『 火閻魔人 』 奥瀬 サキ

◆ 火閻魔人  奥瀬 サキ ( 幻冬舎バーズコミックススペシャル) ¥1,050  

 

 評価…★★★★☆

 

<作品紹介> 桃源津那美 ( とうげん・つなみ )は人目を惹くほどの長身で物凄い美形の上に、見たところは青年なのに白髪だ。 どうやらアルビノらしく、目の色も黒ではない。

その特殊な外見を持つ彼の能力もまた特殊だった。 彼は、火種 ( たね ) と呼ばれるものを操り、生体を発火させる能力を持ち、いわゆる 「 鬼 」 を退治することを生業としている。  

彼の周りには敵対する様々な鬼人や魔人の類や、彼を庇護する政財界に大きな裏の力を持つ名家・傍箕( わきみ )家一族と彼らに仕える人々など、奇妙な連中が常に見え隠れしているが、ふだんはごく普通に人々の中に紛れて静かに暮らしている。

津那美は言う。  「 僕の127年間は、その殆ど全てが幻だった。 僕の時はあの夏の日に静止した─── 。 僕の心は14歳で止まっている 」

 

 


うわー、奥瀬サキ久しぶりだぁ! と飛びついて買っちゃいました^^  

ジャンルや思い入れの度合いはちょっと違うのですが、明智抄と同じく、幼少時に出会ってから現在までずっと好きで、独特の感性と確かな画力で、とてもいい作品を描く人だと思うのだけど、何故か一般的には評価されない上に寡作の漫画家さんで、私にとってはちょっと特別の存在なのです。

多分デビュー作の雑誌掲載時から読んでると思うんですが、ほんとに初期の頃は絵柄はややパクリっぽくて( それもあちこちからの^^; )、ギャグも微妙な感じでだったんですよね^^; まぁ、今思えば本人の意に反するところもあったのでしょうけど。

それでもテーマやストーリーが魅力的で、捨てきれず読み続けているうちに、突然脱皮したんですよね。画力もストーリーも格段に上がって、ジャンルがホラーなこともあって、何だか怖いくらいでした。

今、手元にあるのは文庫版の 『 低俗霊狩り 』 なのですが、これで言うと上巻収録の 『 残像 』が分岐点ですね。 これ、ほんとに怖い。何度も読んでるのに、その度に怖いです。 ストーリーも相当にショッキングなもので、今読んでも過激といって言い内容だし、画力の向上も相俟って、凄い迫力なんですよね。でも、一応ハッピーエンドな感じなところが不思議。

そう、テーマがテーマ ( 相手は幽霊 )なので、どうしても後追いの対応にしかならず、後味がいいとは言いかねるのですが、一応全部ハッピーエンド風に終わらせてるのはエライよなぁ。

…って、いつの間にか『 低俗霊狩り 』 の話になってたよ(@_@;)

そして、まだ、今回紹介すべき『 火閻魔人 』について何ひとつ語ってないぞ(*_*)

 

まぁ、正直なところを言えば、このシリーズは私の中では順位が低いんですよねぇ。だって、主人公が男なんだもん。

いや、私が女好きだからとかそういう問題では決してなく、奥瀬サキ作品の魅力は女性なんです。好きになったきっかけの作品である 『 低俗霊狩り 』 も、その後に感銘を受けた 『 コックリさんが通る 』 もシリーズ通しての主人公は女性だし、各話でメインとなったり活躍したりするのも女性なんですね。

正確に言えば、 『 低俗霊狩り 』 のマミさん以外はみんな少女です。ほとんどが女子高生。 私はロリコンでも女子高生好きでもなく、むしろ、少女が主人公の作品って苦手なことが多いのですが、奥瀬氏の描く少女たちは物凄く魅力的なんですよねぇ。 

色々な意味で、弱いけど、同時に強くて、美しい。女子高生ではないマミさんも含めて、シリーズを通してのヒロインや、その仲間たちは皆、普通にはない力を持って、それが故に辛い目に遭ったりするのですが、悲しみ苦しみながらも闘い、成長するっていう感じで、それも凄くいいし萌える ( 当時はそんな言葉はなかったが^^; ) のですが、ごく普通の、運命に翻弄されるような少女たちもまた、それぞれの強さを秘めていたりして、凄くいいのです。 

もしかすると、男性は萌えないかもしれないと思えるような強さなんですよね。 奥瀬氏は男性のはずなのに、何故にこんなに女性が共感できる少女たちを描けるのか、少女だった当時も、年齢的には遠く離れた今も、ほんとに不思議です。

 

本書収録の中では、『 支配者の黄昏 』 の静香がその流れを汲むかなぁ。本来の定義なら少し少女の範囲を逸脱した年齢だけど、最近は精神年齢下がってるからハタチくらいなら余裕で女のコの範囲ですしね^^;  

細い身体でか弱い感じなのに、精神は繊細ながらも強靭で、愛に生き愛に死ぬ。それも愛する相手にちゃんと救済を与えて。悲しくも美しい少女の姿です。

 

…ということで、今さらながら、本書 『 火閻魔人 』 について少々語りたいと思います f^_^;)

本書は私が見逃していた初期作品に、その続編と新作書き下ろしを合わせて一冊にしたもので、ページ数も厚くて( 450P超 )、これでこの値段は超お買い得だと思います。

内容は紹介文にある通り、人間界に存在する人ならぬものたちと、それらに関りのある人間や同じく人外のものたちの対立の物語という感じなんですが、単純に人間対それ以外という構造でもないし、何となく伺える様々な因縁を始め、謎めいた部分が数多く残されています。

まぁ、ざっくり言えば、菊地秀行夢枕獏の世界に近い感じですね。 特殊な能力を持つクールで謎めいた美青年が主人公で、現実の日本と微妙に異なる感じの街を舞台に、裏社会の人間や人外のモノと闘うというような話というね。 

ちょっと天野喜孝入った絵柄があるところも、そのイメージを助長してるかな^^;  でも、奥瀬作品の方が深みがある気がします。謎の部分が多いというのもありますが ( これは長所とは言い難いんですけど… )、シリーズ全体を通して暗い詩情というようなものが漂っているんですよね。

うーん、このシリーズ、もっと描き継いで、語られていない部分を語って欲しいなぁ…。 奥瀬氏の詩的な台詞は素敵だけど、美しくなった絵と共にとても危うい感じがするなぁと思ってると、やっぱり漫画描かなくなっちゃったんですよねぇ…。今は原作とかやってるという噂だけど、どこでどうしておられるのやら。

……って、私が知らないだけで、どこかで凄く活躍とかされてたら、すみませんm(_ _)m

( 3月読了分 )