『 落下する緑 永見緋太郎の事件簿 』 田中 啓文

◆ 落下する緑 永見緋太郎の事件簿 田中 啓文 ( 創元推理文庫 ) \777 評価…★★★☆☆ <作品紹介> 唐島英治クインテットのメンバー、永見緋太郎は天才肌のテナーサックス奏者。音楽以外の物事にはあまり興味を持たない永見だが、ひとたび事件や謎に遭遇すると、楽器を奏でるように軽やかに解決してみせる。逆さまに展示された絵画の謎、師から弟子へ連綿と受け継がれたクラリネットの秘密など、永見が披露する名推理の数々。鮎川哲也も絶賛した表題作にはじまる、日常の謎連作集。  ( 文庫裏表紙紹介文 ) 噂には聞いていたけど、こんな田中啓文もあるんだなぁーと本当に感心させられました。物凄く正統派のミステリなんですよ、これ。ダジャレもお笑いもエロもグロも異常性格者も全く出ない!凄いなぁ、啓文さん、こんなこともできるんだぁ(@_@;)
紹介文にもあるように、狂言回し的な役割の人物が自らのバンドを率いるジャズトランペット奏者で、探偵役がそのバンドの一員でもある若きジャズテナーサックス奏者という設定なので、描かれる事件のほとんどがジャズ業界内の話で、そうでない話もジャズ好きの画家や作家の話という具合なので、主要登場人物のほぼ全員がごく普通の一般人とは言いにくいのですが、いつもの啓文作品に出てくるような何処かが壊れてる感じに常軌を逸している人はひとりも出ません。 何らかの罪を犯してしまう人も含めて、みんな芸術を愛している、愛すべき人たちなんですよね。だから、描かれる事件自体も血生臭いものや殺伐としたものではなく、むしろ、微笑ましいようなところのあるものが多く、従って、ラストもハッピーエンドに類したものになることが多く、読後感も実にさわやかです。読んでて、ほんとにこの作者があの田中啓文なのだろうかと不安になってきたくらいです(笑) あの田中啓文が好きな私には、本書はあっさりし過ぎで本来は余り好みではないタイプなのですが、好感が持てる登場人物たちに良く出来た話で、ほとんど知らないジャズ界の話も興味深く、充分に面白く読むことができました。 表題作を始めとして、色で揃えた題名も気が利いていて素敵です。まず、目次にずらりと並んだ不思議な題名がどういう風に作品に関わってくるんだろうと考えて読み始め、読後、ああ、そういうことだったのかと思ったりして、なかなか楽しかったですね。正統派ミステリとしてはかなりよくできた良い作品集だと思います。 あ、ジャズの知識が全くなくて、さほど興味もないという人にも十分に面白く読めると思います。まぁ、全ての音楽が嫌いだとかいう人だと面白くないかもしれませんが。 しかし、ジャズ好きな人は知識のない私なんかが読むよりはるかに面白いんだろうなぁと思うとちょっと悔しい気がしないでもないですね^^;