『 バジリスク甲賀忍法帖 』 せがわ まさき

◆ バジリスク甲賀忍法帖 ( 上 ) ( 中 ) ( 下 )    漫画:せがわ まさき/原作:山田風太郎 ( 講談社漫画文庫 )  上、下巻 = \735、中巻 = \714  評価…★★☆☆☆       <作品紹介> 徳川三代将軍の世継ぎ問題を決着させるため、10人対10人で忍法殺戮合戦をして、生き残りを懸けることになった甲賀と伊賀の忍者たち。しかし憎み合う両家にあって、それぞれの跡取り、甲賀弦之介と伊賀の朧は深く愛し合っていた。 山田風太郎の大人気 「 忍法帖 」 シリーズの記念すべき第1作目 『 甲賀忍法帖 』 を、希代の絵師せがわまさきが漫画化した本作が、文庫になって再臨!!   ( 文庫裏表紙紹介文 )
風太郎作品を漫画化した中では最高傑作ではないかとの呼び声も高い本作、ずっと読みたいと思っていて文庫化を知ってすぐさま飛びつきました。が…、そんな、いいですか、コレ? 原作と漫画は別物だし、風太郎さんの物凄い文章に匹敵する漫画がそうそう描けるとも思えんので、そんな過大な期待はしていなかったと思うのですが、うーむ…。 小説には小説の、漫画には漫画の長所と短所がそれぞれありますが、風太郎作品はもともと漫画的なところがあるので、漫画としての強みを最大限に活かしてくれれば、もっと凄く面白いわくわくする作品になったと思うんですが…。本作は原作に遠く及ばないのは言うまでもなく、漫画としての面白さも平凡なものだと思います。あ、でも、原作を読んでない人にはあの奇想天外な忍術合戦だけで十分面白いですよね。 うーん、でも、それはやはり原作の力であって漫画としての面白さじゃないし、やっぱり漫画としての出来は星ふたつ程度じゃないかと私は思います。先入観無しに判断できなくて申し訳ないですが、一般的には高評価みたいだし私がここでグダグダ言ったところで、さして問題はないでしょうf^_^;) …というわけで、本作読んで面白いと思った方は是非ぜひ原作をお読みになることをお勧めします! (>_<)/ ※以下ネタバレ有り※ まぁ、これは好みの問題もあるでしょうけど、私に言わせると本作の最大の難点は女性に色気がないことですね。せっかく絵という素晴らしい表現手段があるのに文章に勝てないようでは困ります。 いや、画力は相当にある人だと思いますよ。で、露出もふんだんで、しかも、シュチュエーションもエロい。でも、そそらないんだよなぁ(-_-) 生身の映像を映す映画と違って、漫画の場合は肉感的なねえちゃんが、やたらに裸になってエロいポーズをとってればいいというものではないと思うのです。風太郎作品にある情念のようなものがちっとも伝わってこないんですね。 てゆーか、あのエロポーズはやり過ぎですよね。女性は着衣でも当然、半裸や全裸でならなおのこと、あんなに脚を開いたりしませんよ。わざとであれば尚更です。見えそうで見えないからこそ誘惑されるんでしょうに。本来なら自然な流れでのエロシーンなんだから、きちんと描いてくれればそれだけでよかったのになぁ。ほんとに絵が上手なだけに何故こうなんだろうと、最後の方にはインリンのような不自然なエロポーズをとる女忍者たちにイラッとしてきたくらいです(-_-;) まぁ、原作読んでない人や妙な思い入れのない人には十分エロく色気十分に感じられるのかもしれませんが。てゆーか、多分そっちの方が多数派で、私がおかしいのだろうなぁ…(-"-;) で、そういう情念の足りなさ加減は忍術対決の部分も同様で、達者な絵で細密なグロ描写をしているのですが、何だかどうもいけません。何か全てがあっさりしてるんですよねぇ。