『 浄土 』 町田 康

◆ 浄土   町田 康 (講談社文庫) ¥580 評価…★★★★☆ <作品紹介> いま、ここに浄土があらわれる。破天荒なる暴発小説集  ( 単行本時の紹介文より) あなたはどぶに立ち汚辱にまみれて立ちつくしている一個のビバカッパをちゃちゃちゃんと見なければ、凝視して、そして笑わなければあかぬかったのだ。って、そして、あ。ビバカッパ。俺のこれまでのビバカッパは贋物だった。いまこそ俺は真正のビバカッパを叫ぶことができる。ビバ!ビバ!ビバ! 泣きたいような歓喜の中のビバ!カッパ!  ( 『 どぶさらえ 』より引用 ) そこにいる人々はみな本音しか言わず、本音に沿った行動しかしない。大抵の人には疎まれる存在である、そこ、本音街に私は時々行きたくなり、密かに足を踏み入れる。 … 『 本音街 』 ある日突然、東京都中野区に恐ろしい生物が出現した。身長は65m、凶悪な目つきをして全体の印象はコウモリに似ており、300万ヘルツの超音波を口から気まぐれに吹く。危険で恐ろしく、迷惑この上ない生物だ。 … 『 ギャオスの話 』 位多子は不幸な巡り合わせから稀代のボンクラである後輩・温夫の仕事を押し付けられるはめになっていた。憤懣やるかたない位多子が、ほんの思いつきでした行為が温夫に予想外な変化をもたらす。 … 『 自分の群像 』 他、『 犬死 』 、『 あぱぱ踊り 』 、『 一言主の神 』 の全7篇を収録。 ----------------------------------- まぁ、それにしても内容を説明しにくい作品集だよ、全く(笑) でも、表題作方式じゃなくて作品集に独立したタイトルが付いてるって、最近ではあんまり見ないけどちょっといいですよね。 やっぱり町田康は詩人だからなぁ。ビバカッパ! ( 本書を読んだ人はしばらくこれを言いたくなるに違いない^^; ) あ、文庫裏表紙紹介文にある 「 爆笑暴発小説集! 」はちょっと違う気がしますね。 個人差があるとは思いますが、私見では爆笑するというような面白さではないと思います。 笑いの要素は確かにあるのだけど。 「 暴発小説集 」 ならアリかな。 あと、町田作品はいつも 「 パンク 」 って形容が付くような気がするけど、音楽性はともかく文学性はそうでもないと思うけどな。特に本書は意外なまでにフツーな感じがするものもあるし。
※以下ネタバレ有り※ うーん、やっぱり町田康は面白い。それに何か変わったよね、この人。 町田康作品はデビュー作からほぼフォローしてきてると思うのだけど、最近 ( …と言っても、私は文庫で追ってるから数年遅れの意見ですね(>_<) の成長は著しい。 私にとっての町田康作品は、一部理解不能に近いものもありながらも、うーん、でも何か面白いんだよなぁって感じで、新作が出たら飛びつくって程ではないんだけど読むのはやめられないというようなものだったのですね。それが 『 パンク侍、切られて候 』 で何か突き抜けた気がします。 いつになっても、小説も書くミュージシャンって言うスタンス ( 後者より前者としての方が圧倒的に有名ではあるけどね ) だったのが、名実ともに作家になったって感じ。 今までみたいに作品を読み終えて、「 面白いんだけど、いいんだけど、もう少し何か… 」ってのがなくて、本書の場合はむしろ感心しました。 これは著者初の大長編で且つ実際の事件をモチーフにしたという 『 告白 』 も読まねばなるまい。 短編主体の著者にしては余りに大部の書であるのと、文庫にして1200円という価格に躊躇していたのだが、今の町田康が書いたのならば、きっと損にはならないだろうから。 …って、ただダラダラと本を読んでるだけの輩のくせに何だか評論めいた文章になってますね(@_@;) お恥ずかしい(>_<) あくまで私見なので聞き流して下さいませね m(_ _)m で、やっぱり、本書の一押しは『 どぶさらえ 』かなぁ。 何と言うか曰く言い難い魅力があるんですよ、この作品。 いや、それより、その魅力は、「 ビバ!カッパ! 」に尽きると言った方が正しいのかな?(笑)  話の内容から 「 ビバ!カッパ! 」に至るまでを説明するのが困難だったので、作品紹介ではあらすじではなく長々と本文を引用してしまいましたが、あの文章に惹かれた方は読んで間違いなし!だと思いますわ。 実際の「 どぶさらえ 」に至る話も面白いけど、河童が何故 「 ビバ!カッパ! 」と叫ぶかという冒頭の考察が最高です。 あとは、やはり紹介文に採り上げた『 ギャオスの話 』、『 自分の群像 』等がいい感じかな。前者は単に私が円谷や東宝系の怪獣が好きだというのもあるかもしれないけど(^^;)、実際のギャオスを知らない人にもきっと面白いと思う、町田康らしさと俗っぽさがいい感じにミックスされた作品です。 後者は町田康作品とは思えないフツーさ ( 設定や展開は奇想ではあるけど舞台がごく普通の企業のオフィスなんですよ! ) に驚き、そして、それが充分にリアルで面白いのにまた驚きましたね。 温夫、いるよなぁ…。 『 本音街 』 は町田康っぽいけど結構フツー。 でも、面白いって感じ。 フツーというより、わかりやすい、という表現が適切なのかな。 『 犬死 』 と 『 あぱぱ踊り 』 は 町田康らしい作品。 『 一言主の神 』 は神話と歴史ベースというのがちょっと新鮮でした。 美味いよね、ボンベイサファイア^^;