『 おとり捜査官 1 触覚 』 山田 正紀

◆ おとり捜査官 1 触覚  山田 正紀 ( 朝日文庫 ) \735

 評価…★★★☆☆

<あらすじ>

北見志穂は警視庁に新設された 「 特別被害者部 」 に所属する囮捜査官だ。生まれついての被害者タイプであると見なされて、この職務に抜擢された彼女の初仕事は 「 品川駅通り魔殺人事件 」 の犯人をおびき出すことだった。

しかし、志穂は別の事件に巻き込まれひどい目に遭い、容疑者と目されていた男は犯人でないことがわかり、散々な初仕事に終わったと思っていたら、事態は更に悪化した。なんと彼女らの目と鼻の先で、第二の事件が発生したのだ。 被害者は第一の事件と同じタイプの若い女性で、絞殺され、性的な暴行やイタズラをされた形跡はないが、何故かスカートを脱がされ持ち去られているという点も共通しており、同一犯による第二の犯行に間違いないと思われた。

躍起になる捜査班と、彼らに疎外され敵視されながらも独自に捜査を進める志穂たち特別被害者部。ようやく新たな容疑者を追い詰めたかと思ったが、その読みも外れ、そして、そんな警察を嘲笑うかのように、時を同じくして今度は隣接する大崎駅で第三の被害者が出た。

今度は場所も違えば手口も違っている。しかし、様々な点から同一犯である可能性が高いと見た志穂らは、敵対していた捜査班と手を組み、新たな犯人を追い詰めていくが…。


うーん…、これ、ちょっと評価に迷う作品なんですよねぇ…。作品としては確かに面白いんですが、私には色々と受け付けられない点があるのです。

当初は 『 女囮捜査官・触姦 』 と官能小説まがいの題名で出されてしまい、正しく評価されずにいた不遇の名作とあちこちで書かれているのですが、その題名からの評価も強ち間違ってはないと思うんですよねぇ(-"-;)  いや、ミステリ作品としての面白さや完成度はとても高いとは思うのですが、女性の立場からすると物凄く不快だったり納得できなかったりする点が多々あるのです(T_T)

このブログを読んで下さっている方はよくご存知の通り、私は心に下品なエロオヤジが棲んでいるので、いわゆるエロは全然気にならないし、むしろ嫌いじゃない方なのですが、この作品のソレはほんとに非常に不快なのです。 そもそも痴漢という題材が物凄く不快なのですが、何よりもその状況や設定の不自然さに負うところが大きいですね。

第一、主人公である北見志穂がもう色々不自然。冒頭のおとり捜査の服装もちょっとどうかと思う( 色々あるけど、何よりもモスグリーンのストッキングなんてそうそう売ってないし、第一その色だと気持ち悪くてそそらんぞ ) し、周りの態度もどうかと思うけど、志穂は知性も教養もある社会人なのに何故目上の人にタメ口を使うのだ? しかも、同じ職場の人に。それも、部外者でも固くて上下関係の厳しいことは確実だと想像がつく警察という職場で。 これがまず有り得ない。

で、子供の頃からの被害者体質で、一人暮らしの女が下着を外に干すわけないだろう。しかも、ここ2、3週間、干すたびに必ず2、3枚無くなってるという状況なのに、何故それでもなお外に干す??? あと、どのくらいの頻度で洗濯してるのか知らないけど、常識的な女性の生活から判断する ( 下着はふつう毎日変えるし、死ぬほど忙しくても一週間洗濯しないってことはまずない ) とそれって片端から盗られてるのと同じだと思うし、軽く10枚以上は盗られてるよねぇ? そんなに在庫あるのか? つーか、どんだけのんきなの? ってか、バカなの?バカだよね??? 5万歩くらい譲って、どうしても太陽光に当てたいって人なのかと納得しようかとしたら、 「 夜のうちに出し、朝一番に取り込むようにしてる 」 って、じゃあ、何故外に干す!!! ってゆーか、そもそも、それじゃ乾かねーよ! それに、夜露で湿って非衛生的だ。 ちなみに私は10年以上一人暮らしをしてましたが、下着を外に干したことは一度もありませんし、配偶者と暮らしている現在でも外には干しません。

そんなこんなで、非常に魅力的だと思っていた 科学捜査研究所が生まれながらの被害者タイプを集めて組織した、囮捜査を行う 『 特別被害者部 』 」 って設定も怪しいなぁと思ってたら案の定。 「 生まれながらの被害者タイプ 」 には何の科学的根拠も説明もないんでやんの。 要するに、単に若くて美人でスタイルが良くて色気のある女性ってことなんですよ。 バカか(-"-;)

いや、被害者タイプというのは確実にいるんですよ。変に付きまとわれたり、交際相手がストーカー化したり、それこそ痴漢に遭いやすかったりとか。 でも、それが全く説明されてない。 ついでに言えば、志穂や彼女の同僚の水樹みたいなタイプは被害者タイプではないと思いますね。 特に水樹はそう。

世間的に誤解されがちだけど、いわゆるいい女、それも特に派手なタイプってのはそういう被害には余り遭わないものなんですよ。 周囲の人間に変に誤解されたり、口説かれたり、ナンパされたり、セクハラされたりってのは確かに多いとは思うし、恋愛関係が派手な人は犯罪にも巻き込まれやすいとは思うけど、そういうのと被害者タイプは違うと思うのです。いわゆる性犯罪とかの被害に遭うのは、意外とふつうの、それも地味めのコなんですね。( 一応断っておくと、これは私の読んだ文献や事件記事などからの判断で、確実な根拠や裏付けがあるわけではないですが、全くの偏見や思い込みではないです ) 手が届きそうな感じかするとか、抵抗しなさそうな気がするとか言うのがポイントかと思われます。

