『エド・ゲイン』(2000・米)

◆ エド・ゲイン (2000年・アメリカ)

 監督:チャック・パレロ/出演:スティーヴ・レイルズバック、キャリー・スノッドグレス 他

 評価…★★★★☆

<あらすじ>

舞台は1957年のアメリカ・ウィスコンシン州にある小さな町。幼少時からそこに住むエド・ゲインは40歳を過ぎても独身で、きちんとした仕事もせず両親が遺した農場付きの家で暮らしていた。そんな彼は町の大人たちには軽んじられたりバカにされたりして、親しく付き合うほどの人物はいなかったが、子供と遊んだり夕食に招待されたりする程度の近所付き合いはあり、大抵の人には気のいい無害な人物だと思われていた。

しかし、実は彼には隠された異常な面があった。狂信的なところのある母親に偏った教育を施された彼は、性的欲望は罪であり、それを誘発する女性は罪深い存在と思うようになり、同時に母親を異常に崇拝するようになっていたのだ。そして、38歳の時に母が亡くなってから彼の愛情と欲望は全く行き場をなくしてしまい、それが異常な行動として噴出する。それは死体愛好だ。彼は町の墓場から死体を掘り出しては弄び、ついには死体の骨や皮を使ってランプや食器までも作るようになっていた。だが、彼の欲望はそれでは治まらなかった。彼は母の面影を強く求め、母に支配されていたのだ。そんな彼の興味はあるふたりの女性に向いていた。

ひとりは町の飲み屋の女だ。中年ででっぷりと太った彼女はかなり下品だが、エドにもわけへだてなく接してくれる。そんな彼女に好意を持ち、酔客たちに淫らとも言える言動を見せる様に欲望のようなものを感じながらも、同時に嫌悪感を感じてもいた。その姿は母の言う汚れた女そのものだったからだ。もうひとりは町の雑貨屋の女主人だ。やさしくかわいらしい感じのふっくらとした初老の女性で、エドは彼女には母親を重ねて見ていた。用もなく彼女の店に行き、彼女の姿を眺めたり、話しかけたり、時にはデートに誘おうとしたりするエドを、彼女は内心気味悪く思いながらもやさしく適当にあしらっていた。

そして、ある日とうとうエドが凶行に走る。

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世界で最も有名な猟奇殺人者のひとりであるエド・ゲインの生涯を描いた作品です。

映画を好んで見るような人だったら、エド・ゲインについて概略くらいは知っているだろうと思うので詳細な説明はここでは割愛。てゆーか、上記のあらすじもいらないんじゃないかって気もしますが^^;


※以下ネタバレ有り※

いやー、これは素晴らしい!よく出来てます。数々の実話殺人鬼ものを見てきたし、中でもエド・ゲインものは既にいくつか見てますが、これは出色。登場人物は設定も名前も何故か実話とは微妙に違うものにしている(設定はともかく名前は関係者がまだ生存してるからかな?)のですが、それも全然気にならず、実にうまく出来てます。

実話と違うといえば、エド・ゲインの父母との関係やエドのメアリー(最初の犠牲者)への感情も私の認識とは違うようですが、こういう部分は何が真実かわかりませんからね。こういうアプローチもあるということかな。でも、その辺も物語の中では自然で全く違和感はありません。基本的には物凄く事実に忠実に作っている映画だと思います。

かの有名なレザーフェイスやリボンをつけた女性器、手製の乳房ベストをつけて月光の中踊り狂うエドなど押さえるべきところは全て完璧に押さえていて、しかも、やり過ぎない。その残虐だったりショッキングだったりする物件やシーンを必要以上に見せようとはしないんですよね。あくまでも生活の中の一部として映し出されている感じで、こういうところが凄くよかったです。でも、ベスト着て踊るエドのシーンにはほんとに感動しました。あれはいい!

とにかく、スティーヴ・レイルズバック演ずるエドが実にリアル。見た目はそう悪くなくて人好きする感じもあるんだけど、少し話していると何だか薄気味悪くなってくる雰囲気がある。本人の中に、自分が劣っていると思う気持ちと、実際は能力があるのに評価されていないという気持ち、皆のように振舞いたいという気持ちと自分は正しくて周囲は間違っている気持ちが常に混在していて、それが言動に表れちゃうんですよね。あと、まぁ、特殊な欲望も自ずから現れてしまうよね^^;

そんなこんなが合わさって、見る人には薄気味悪く思われるのだけど、ハナからバカにしていたり逆に好意的に思ってたりする人にはこの感じがわからないのだなぁ。面白いですねぇ。

(07.12月鑑賞分)

多くの皆さんには蛇足かとは思いますが、自分の中での整理のためにも一応エド・ゲインについて簡単にまとめておきたいと思います。例によって、数字などは一応資料で確認してますが、うろ覚えの情報と主観も交えてまとめてますので、事実誤認等あったらすみませんm(_ _)m

