『 ビューティ・キラー1 獲物 』 チェルシー・ケイン

◆ ビューティ・キラー1 獲物  チェルシー・ケイン/訳:高橋恭美子 ( ヴィレッジブックス文庫 ) \903 評価…★★★☆☆ <あらすじ> アーチーはポートランド市警の刑事だ。有能で仕事熱心な彼だが、2年前に恐るべき犯罪者と対峙して以来、現場には出ていなかった。彼が10年間追い続けた「 ビューティー・キラー 」 と呼ばれる殺人鬼は最後の犠牲者として彼を選び、心身共に瀕死の状態に陥らせたのだ。その後遺症から回復するのは容易なことではなく、その時の傷跡は今でも彼の心と体を苦しめていた。 そして、その犯人は実際に彼をまだ解放してはいないのだ。自分の犯した殺人の情報を提供することで死刑を免れた彼女は、その情報を話す相手にアーチーを指名したのだ。それも週に一回面会に来ればという条件だ。それによって、アーチーはいつまでも忌まわしい記憶から逃れられないばかりではなく、実際に会う度に彼女の支配力が強まっていくのを感じる。そう、アーチーはこの美しく魅惑的な殺人鬼に、かつて、自分のことを切り刻み、苦痛を与え、死に至らしめ、そして救った女に心を奪われていると言ってよかった。しかし、アーチーは現場の復帰や、その他様々な計画を立て、そんな生活を打破しようとしていた。 そして、ポートランド市で発生した女子高生連続殺人事件解決のために組織された特別捜査班の主任として、現場復帰することになった。女子高生ばかりを誘拐し強姦した上で殺害するという悪質な事件自体が注目を集めていたところに、アーチーの復帰が重なりマスコミはかなり加熱状態だったが、前回の事件で報道により相当な迷惑を被った市警とアーチーは、今回の事件では報道により真実の姿を歪められたりすることがないように、あらかじめ、ある地元紙の記者を指定して特集記事を書いてもらうことにしていた。 その記者はスーザンといい、ピンク色の髪をしているなど少々風変わりなところはあるが、才能も野心もある若い女性だった。しかし、実はアーチーには隠された意図があり、そして、スーザンにも隠された過去があった。そして、事件の捜査が進行していくにつれ、徐々に明らかになってくる二人の秘密が事件そのものにも関わり始める。 女子高生連続殺人鬼の正体は?そして、アーチーを捕らえて放さないビューティー・キラーの目的とは?
確かに面白いし、純粋な快楽目的の若く美しい女性連続猟奇殺人犯という設定は確かに優れています。その設定から展開される物語も、瞠目とまでは言わないけど、かなり新味があり面白い。しかし、帯はほめ過ぎじゃないですかね?割り引いて読んでもハードルあげ過ぎで、おかげで評価が辛くなっちゃいましたよ。私の感覚で言えば、恐怖感は全くないお話でした。もちろん、レクター博士を超える 」 ということも全然ないです。 ※以下ネタバレ有り※ この話の魅力はとにかく、「 ビューティ・キラー 」 にあるのですが、それが過去の事件であるところがどうもねぇ。敢えて現在の事件にせずに書いている面白さというのは確かにあるんですが、平行して語られる現在の事件がどうにも小粒( 事件の内容もつまらないしオチもわかりやすい )なので、うまく機能してない気がするんですよね。どちらも同じくらいスリリングで興味深ければ、この形式は大成功だったと思うのだけど。 それとグレッチェンもスーザンも私にとっては余り魅力的じゃないところも難点かな。どちらも何だか女オンナし過ぎな感じなのですよね。あと知的レベルが中途半端なところも嫌ですね。 特にグレッチェンには天才的な頭脳とそれに見合う知性と教養を備えていて欲しかったなぁ。類まれな美しさを持つ女性なので、知性や教養はないけど本能的な支配者としての能力みたいなのを使うという設定でもいいですけどね。もちろん、この場合は知的訓練を受けていないだけで、持って生まれた頭脳は優れているわけです。一見愚かであってもいいけど小賢しいのだけはごめんですね。医学部には行ったけど医師になるのは挫折したなんてのはもっての他です。そんな意思の弱いことで大量殺人ができるのか?と言いたい。ちなみに200人近く殺してきたらしいので、できてはいるわけですけど(-"-;) でも、その手口も嫌なんだよねぇ。自分の能力や魅力を最大限に活かして他人を支配するというのは、このテの殺人鬼のあるべき姿で望ましいんですが、グレッチェンの場合は彼女自らが 「 愛人 」 と呼ぶところの、つまり疑似恋愛関係にあるような男たちを使ってるんですよねぇ。男たちが一方的に彼女に惚れ込んでて彼女は何も与えてないというなら、それもギリギリありですが、ふつうに交際してセックスして、場合によっては相手の好みに応じて服従してみせたりもするなんてのは全く許されないことですよ。支配されてるように見せかけて支配するというやり方も否定はしないけど、こういうタイプの殺人鬼は徹底して支配してほしいと思うのです。せっかくの大型女性連続殺人鬼なのに、そういうところで女性ならではみたいなやり方をしないで欲しいなぁ。アーチーを捕まえて、拷問しながら、真の意味で彼を自分の虜にしていくやり方はとても良かったですけどね。女性らしく細やかなやり方で^^; スーザン絡みのあれやこれやは、まぁ、どうでもいいかなぁという感じで。イヤな女というほどではないけど余り好感を持てないスーザンと、少女の頃に彼女と関係を持ってからずっと彼女に執着し、その封印していた欲望をグレッチェンに上手く操作されてからは、似たような女子高生を次々と襲うようになった最低最悪のクズ教師の話にはさして魅力は感じられなかったですねぇ。その展開は想像がついたのだけど、クズ教師が犯罪に至るまでの説明に説得力が欠ける気もする。似たような少女を襲うってことは少女時代のスーザンに執着してたんだろうと思われるのですが、大人になったスーザンを襲うのも何だかなぁって感じ。ロリコンなのか、スーザンだけに執着してるのかはっきりしてほしい。まぁ、いずれにしても少女を襲う輩は許せんし、中でも立場を利用して生徒をムリヤリどうとかする教師はみんな拷問の上で死刑にすればよいと思うので、そんな詳細知ってもムカつくだけかな(-"-;) …と、フィクションに怒るのはやめよう、私。 そういえば、アーチーは男性としても刑事としても魅力的ではあるんですが、グレッチェンの虜であるということが余りにも明白なせいか、どうも感情移入できませんでしたね。恋人や奥さんと熱愛中とかだと全然気にならないのにね。これはちょっと意外な発見^^; ちなみに、何とか意志の力でグレッチェンの呪縛から逃れられたかなぁというラストなのですが、続編があるみたいなんですよね。そこでどう展開していくのか、そして、続編では私はグレッチェンを受け入れられるのか(笑)、ちょっと楽しみではあります。 ( 8月読了分 )