原作である 『 甲賀忍法帖 』 が風太郎作品の中でもかなり好きなこともあって残念で仕方が無い。 男性陣はほとんどこの世のものとは思えない忍術だらけ、女性陣は美しくエロティックでありながらも恐ろしいという忍術がほとんどで、絵にしたらさぞ面白かろうと思っていたのですがねぇ…。 ちなみに、それらの忍術がいかようなものか、せっかくなのでいくつかご紹介しましょう^^ まず男性陣。腹部が鱗状になっているおり腹部周辺内外の筋肉などが異常発達していて、蛇のように自由に動き回れる上に30cm以上の刃物を飲み込んでおき、随意に激しい速度で吐き出すことができる忍者、 塩に溶けてることによって体内の水分を放出して、本来の体積の4割程度の体積のゾル状になって動き回ることができ、その後水をかければ復活する忍者 ( 私はこれがお気に入り^^; この発想有り得ないですよねぇ… )、 どういう仕組みになってるんだか、とにかく死なない忍者。毒で死のうが、傷で死のうが、とにかく蘇ってくる。 傷で死んだ時は組織再生が恐ろしい速度で為されるっていう描写が一応あるんですが、いずれにしても、その時点で既に死んでいるんですよね。ちなみに老化も遅いのか何とかできるかするらしく200年くらい生きてるようだが見た目は壮年。これは忍術とかではなくて妖怪ではないのか? いや、他の人々も限りなくそれに近いですけどね^^; 女性陣は、接触すると吸着する肌を利用して相手を動けなくした上で全身の血を吸い取る能力( この仕組みは不明 )とか、 性的に興奮すると呼気に毒が含まれる体質とか、 相手と性的に接触することが前提っぽいのが多いのですが、まぁ、その方が盛り上がりますからね。あ、この吸着型の絵は結構よかったです^^  でも、最も忍術っぽい上に絵で表現する方が盛り上がるに違いない蛍火 ( 地上のありとあらゆる昆虫類と爬虫類を自由自在に操れる能力 )がいまいちなのが残念でした。 全身から自在に血を噴出できるという訳のわからない能力の朱絹はまぁまぁかなぁ。 しかし、本作の白眉とも言える存在の陽炎は、やはり設定が素晴らし過ぎて漫画では描き切れないのかなぁと言う気が今になってしてきましたな。絶世の美女で滴り落ちんばかりの色気を湛えているのに、その官能が花開く時に息が毒に変ずるという二律背反のような存在。己も周囲をも不幸にする悲劇的な能力ですよねぇ…。ちなみにこれは忍術というより特異体質ですね。まぁ、風太郎氏描く忍者の能力の大半は人間とは思えない特異体質なんですが(笑)、 その持って生まれた能力に磨きをかけたり上手く利用したりできるタイプと制御できないタイプがいて、陽炎とか朧は後者ですね。 …とつらつら書いてきて今更ながらに気づいたけど、この作品に対する微妙な不満感は背景が手描きじゃない( PCによる画像処理? ) ところから来るのだろうか? それが故に情念が足りない気がするのかしら? 手描きでも背景は全てアシスタントが描いてるかもしんないじゃんという意見もあるでしょうが、それはそれでやはり念がこもりますからね。やっぱり、そういうことなのかなぁ…。あと話のまとめ方もあっさりし過ぎです。まぁ、風太郎さんもかなりあっさりばっさりなんですけど、細部に魂がこもってますからそうは思えないんですよね。って、何か精神論になってるか?(*_*)  願わくば荒木飛呂彦とか萩原一至とかの濃い絵柄の描き込み系の人が描いた風太郎作品を読みたいなぁ…( 古いジャンプ作家に偏っててすいません… )。 小畑健とかは上手いけど色気とか情念に欠けるんだよなぁ。あ、絵はそれほど上手くないし女性に色気があるとも言い難いけど、破天荒な面白さと妙なパワーと言う点では平松伸二とかもいいですね^^ ( 11月読了分 )