『 大統領暗殺 』 ( 2006・英 )

◆ 大統領暗殺  ( 2006年・イギリス )

 監督:ガブリエル・レンジ

 出演:ヘンド・アヨウブ、ブライアン・ボーランドベッキー・アン・ベイカー 他

 評価…★★★★☆

<あらすじ> 

2007年10月、アメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュは講演のためシカゴを訪れた。

9.11以降の彼の強硬政策には支持も多いが、反対派も多く、各地で激しい抗議デモが繰り返されていた。 そして、当地シカゴは元々反ブッシュ勢力の強い土地でもあり、空港から会場までの間でも反対派の大規模なデモが行われていた。

当局も常にも増して厳重な警戒体制をとり、小競り合いはあったものの、無事演説も終了し、空港へ帰るためのリムジンに大統領が乗り込もうとした、その時、事件が起こった。どこからか放たれた二発の銃弾が大統領の胸を抉ったのだ。

マスコミや群集が多く集まる中での凶行に国中は騒然となる。当然、即座に犯人捜査が始まり、容疑者が確保されるが、決め手に欠ける。そして、捜査陣が躍起になる中、医師団の尽力も空しく大統領は息を引き取る。やがて、イスラムアメリカ人が容疑者として上がってくるが…。

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現職アメリカ大統領が暗殺されたら?という衝撃的な題材を、実際の大統領や関係者の映像を交えてドキュメンタリータッチで撮った作品。 構成の巧みさと展開のリアルさは実際にノンフクィション映像として流されても信じてしまいそう。


「 衝撃!」 とか 「 問題作!」とかいう煽り文句が付いていたのですが、余りにリアル過ぎて、逆に衝撃的な作品ではなかったですね。 まぁ、確かに問題作であると思うし、非常に面白かったです。

私は事前の情報が殆どないまま見たので、ドキュメンタリー調だったのが結構意外だったりしました^^; もっと物語性のある話なのかと思ってたんですよね。絶対起こってはいけないが起こり得る重大事が起こってしまった時の、人々の、そして、世界の動きをリアルに想定した話なのかなぁと。 これは、 「 大統領の死はアメリカ、そして、世界にどのような影響を与えるのか? 」 みたいな惹句があったせいでしょうね。

そんなわけで、我が母国への影響なんかも当然描かれるのであろうと期待して見たのですが、そういうのは全然ありませんでした^^; 正直、世界への影響はほとんど描かれてません。イスラム世界へ緊張感が走るという程度。ドメスティックな部分だけでも充分に面白かったですけど、こういう内容ならば、あんな惹句はつけないで欲しかったなぁ。

※以下ネタバレ有り※

紹介文にも書いた通り、この作品は完全にドキュメンタリー調で作られていて、しかも、大統領やその他の政治家が出てくるシーンなどはホンモノの映像を使っているようなのですね。 襲撃シーンも多分、よろけたシーンとかをうまく加工してしてるみたい。で、それ以外は、SPやFBI捜査官、容疑者とされた人々やその家族へのインタビュー映像、そしてニュース映像から構成されているのですが、見ているうちに謎 ( =真犯人やその動機 ) を解明したり、逮捕に至った経緯を説明するのが目的ではなく、明白な事実に対する告発的な内容だというのが段々わかってきます。

公認されている大統領襲撃犯はイスラムアメリカ人で、しかもアルカイダに関連があった人物なのですが、実際の犯人はアメリカ人で、しかも軍人一家の長なんですね。

長男が戦死し、次男は精神に変調をきたして薬物依存になり、おそらくは自分自身も従軍による心の傷を受けたことにより、大統領に疑問を抱くようになり、やがて、反戦運動などもするようになり、そして…、というわけ。ちなみに妻であり息子らの母である人も軍人だけど、この人は元気でした。

そのイスラム系の人物が犯人と目されるようになったのにはムリもない点も幾つかあるのはあるのですが、当局は( そして、おそらくは国民の大半も ) 当初から犯人はそういう人物でなければいけないとする姿勢ではあったわけです。

事件発生時は反大統領のデモの真っ只中だったこともあり、当然その連中が真っ先に疑われるのですが、彼らの容疑はすぐ晴れるんですね。この時点でも国内から犯人を出したくないと思っている姿勢は見え隠れしないでもない。 そして、当局としては実にうまいことにこの時現場にイスレム系の人物がいたことがわかって、調査すると彼には少々怪しげな点があって…と来たら、後はとんとん拍子です。司法も陪審員も彼を犯人と決め付けて一安心。もちろん、有罪判決が下った後に真犯人だと主張する人が出てきても誰も気にもしません。アメリカ人が、それも軍人がそんなことするわけないですものね。あれは心を病んだ男の妄想だくらいの感じで片付けられます ( 当事者の妻にすら ) 。

しかし、真実を追究しようとする人たちがいて、この映画が作られたって感じで終わるんですね。

多分誰もが絶対こうなるだろうなぁと思う展開で、全てが余りにリアル過ぎて、判断に困るというか…。 これを見て、戦争の恐ろしさとか、思い込みの怖さ、情報操作の容易さとそれがおそらく日常的に為されているであろうことの恐怖…とかを感じるかと言ったら、あんまり感じないのではないかなぁ。全てはわかってるレベルなのだもの。

ああ、現代アメリカならこうだろうなぁと誰もが思うでしょうし、戦争による云々はそれこそベトナム戦争の時代からわかってる。まぁ、再認識させてくれるという意味ではいいかな。あ、でもこれはあくまで日本人の意見だから、アメリカ人が見たらまた違うのかもしれませんな。9.11のもたらしたショックにしても、実際に自分や家族や友人が戦争に参加するということも、我々は当事者にはなり得ないわけですからね。うーむ。

しかし、一点気になることがあります。真犯人が黒人なのはわざとなのでしょうか? 意外性というか、全くの身内に裏切られたという感じにするんだったら、裕福な白人にすべきだったような気がするんだけど。 やはり、これも人種間の反感というようなところに持っていくためなのかしら? 黒人が大統領を殺したということにより、人種間闘争みたいなのが起こってしまうのを懸念して、これも真実を伏せる要因になったと思わせるようにしてるのかな? 穿ち過ぎ? でも、あの国はいまだにKKKが堂々と存在してるようなところですからねぇ…。

あと、全てがリアルだとは言ったけど、襲撃時の警戒態勢はちょっと甘過ぎはしないかな? 要人暗殺と言ったら、近隣の高層ビルからの狙撃って定番でしょ。 ふつうならここは絶対チェックしてると思う。あと、報道もゆる過ぎ。まぁ、これはフィルムにする際に取捨選択したという言い訳はできるけど^^;

しかし、これを作ったのがアメリカじゃなくてイギリスだというのも相当に驚きですが、それを許すアメリカにも驚きますね(@_@;) その懐の広さは確かに王者の風格だ。 判断する知性に欠けるせいではないでしょう、多分^^;  てゆーか、これブッシュだったから有りだったのかもと思ったりもします。あの人って、ある意味では懐超広いもんね。ただのバカなんじゃ?とか無頓着なだけじゃ?と思わせる点もあるけど、様々な攻撃を受けても( それこそ靴を投げられても^^; )、平然としてジョークを( それも 「 どや?顔 」 で^^; ) 飛ばすというようなことは、なかなか凡人にはできないですよ。 私はあの人は相当キライですが、つまらないジョークを楽しそうに言うところ ( 本作中でもあります )はアメリカのおっちゃんらしくて微笑ましいなと思ったりします^^; もちろんイラっとすることもありますがね。