あ、巨乳の方はタイプ関係なく被害者になりやすいようですが。確かに、これでもかって感じの乳が近くにあると触りたくなっちゃうもんなぁ… ( おい、口を慎め私、というか私の中のエロオヤジよ(-"-#) いや、でも女同士でも触りたいって結構ふつうに言いますよねぇ。そういう意味も込めてます、はい f^_^;) 所持されているご本人には甚だ迷惑だと思いますが、豊かな胸って、ふわふわのパンとか熟れごろの白桃とかと同じで、つい手を出したくなってしまう性質のモノなのですよ。いや、だからって断りもなく了承もなく触っちゃいけないんですよ。絶対ダメです。 ただ、そういう欲望を強く喚起するものがあると言いたかったわけです。

えーと、何か話が変な方に行きましたが、まぁ、とにかく、私は犯罪には興味があるし、自分が図らずもというか、むしろ、どんなに用心していても被害者になりかねない性に生まれついたこともあり、そういう問題にはかなり興味を持っているんですね。なので、その辺の説明が全くないというのがほんとにがっかりでした。 別に最初から、犯罪者の気を惹きそうな魅力的な女を集めて囮捜査官にしましたって設定だったら、それはそれで別によかったんですけどね。

多分そこそこのお色気シーンを入れるのがシリーズとして決まりになっているんだろうし、美人でスタイルのいい女が男を惹きつけるのは事実だし、何より読者はいい女が出てくる方が楽しいに決まってるからね。もちろん私もその方が楽しいです^^;  でも、その設定だと余りに下司だからダメかな。それこそ官能小説の世界ですねf^_^;)

ああ、基本設定への文句だけで凄く長くなってしまった(>_<)  なので、細かいとこは飛ばして、えーと、すっごい不快だった痴漢シーンいきましょうか。ああ、でも、これ、ほんとに下品で下劣で猥褻だから書きたくないなぁ…(-"-;) まぁ、つまり、そういう内容なんです。実際の行為としても女性の側の感覚としても痴漢というよりは強姦に限りなく近く、ある意味ではそれ以上の恥辱を与えるような最低最悪のもの。

で、そんなこと電車でできねぇよとかいう不自然さはとりあえず置いとくとしても、これだけは言いたい。女性はどんなにぼんやりしていたとしても、自分の身体を他人に触られて気付かないなんてことは有り得ません。この作品のように衣服の下に手が入るような状況になったら、眠ってても気付くと思います。あと、ここまでやられて本人や周囲が黙ってるってことはまずないと思った方がいいですよ、痴漢予備軍の方。世の中そんなに甘くねぇよ。

……と、これだけ文句を言ってても、なお面白かったと言えるというのがこの作品の凄いところかなぁ(*_*) 登場人物たちも不自然だったり嫌なヤツだったりするんですが、気付けばそれなりに感情移入してるのも不思議。とにかく、事件解決に力を尽くしていることだけは確かって感じだからかな。

真犯人は結構すぐわかるし、動機もその時点で見当がつくんですが、それでも、そのラストに辿り着くまでの二転三転と、それぞれの人間模様が面白いんですねぇ。警察としていかがなものかと思うところとか散々言ってる女性に関わる物事や何かの不自然さはあるのですが、まぁ、それでも面白いのは否定できない。( 後でレビューとか見たら、意外な結末という意見が多かったので、すぐわかったのは私が女性で、かつスレた本読みだからかもしれません。確かに男性だったら気付きにくいところはあるかも。 であれば、謎解きの面白さと意外な結末ということで、余計オススメかな?(^^; )

本作は特にシリーズ第一作というのもあって、扇情的な面を全面に押し出してきてるのだろうなと同情できるところもあるし、次回作以降も読みたいと思います。各作品がそれぞれ、五感のいずれかに関わる犯罪であるらしいのも興味深いですし、多分、私が激しくブーイングしている 「 特別被害者部 」 についても、今後掘り下げていってくれることだろうと期待しています。それにそもそも山田正紀好きなんだよね…。まぁ、氏の作品ではミステリよりSFの方が好きなんですが^^;

ちなみに今回、おそらく満を持して新装で出した本文庫の裏表紙の紹介文はこんなのです。

同じタイプの若い娘3人は絞殺されたばかりか、2人はミニスカートを剥ぎ取られ、1人は髪の毛を鋭利な刃物で切られた無残な姿で発見された。 山手線連続通り魔殺人事件の謎を追うおとり捜査官の北見志穂は被疑者たちの前にその美貌と肉体を晒す違法ぎりぎりの捜査を強行した! 96年度ミステリの大収穫と絶賛された前人未到の本格シリーズ第1弾。

せっかく新装で出した意味なくねぇ?(-"-;)  私は以前から山田正紀作品というので気になっていたところに、好意的な書評を読んだので、これでもめげずに買ったけどさぁ…。 内容も私がさんざん文句言ってるような部分もあるから、女性読者だとパラパラ読んだとしても買わない可能性が高いですよ。もう少しフォローするような紹介をして欲しいなぁ。