『 昆虫探偵 』 鳥飼 否宇 [*読書記録:ミステリ・サスペンス][*著者名:た行]

昆虫探偵 (光文社文庫)

◆ 昆虫探偵 (光文社文庫) 鳥飼 否宇 ¥620

 評価…★★★☆☆
     
<作品紹介>
ある朝目覚めるとゴキブリになっていた元人間のペリプラ葉古。無類のミステリ好きだった葉古は、昆虫界の名探偵、熊ん蜂シロコパκの助手となった。人の論理が通用しない異世界で巻き起こる複雑怪奇な難事件を、クロオオアリの刑事の力も借りて見事解決していく! 書下ろし 「 ジョロウグモの拘 」 を収録。昆虫と本格ミステリについてのユニークな注釈を新たに付加。
 ( 文庫裏表紙紹介文 )



というわけで、2冊目の鳥飼否宇です。うん、これは面白い。…と言っても万人向けというわけではないですけどね。虫嫌いな人には身の毛のよだつような本かもしれないし、虫に興味が持てない人には全く面白くないかもしれないけど、幼少時にファーブル昆虫記に感動した記憶のある人ならば楽しく読めるのではないでしょうか^^;

本作は純然たるバカミスで、いっそ清々しいほどのムチャクチャな設定で、更に各話が近現代の国内名作ミステリの物凄くわかりやすいオマージュになっています。題名が全て本家のもじりなのがバカバカしく、かつ、わかりやすくていいです^^ 
横溝正史以外は今現在第一線で書いてる作家の作品だというのも何だか嬉しいですね。SFやミステリのファンの人って妙に過去の名作について語りたがる傾向があるから、こういうのは新鮮です。

そして、作中で語られる数多くの虫情報! 登場する主な虫たちは、探偵であるクマバチにその助手のヤマトゴキブリ、刑事のクロオオアリに、ムクゲコノハ ( 蛾 )、オオムラサキ ( 蝶 )、ダイコクコガネ ( 食糞コガネムシ )、ジュウシチネンゼミ ( 17年地中にいると言われるセミ )、各種水生肉食昆虫 ( タガメゲンゴロウ、アメンボなど )、アカハネムシ ( ベニボタルに擬態している赤い甲虫 )、ジョロウグモ ( 交尾のあとメスがオスを食べてしまうことで有名な蜘蛛 )、トゲアリ ( クロオオアリの巣をのっとる蟻 ) などです。
虫の名前を知っているし姿は見たことがあるものも多いけど、生態はほとんど知らなかった水生肉食昆虫の話や、存在自体ほとんど知らなかった食糞コガネムシのあれこれ、噂には聞いていた長周期セミ( 17年の他にも13年周期のものが存在し、各周期セミの中でも更に種類があるそうです )についての詳細とそれに関わって出てくる幼虫期の長い昆虫の話などが私は興味深く面白かったですね。

で、ミステリとしてはどうよ?って言われると、いやぁ、どうなんでしょうねぇ…という感じですが、決して無しではないと思います。まぁ、間違っても、正統でも本格でも新本格でもないんですが、それは仕方のないことなんです。だって、事件は虫の世界で起こってるんですもの。題名通りに探偵は虫で、被害者も虫なら加害者も虫ですから、当然、彼らの行動原理は虫のもので、能力も虫のものです。しかも、それは虫の種類によって様々に異なっています。そんな事件をファーブル博士でもない人間が推理できるわけはないのです。まぁ、人間くさい言動をしたり、自然界にはないであろう行動をしていたりすることもありますが、それは作中で言うところの物語の神様の為せる業ということで^^;

冗談のセンスとかその他ちょっと私とは合わないところもありますが、本作ではさほど気にならないし、かなり見直しましたね。まぁ、ちょっと特殊分野なので、本作で評価するのはどうかなとは思うけど、こういう妙な作品が書けるというのは、やっぱりポイント高いですよね ( あくまでも私基準^^; )。 また機会があれば他のも読んでみようと思います。