)

まぁ、言ってしまえば、いつもの慶次郎シリーズだなぁって感じです^^;
間違いなく水準以上で、特に文句をつけたいようなこともなく、面白く読めて、そこそこ胸に迫る部分もあったりして満足しつつも、うーん、でも、ちょっと薄いかなぁと思ったりもする。
薄いっていうのは表現がちょっと違うかもしれないけど、シリーズとしては話が進み過ぎて、何か慶次郎である必要性を余り感じられなくなってるんですよね。
もちろん晃之助である必要性もない。

というか、前にも書いたのですが、私は晃之助と皐月と八千代の家族について書かれているのを読むと、とても微妙な気持ちになるのですね。
みんないい人たちだし、それぞれの苦労や屈託があるのもわかる( あ、八千代にはまだそんなものはないが )のだけど、余りに不幸過ぎた三千代さんのことを思わずにはいられないし、この血縁的には全員が完全に他人の家族を愛しているらしい慶次郎を見るのも何か切ないし。
なので、慶次郎周辺の話をあんまり読みたくない気持ちがあるのが正直なところです。

ただ、シリーズの脇役たちである太兵衛、吉次、辰吉らの物語は相変わらず魅力的なので、シリーズとしては続けてほしいですけどね。
太兵衛は息子さんたちがほぼ成人してそこそこ活躍し始めたし、辰吉とお文の暮らしは気になるし、吉次からは相変わらず目が離せないし^^ ( 今回はほとんど活躍してないですけどね^^; )


で、それぞれの話の内容なのですが、今回は何だか厭な話が多いような気がします。北原氏の作品はいい話ばかりでほっこりさせるようなふりをして、結構どろどろとしてたり、澱のようなものが残ったり、理不尽な展開で割り切れない気持ちなったり、やり切れない思いでいっぱいになったりというのが意外と多いのですが、今回はそういうのばかりのような…。
先ほど薄いというようなことを言いましたが、そういう意味では濃い作品集かもしれません^^;
個人的には、非常にむかつくことが多い作品集でした^^; ( いい人が理不尽な目に合うのが嫌い、恩知らずが嫌い、自己中が嫌い等々ありまして^^; )

中でも一番むかついたのは『 むこうみず 』 だろうか。自己中な小娘が考えのない逢引で望まない妊娠をして、自分の恋人を守るため全く関係のない男を名指しするって話なんですが、縁もゆかりもない真面目な青年を巻き込んで、相手にどんな迷惑がかかるかなんて想像もしない、というか、恐らくかかったところで構いはしないと思っているんだろうなという感じがむちゃくちゃむかつくし、そうまでして守った相手の男が不実な男であったらしいところもまた凄く厭でむかつくんです(T_T)

『 あした 』のおみねを襲う度重なる理不尽な不幸と、そんなおみねを利用するだけ利用して、後ろ足で砂かけていくおきみにも怒りを禁じ得ないし、『 歳月 』のかつては自分から惚れ込んだ年上女房を疎んじ、DVするわ浮気するわ、でも働かないし金は使うしって亭主もむかつくし、そんな亭主に甘んじる女将にも苛っとするし。

『 千住の男 』 はむかつきはしないんだけど、誰も悪くないのに、みんないい人なのに何でこんなことにならないといけないの?っていう運命の理不尽さに怒りを感じるとても厭な話。
……って、読んでるときはそんな厭な感じじゃなくて、淡々として、むしろ情を感じるようなところもあるんですけどね。というか、私が1人でやたらにむかついたり不快になったりしてるだけで、世の中の人はこんなふうには感じていないのかもしれませんf^_^;)

ああ、『 吾妻橋 』もこの系統かなぁ。ただし、こっちは誰もがちょっとずつ悪いというか、ちょっとずつ過ちを犯したり、後ろ暗いところがあったりするのですね。でも、みんな悪い人じゃないし、悪気もなかったし、そこまでのことにならなくてもよかったのにと思う。何より一番罪がない人が一番不幸になっているのが何とも割り切れない。ただ、こちらの不幸は何とかリカバリーできる可能性がまだ残されているのが救いですね。

あと、『 恋文 』の万吉は何か薄気味悪いし、正直なところを言えば、佐七つぁんも結構キモイんだよね、前から思ってたけど。さらに言えば、ウザイ。
いや、七つぁんのことは嫌いじゃないんですよ。大抵の場合は、やれやれ困った爺さんだな。けど、まあ、かわいい爺さんだよねてな感じに思ってます。
でも、この話の中では万吉につられて何かキモさが前面に出てきた気がします。おひでに似てるというだけで全く付き合いもない娘さんが嫁に行くからいって何日も寝込むとかちょっとないわ(-"-;)
おひでとの話はいい話なんだけどねぇ。

唯一ちょっといい話かなと思えるのは『 どんぐり 』かな。苦労はしているけど、全くタイプの違う男3人に三者三様に愛されているおゆきはある意味男運がいいと言えるでしょう^^;
これは一応ちゃんと切れてはいるんだけど、北原作品によくある愛情はあるけどダメな男とそれと別れられない女( 『 歳月 』の女将さんもその1つのパターンですな )というのが私はどうも理解できなくてダメなんですよね。
いや、全く理解できないわけじゃないけど、むかつくというか苛つくというかというのが正しいかな。


おひで―慶次郎縁側日記 (新潮文庫) おひで―慶次郎縁側日記 (新潮文庫)



(9月28日読了)