『 自虐の詩 』( 2007・日 )

◆ 自虐の詩  ( 2007年・日本)  監督:堤 幸彦  出演:中谷 美紀、阿部 寛、西田 敏行、カルーセル麻紀、遠藤 憲一 他  評価…★★★☆☆       <あらすじ> 幸江とイサオは共に30代の内縁の夫婦だ。イサオは男前だが無口で無職で怒りっぽく、気に入らないことがあるとすぐちゃぶ台をひっくり返すし、外でもすぐ相手を半殺しにしかねないケンカをする。ケンカ以外にすることと言えばパチンコ、麻雀、競馬といった賭け事の類で、しかも、こちらは決して強くはない。しかし、幸江はこんなイサオを心から愛していて、小さな中華料理屋で働いて、あれこれやりくりしながら生活を支え、イサオが外で不祥事を起こしたら後始末をし…と傍からは苦労ばかりの生活にしか見えないのだが、毎日幸せそうに過ごしていた。周囲にはわからなくても、どうやらイサオも幸江を愛してはいるらしく、ごくたまにだがそういう様子が見え隠れする。 そんなふたりは実はちょっとわけありらしく、以前は東京にいたが、そこにいられなくなって大阪へ来たらしい。そして、幸江はさらに少女時代からの辛い記憶も抱えていた。こんな二人は果たして幸せになれるのか?
うーん…、この映画の評価はちょっと難しいですねぇ。原作ファンからすると星はかなり甘く評価しても1・5くらいしかやれない感じなんですが、虚心に映画として見たら色々と微妙なところはあるけど、まぁ、そこそこ面白いのかなぁと思わないでもない。で、悩みに悩んで結局3つにしてみました。星1.5分はイサオ阿部寛という絶妙のキャスティングと、少女時代の熊本さん役のコと、原作とは全然違うけどいいじゃんと唯一思わせてくれたカルーセル麻紀の隣のおばちゃんへ捧げます^^; ※以下ネタバレ有り※ で、本来は映画と原作との違いをあげつらっても仕方ないとは思うのですが、私は原作を好きでなければこのテの映画を決して見ることはないであろう人なので、ちょっと言わせて頂きたいと思いますm(_ _)m キャスティングは悪くないと思います。中谷美紀じゃきれい過ぎるとは思いますが、主役張るくらいの女優で幸江さん並のルックスってのは難しいでしょうからねぇ。ちなみに、顔の造作とか幸薄そうな感じでいうとハリセンボンのはるかなんか良いですが、彼女は体が貧弱だからダメかな。幸江さんはそこそこ豊満なところが余計に不幸な感じを醸し出しているし、実際に招いてもいたのだと思われるので、ここは譲れませんよね。中谷美紀はそれなりに上手にやってたとは思うし、彼女以外に適当な女優がいるかと言ったら、ちょっと思いつかないのですが、私のイメージからするとちょっと強気過ぎで明る過ぎでした。あと、やっぱりきれい過ぎますよねぇ。もう少しブスメイクすべきだと思います。 中華料理屋のマスターは原作とかなり違う設定になってるけど、これはこれで、まぁいいかなという感じ。何といっても、相手が中谷美紀なので、何故あの幸江さんにそんなに惚れてるのかという滑稽さが出ないのでね。イサオと隣のおばちゃんは前述の通り。 で、どうにも納得できないのが幸江さんの父親=西田敏行。物凄くよく似た父娘であるという表現はマンガでしかできないから仕方ないとしても、あのどうしようもないクズさ加減が全然出てないんですよ ( これは俳優のせいじゃなくて演出等のせいだと思うけどね )。 で、物凄いクズなんだけど、うまく取り入ってくる感じ。あの許し難いのに、でも許しちゃうようなクズさ加減は是非ちゃんと描いて欲しかった。 そして、全く許し難いのが成人した熊本さん=アジャ・コング。これに関してはキャスティングだけでなく設定の変更にも激しく不満があります。少女時代の熊本さんが凄くよかっただけに落胆は大きかったですよ。 で、細かい話とか演出とかに文句つけてたらキリがないんですが、絶対これはない!と思うのが舞台が大阪であること。一応、以前は東京にいたけど、ふたりが一緒になるために逃げてきたということにはなってるんですが、それじゃダメなんです。東京に出たら何とかなるとか、東京にいれば何とかなると思わせる、どこから誰がきてどこにいるのか、今自分がどこにいるのかわからない、でも、人を異常に惹きつける、厳しく優しい、あの不思議なコワイ街が舞台じゃないとダメなんですよ。人情と笑いのあふれる街・大阪では自虐の詩は歌えないのです。 そして、個人的には幸江の出身地が気仙沼なのも嫌です。いや、土地柄には別に文句はないんですが、あの訛りが許せない。地方だから訛りがある方が自然なのだろうけど、あんな風に強調しないで欲しいんですよ。誰もが感情移入できるように、どことも知れない、どこにでもある田舎であって欲しいんです。ちなみに私のイメージでは関東甲信越のどこかで、そんなに東京に近くなくて、それほど寒くないところです ( 余り寒いところだと貧乏暮らしはできないから )。 そして、幸江と熊本さんの少女時代のエピソードがうまく描ききれてないのは良いのですが、ラストにお互いが一応幸せと言える状態になってから再会するシーンでの熊本さんに関わる設定もろもろは許し難い。夫はエリートっぽくはあるけど黒人で、熊本さんは妙な民族衣装を着ている。しかも、アジャ・コングって、何それ。少女時代あんなだった熊本さんが成人したら、ちょっと垢抜けた都会的な女性になってて、しかも、比較的裕福そうで、望んでいた以上の、でも、ごく当たり前の幸せを手に入れているって言うところがいいんだよ!何でここを茶化すんだよ!これはほんと腹立ちましたね。感動的なはずのラストが全く感動的じゃない。映画はコミカルで極端な感じに描かれてるから、原作を知らない人はあれでもいいのかもしれないけど、あれでは原作のメッセージは全く伝わっていないんですよ(T_T) まぁ、原作で表現できたもの全てを映画が表現できるとは思ってないし、そんな期待はしていなかったですけど、こういう重要な部分が変わり過ぎているのがどうもねぇ…。そもそも原作と映画は別物として見るべきなのでしょうけど、原作が優れているとどうしても囚われてしまうんですよねぇ。 で、この映画を見てる人も見てない人も、原作を読んでない人には是非ぜひ読んで頂きたいと思います。 最初はちょっと変わった設定ではあるけど、ありきたりな感じの4コママンガだったのが、途中で大化けするんですよねー。4コマ読んで泣いたの初めてですよ。私は 「 泣ける○○ 」 みたいの大っっっ嫌いなんですが、そういうのは別としてコレは本当にお勧めの作品です。 自虐の詩 (上) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)
自虐の詩 (下) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)