とりあえず参考文献代表として、『 異常快楽殺人 』(平山夢明著)を挙げておきます。快楽殺人者の有名どころを押さえつつ他の殺人者についても言及していて、内容の濃い非常に面白い本です。しかし、余りに濃すぎて、猟奇殺人とかが好きな方にしかおすすめできません^^;

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エド・ゲイン。本名はエドワード・ゲイン(1906~1984)。

猟奇殺人者として名高いが、実際に殺した人数は確認されている限り2人である。従って、ゲインは正確にはシリアルキラー(連続殺人犯)とは言えない。混同されがちだが、FBIによればシリアルキラーは3人以上を殺したものとして定義されているからだ。

ゲインが有名なのは殺人自体よりも、死体に対する猟奇的な所業からだ。彼は町の墓場から深夜こっそりと女性の死体を掘り出し、さんざん弄び、犯したあげくに解剖し、その解体したパーツを様々に加工して、家中に飾っていたのだ。

人骨や皮膚などを使ったその恐るべき加工品は、各種の食器やランプ、クズかご、バッグなどの実用品から太鼓とそのバチにまで及んでおり、それ以外にも髪の生えた頭皮を含む顔の皮を丸ごと剥いで作ったマスクや、乳房付きのベスト、マスクと同様にして作った壁掛け、塩漬けにして彩色した女性器の置物などという悪夢としか思えないような代物も多数あった。ゲインは時折、それらを身につけ、太鼓を叩き、自宅の農場を歩くことを楽しんでいたというから、それらもまた彼にとっては実用品とも言える。

また、内臓など一部は食用に加工されて保存されていた。人肉の一部を近所の人に「鹿肉だ」と言って度々お裾分けしていたという話もあるが、これは周囲へ与える影響が甚大なため追究はされていない。そのせいか、ゲインとカンニバリズムについて語られることは余りないようだ。また、自分の所業について比較的饒舌に語るゲイン自身もそれについては言及していないという。

ゲインはその欲望の倒錯ぶりというか、精神のねじれ具合も特徴的だ。彼が死体に向かった直接的な原因はそのオカルト趣味によるもののようだが、彼がこの恐るべき所業を為すようになる最も大きな原因は彼の母親にあったと思われる。

彼の母親は異常なまでに厳格で狂信的だった。資料を読む限り彼女自身精神的に問題があるとしか思えない。そんな母親に何事にも厳しく躾けられ、女性や性的なことを嫌悪するように仕向けられ、更には家族以外の他者との交友を堕落につながるとして禁じられたゲインがまともに育つはずはない。しかし、母がいる間は問題は表面化することはなかった。ゲインにとっては母が世界の全てで、母に従ってさえいれば彼には何の問題もなかったからだ。(ちなみに、ゲインの兄は弟とは違い、成人してからは母の支配から抜け出そうとしていた節があり、42歳で不審死した彼の死にはゲインが関係していると見られている)

しかし、その母が死んだ時、ゲインの世界は崩壊する。唯一無二の愛する存在を失った悲しみや喪失感、孤独から逃れたいという思い、そして、健康な男性としての欲望と母親から叩き込まれた性に対する嫌悪などが綯い交ぜになって、噴出した結果が彼の異常行動なのだ。彼は女性を愛したかったが、そういう欲望を持つ自分を嫌悪し、相反する感情を解決する手段として女性になりたいと思ったのだ。だから、女性の皮をかぶり、乳房のついたベストを着た。そして、そうすることによって、崇拝する母に近づいたような気持ちになったのかもしれないし、母が蘇ったような気がしたのかもしれない。しかし、また、母親に似た女性の死体を切り刻むのには、自分でも気付いていない復讐めいた気持ちがあったのかもしれない。彼は自分を支配する母親を本当は殺したかったのかもしれない。

精神病者として罪に問われることなく、精神病院で生涯を78歳で閉じた彼の心の闇は明らかではない。

この我々の理解を超えた殺人者エド・ゲインには創作意欲を刺激するところがあるのか、彼は多くのフィクションの登場人物のモデルとなっているが、特に有名なのは以下の三つだ。

『 サイコ 』 の母に支配され、母の死後は自分の中に「母」という別人格が生じるノーマン・ベイツ。剥製作りが趣味であるところも通じるものがある。

悪魔のいけにえ 』 のレザー・フェイス。かなり怪物的に描かれてはいるが、母親に支配され、解剖が好きで、死体を加工してものを作るというところが共通。というか、あのマスクがそのもの。

羊たちの沈黙 』 のバッファロー・ビル。こちらは女性の皮を剥いで、ゲインと同じく乳房付きベストをつくり、それを身につけることによって変身願望を満たそうとする。彼にはマザコン要素は見られない。

私見では、レクター博士の行動もちょっとゲインを意識してるところがあるような気がするが自信はない。(当人は精神的に非常に落ち着いているが自分の行動を話すなどして他の精神病者に影響を与えるとか、顔の皮を剥ぐとか…。こじつけかしら^^;)

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書いてるうちに文章がちょっと混乱してきましたが、何か深みにはまりそうなので推敲なしでこのままアップしてしまいます(>_<)

乱文ご容赦下さいませm(_ _)m