『 町長選挙 』 奥田 英朗

◆ 町長選挙  奥田 英朗 ( 文春文庫 ) \530  評価…★★★☆☆ <作品紹介> 町営の診療所しかない都下の離れ小島に赴任することになった、トンデモ精神科医の伊良部。そこは住民の勢力を二分する町長選挙の真っ最中で、なんとか伊良部を自陣営に取り込もうとする住民たちの攻勢に、さすがの伊良部も圧倒されて…なんと引きこもりに!? 泣く子も黙る伊良部の暴走が止まらない、絶好調シリーズ第3弾。  ( 文庫裏表紙紹介文 )
今回の帯の惹句は何故に 「 伊良部だって、ひきこもる 」 なんだろう??? もっと他に言うべきことがあるだろう。 つーか、そもそもひきこもってないしね。せいぜい数分、長くて10分間部屋から出てこなかっただけだろう(-_-#) いわゆる 「 ひきこもり 」 ( 今のご時勢、当然こちらを連想しますよね。精神科医の話でもあるし) にも本来の語の意味にも該当しねーよ。 で、表題作以外に収録されている3作は、物凄く明白に実在の人物と彼らに関わる事件などを題材にしています。わざとなのはわかるけど、ここまで露骨にしなくても…ってくらい(T_T) 5年くらい前に話題になった人々なので、月日の経つのを遅く感じる年寄りとしては、つい最近のことのように思えて生々し過ぎる感じがします。 ※以下ネタバレ有り※ ここでモデルの名前を明らかにするのはやめますが、以下に紹介するタイトルを見ただけでカンのいい人は見当がつくかと思います。 『 オーナー 』 、 『 アンポンマン 』 、 『 カリスマ稼業 』 ( 収録順 )。 あ、3作目は題名だけだとわかりにくいかなぁ。現実ではカリスマってほどでもないし。ヒントは40代の女優さんです^^; まぁ、これだけ露骨に現実を想起させる内容なのに面白いってのは凄いとは思いましたね。 『 オーナー 』 なんかちょっと感動的ですらあるからね。 表題作は荒唐無稽なようだけど、ある意味では一番リアルかもしれない。極端にカリカチュアライズされてるだけで、こういうことは確実にあちこちであるんだろうなぁと思わされる。でも、これもまた最後は感動的なんだよねー。いや、いいんだけど、いい話もキライじゃないんだけど( いや、キライかもしれないが… )、何かそっちに走り過ぎじゃないかなぁ。 トンデモ医師なんだけど実は名医なのか病気が治癒するという基本構造は変えられない以上、どの話においても問題はある程度は解決するので、アンハッピーエンドにはなり得ないとは思うのですが、何というか、本書みたくおさまりのいい終わり方は嫌なんですよね。 あと、前作でも思ったけど、伊良部がそんなにメチャクチャじゃない。 それと、マユミちゃんが人間性や私生活を垣間見せるようになってきたのもいかがなものか。 無表情でほとんどしゃべらず何を考えてるのかわからない、ある意味で伊良部同様、常識の通じない感じのマユミちゃんでいて欲しいと思うのですが。 うーん、このシリーズは今後どうなっていくのだろう…。この次を読んで、購読を継続するかどうか判断…だな(-_-;) うーん、作品の性質上、各作品についてはコメントしないでおこうと思ったけど、やっぱりこれだけは言いたい。 『 カリスマ稼業 』 はちょっとどうかと思います。自分が主人公やその周りの人に近いものがある ( 年代とか、アンチエイジングとか、若作りなファッションとか…(T_T) から言うわけじゃなく( いや、やっぱり、だから…かな?^^; )、作品としての出来が悪過ぎる。 実際、それらの題材に関わる部分はそんなに悪くなく、我が身を省みてイタタタタタと思うところもありましたが、その指摘も含めて全体としては共感できる感じだったのですね。 他の作品に比べると問題が卑近であるが故のつまらなさとかバカバカしさはあるけど、まぁ、それも何とか許容範囲。 しかし、結論が 「 やっぱり本当の若さっていいなぁ。本当の若さには勝てないわ 」 ってんじゃダメでしょう。 もちろん、それも真実ではあるけど、それでは何の解決にもならないでしょう。じゃあ、中年以上の人間は楽しみや美しさを追求せず、醜くくあれ、そして、ただ働いてろってのか?( マユミちゃん作詞の歌から判断するとね^^; ) ここはやはり、年齢相応、その人相応の生き方を目指そうとか、若さには若さなり、中年や老年には歳を重ねたなりの美しさや魅力があるという風にしないと。 そもそも、日本は異常な若さ至上主義社会だというところに問題があるんだからさ。 多分著者も一応そういうのを意識してはいるんだろうけど、どう考えても上手く表現できてなくて、「 本当の若さには勝てないんだから、ババアは若作りしてないで引っ込んでろ 」 みたいな感じにしかなってないんですよねぇ。やはり、男性目線だからかなぁ。 って、言うとひがみっぽいかしら? f^_^;) でも、そういう風に思わずにはいられない作品なんですよねぇ。実際、同類のオヤジは出てこないし ( 一人チラっとだけ出るけど、植毛は別にしたっていいだろう )。 それに、若い=美しいわけではなく、若さには若さ故の醜さもあると思うんですよね。オトナになってみると。そういう点もできるなら描いて欲しかったです。本作では残酷とか凶暴という言葉で表現され、しかも、それを肯定的に評価してるけど、それは一般的に言われてることだしねぇ。 そういう愚かさや醜さも若さ故だと思うと、ある種の美と捉えてしまったりもするところが年寄りのダメなところですね f^_^;) 確かに私も若い女のコの方が好きだし、歳のいったグラビアアイドルとか見ると「 オバサンいいかげんにしなよ 」とか言っちゃいますしね…。あ、でも、これは同類嫌悪の一種かも(*_*) でも、私は若い頃より今の自分の方がいいと思ってますよ、マジメな話。 ああ、中身については微妙ですが…(-_-;) 別に若い頃デブだったとか、整形したとか、宇宙人に攫われて何かを埋め込まれたとか、ショッカーに攫われて改造人間になったとか言う事実はなく、とりたてて改善もされず、むしろ加齢に伴い衰えるところは衰えてると思いますが、それでも、今の自分と10年前の自分を取り替えたいとは思いません。満足はしてないけど納得してます。 色んなことがわからず試行錯誤していた頃より、自分のことがある程度わかってる状態の方が良いと思うんです。 まぁ、歳はとりたくないとは思うし、若いっていいなぁぁぁとも思うんですけどね f^_^;)