『 合意情死 がふいしんぢゆう 』 岩井 志麻子

(2005年9月読了分。感想などは当時のもの)

合意情死(がふいしんぢゆう)  岩井 志麻子 (角川ホラー文庫) ¥460

 評価…★★★☆☆

<あらすじ>

久吉は農家の息子だが教育熱心な両親のおかげで小学校教員になれた。明治半ばの岡山市ではまぁエリートのうちだ。久吉はその地位を失うことのないよう全てに気を使い一日を大過なく過ごすことだけを考えていた。

そんな彼のちょっとした息抜きの場が岡山では画期的にハイカラな店 「カフェー・オカヤマ」 だ。小中学校の同級生だった安藤に連れてこられて以来彼とその取り巻きたちとここで飲んで談笑するようになったのだ。端正な美貌の持ち主で芸術家である安藤を中心とする彼らはみな市内では富裕な層の出身で、久吉はやや見下されながら無理してつきあっているところもあったが、それでも単調な毎日の中ではささやかな楽しみになっていた。

そんなある日、仲間のひとりが美しく魅力にあふれる女学生・いせ子を連れてくる。久吉はひとめで彼女の虜になるが、何といせ子も彼を気に入った素振りを見せる。しかし、安藤もいせ子を気に入りモデルにして絵を書きたいと言い出す。(表題作)

他、『 華美粉飾(はでつくり) 』、 『自動幻画(シネマトグラフ) 』、『 巡行線路(みまはり) 』、 『 有情答語(いろよきへんじ) 』 の全5篇を収録。明治後期の岡山を舞台に様々な職種の男たちの小市民的な欲望や思惑の葛藤を描き出す短編集。


今までの著者の作品とはちょっと毛色が違いますね。全篇男性が主人公というのもありますが、何より事件性と毒が少ない。表題作もお約束な感じの話だし、他の作品も全て予想通りに進行します。でも、面白い。やはり名手なんだなぁと感心しました。

ところで、著者の作品の面白さは岡山弁の魅力によるも大きいと思いますが、これは岡山弁になじみがある人とそうでない人たちとその効力の差はあるのでしょうか? そして、それはどちらの場合がより大きいのかしら?ちなみに私は結構なじみがある方です。

面白いと思ったのは 『 華美粉飾(はでつくり)』ですね。ああ、なるほどこの題名はこうくるのかと。女性ならみなテルに共感するのでは?(^^;)

『 有情答語(いろよきへんじ) 』 は本来好きなタイプの話ではないけどいい話ですね。著者には凄く珍しいのでは? 今、山田風太郎氏の監獄ものを読んでいることもあって余計面白く感じました。

しかし、これ角川ホラー文庫にいれるべきではないと思うんですが。読者層を狭めるし、ホラー文庫を読む層の大半は読んだら失望すると思うけどな。