『吐きたいほど愛してる。』 新堂 冬樹

吐きたいほど愛してる。 (新潮文庫)

◆ 吐きたいほど愛してる。 (新潮文庫) 新堂 冬樹 ¥540

 評価…★★★★★

<内容紹介>
愛――、それは気高く美しきもの。そして、この世で最も恐ろしいもの。毒島半蔵の歪んだ妄想が、この世を地獄へと塗り替える。虚ろな心を抱える吉美が、浮気を続ける亭主に狂気をぶつける。傷を負い言葉を失った、薄幸の美少女・まゆか。実の娘に虐待され続けている、寝たきり老人・英吉。暴風のような愛情が、人びとを壊してゆく! 新堂冬樹にしか描けなかった、暗黒純愛小説集。 (文庫裏表紙紹介文)



本当はあらすじ自分で書きたかったんですけど、どう考えてもネタ割っちゃうんで引用させて頂きました。 なわけで、以下はもうネタバレだらけで





これを「 純愛小説集 」として売ろうとする新潮社の根性にほんと脱帽。いや、一応 「暗黒」ってついてるけどさぁ…。
ちなみにこの文庫の帯、黒地に緑で、でっかく 「 愛こそが、凶器だ。」 ってあって、その下にやや小さく 「 暗黒純愛小説集 」 とだけあるのですね。で、紹介文は前掲の通りで、全体に黒い雰囲気を出してはいるけど、世に数多いるらしい善良な泣ける小説好きの人とかうっかり騙されかねないよ? しかも、著者はほんとに純愛小説も書いてるしさ。
いやぁ、やるなぁ新潮社。その商売っ気と悪意に星ひとつで満点星です(笑)


※※※ 以下の文章には人を不快にさせる内容が語られている可能性があります。エロ・グロ・鬼畜が平気な方だけお読み下さい。※※※




で、真実の内容はというとこれが凄過ぎ。元々、黒新堂のファンであり、エログロバイオレンスが好物の私でもちょっと気分悪くなるような話の連続です。
特に 『 半蔵の黒子 』 はひどい。これを冒頭に持ってくるのは何の試金石だ? 他の作品もいずれ劣らぬひどさ( 変な表現だ… )ではあるけど、生理的嫌悪感はこれが一番ひどいというのに。読書を続けることが困難になること受け合い。いや、ほんとにさすがの私も途中で本を閉じましたもの。
半蔵の身体的精神的なグロさの描写部分も相当なもん( 心身とも腐り果ててるって感じ… )ですが、私をノックアウトしたのは 「 肉ウジチャーハン 」 ですね。
材料出して作るところから書いてくれちゃってるんで、すっごいリアルに想像しちゃいました(T_T) その肉が何の肉かってのも鬼畜慣れしている私はすぐわかっちゃったし。しかも、それで吐き気を催しつつ、心の片隅で「 ちょっと美味しそう 」とか思ってしまう自分がいたのが凄く嫌でした…。( でも、ウジって美味しいって言うし…。 米飯とウジという外見は相似していながら食感や味わいが全くの違う食材の出逢いってのが何か魅力的で…。ああ、すいません、すいません(>_<) )
ほんと生理的嫌悪感ではこれが最高峰ですね。私が今まで読んできた中でもベスト3に入るかも。

で、精神的嫌悪感では 『 英吉の部屋 』 。寝たきり老人となった実父を虐待する鬼娘( 鬼母はよく目にするがこの語は新鮮だなぁ^^; )の話かと思いきや、この英吉がもういっそ清々しいほどの鬼畜で。その鬼畜っぷりをここに引用するのも憚られるほどの凄さです。
あれを読むと娘の行動は至極当然だとは思いますが、そうはいっても娘さんの虐待ぶりもなかなか鬼畜です。やはり血は争えませんなぁ。
そして、この作品で何より精神的嫌悪感をもたらすのは意外にもハッピーエンドで終わるところです。英吉にとってのハッピーエンドでね。
で、更に嫌なことに、終始被害者面した英吉目線で書かれてるもので、無意識に感情移入してしまってるらしく、ヤツがどんなに鬼畜か重々わかってるのに、そのラストにうっかり爽快感を感じてしまうんですよ!特に最初の方で一旦「 鬼娘から虐待を受ける哀れな老人 」って思い込んじゃってたし、その虐待のせいで娘さんの印象は凄く悪いし、対決シーンにしても実際英吉は圧倒的不利だし。
で、「 あ、英吉うまくいったじゃん!やった! ……て、違ーう!!! 」て感じで、自分でもびっくりしました。新堂冬樹コワいわ…。

『 お鈴が来る 』 と 『 まゆかの恋慕 』 は話の展開が非常に読みやすいのとリアリティに欠けるところがあって迫力不足ですね。いや、前2作がリアルかと言われるとアレなんですが、あれらほどぶっとんでないので、冷静な目で見てしまうというか。
特に『 お鈴〜 』 は精神を病んだ妻という設定になってるんだけど、その病気ならそんな風になんないし!って激しく突っ込みたくなってしまうところがある。ていうか、そもそも精神を病む理由もどうかなぁって感じだし。一応、作中でも「 通常ならこんなことは有り得ない 」というような医師の説明があるから、あれでエクスキューズにしてるつもりなのかもしれないけど、ちょっとあれはねぇ。しかし、まぁ、新堂作品は基本的にみんなアタマおかしいからな…。
どちらもグロ描写は結構ひどいけど、基本が恋愛話というところもあり( 特に『 まゆか〜 』 )、そんなに鬼畜感はないですね。いや、まゆかの父親は物凄い鬼畜ですけど、現実にもこういう鬼畜親は世界中に意外と存在するみたいだしなぁと思うと衝撃度は低い。


しかし、ロリコンでもなんでもないのに年端もいかぬ( 『 まゆか〜 』では7歳! )実の娘に性的興奮を覚えて、実際の行為に移すことができる父親ってのが私には全く理解できんのですが、あれはどういったものなんですかね?
別にもともとロリコンだったら許すというわけではないが、気持ちはまだわかるんですよ。自分のことが好きで自分が自由にできる幼女がいる…とか思ったら、それまでの人生でその性的嗜好を抑圧してた人ほどタブーとか関係なくなっちゃってやっちゃいそうだよなぁ、とか。娘だから彼女への愛情はもともとふんだんにあるわけだし。
そう、個人的には近親相姦って物凄く気持ち悪いんですけど、それが起こるのはわかる気はするんですよね。愛する余り…というか愛情が横滑りしちゃったというかね。あるいは、自己愛が物凄く強いんだけど自分とはできないから、代替として欲望が最も近い身内に向かうとかさ。そんな感じで何となく理屈はつけられるから。
だから、ロリコンで実娘に手をつけてしまうのはわかる。断固として許せないけどね。
でも、ロリコンとそうでない人って決定的に違うでしょ。本来絶対欲望の対象にはならないはずの存在にそういう気持ちを抱いてしまって、かつ実行に移しちゃうってどうよ?そこのところ実際どうなんですか、男性諸氏?


(8月上旬読了分)