『 恨み忘れじ 』 松村 比呂美

恨み忘れじ (角川ホラー文庫) ◆ 恨み忘れじ  松村 比呂美 ( 角川ホラー文庫 ) \580 評価…★★★☆☆ <作品紹介> 理性で抑えようとしても、身体のどこかが疼くような感覚とともに深まっていく憎しみ― 。 飛行中に空と海との感覚がわからなくなる状態に陥った男を描く「 バーティゴ 」、亡くなった恩師の夫から送られてきた形見分けの謎を描く 「 マニキュア 」、トラウマを抱えた女性とその母親との葛藤を描く 「 チョコレート 」 など6編。表面上は異変を見せないまま、身体の中で黒く広がっていく執念を凝視した心理ホラー。  ( 文庫裏表紙紹介文 )
帯と裏表紙の紹介文を見て何となく買った名前も知らなかった初読の著者だけど、なかなかの拾い物でした^^ 「 身体が殺意を覚えている 」 とか 「 死らないうちに恨まれている? 」 という惹句はちょっと違うように思うんだけど、紹介文はなかなかいい感じかな。ちょっとどうかなと思うところもあるけど、着想と嫌な雰囲気とか情景の描写が良いです。まだあんまり著作がないみたいだけど、もう少し読んでみたいと思わせる力がある。 ……と、著者紹介みたら、意外にいい歳の方( 44歳 )なのね(@_@;) 作品から受ける印象( 文体や内容、完成度等も含めて )だともっと若い方かと思った。ああ、でも、女性は人によっては結構精神年齢が若いままだったりするからなぁ。 ※以下ネタバレ有り※ で、どうかと思うところってのを具体的にいうと、そんなヤツぁおらんやろって感じの登場人物ばかりであるところかな。いや、存在してないことはないと思うんだけど極端過ぎるし、そんな人ばっかりだというのがちょっとねぇ。いわゆるフツーの人ってのがいないんですよ。 冒頭の『 バーティゴ 』の夫なんて平成のこの世に存在するとは思えない嫌な男なんだけど、その妻である主人公がまた明治時代か!みたいな女で、その夫の愛人がまた奇妙な女だし、チョイ役の同僚とかも何か変だし。で、その変な人たちばっかの話の展開もやっぱり変。え、それでそうなる?みたいな。 でも、題名にもなっているバーティゴ = 空間識失調 ( 飛行中に上下や傾きの方向を正しく認識できなくなる状態 )の話はリアルで面白かったし、その変な人たちの心情も意外とリアルで良いのです。まぁ、変な話だ^^; そんなヤツに加えて、そんなこたぁねぇだろう + そんなものねぇだろの突っ込みを入れたくなるのが 『 マニキュア 』 ですが、私はこの話はなかなか好きなんですね。細部にも不自然なところがあるけど力業で面白く読ませてくれるというか。私自身がかなりのマニキュア好きだというのもあるかもしれないけど。 マニキュアに混入させただけで肌をボロボロに蝕む薬品ってのがまず何? で、それをインターネットで入手?? あと、そんな怪しげなマニキュア絶対塗らねぇしとか、そもそも、亜里沙のような女はそういうの塗らない以前にジェルネイルか付け爪だと思うが…とか、その辺は色々気にはなるけど、ここはまぁ突っ込むのが野暮というかね^^;  で、そのマニキュアに関するオチは最初からわかってるんだけど、この話で面白いのは亜里沙の人物造型。美人で裕福で能力もそこそこある女がそこまでやらないだろうと思うし、そもそもそんな性格にならないと思うんだが、と思いつつも、亜里沙の真依子に対する執拗で徹底的な仕打ちが面白くて許せてしまう。 よくこんなこと思いつくなあと亜里沙にも作者にも感心^^;  あ、私がこれを好きなのは復讐が成功しているからというのもあるかも。 『 クレーム 』 も結構いい話だと思うもんな。こちらの登場人物はそれほど変じゃないし、みんな結構フツーにいい人なんだけど、運が悪かったという感じで後味は悪いけどね。 まぁ、あとの作品もそんな感じで変だったり不自然だったりするところは多いんだけど、面白く読ませてくれます。 あ、『 チョコレート 』 だけはリアルかも。こういう母親は確実にいるよね。特に現代には多いように思われるけど、昔から虐待にまで至らなくてもこういう母親というか女はいるんだよねぇ。そして、娘がこうなっていくのもある種パターン。 『 永遠の友達 』 は余り感心しなかったな。犬は好きだけど母親が嫌いだから共感できないんだろうか(笑)  そういえば、『 悪臭の正体 』 も香辛料を全く使わず料理するという主人公に共感できないからいまいちだと思うのかもしれないなぁ。いや、実際は何の落ち度もないのに変な男にひっかかって不幸になって救済のない主人公がかわいそうで嫌なんですけどね。うーん、この作品集に出てくる男は皆程度の差はあれ嫌なヤツだなぁ。 ( 2月読了?)