『 物語 オランダ人 』 倉部 誠

◆ 物語 オランダ人  倉部 誠 (文春新書) ¥735

 評価…★★★★☆

<作品紹介>

ヨーロッパ暮しにあこがれ、美しいオランダに赴任した著者が出会ったのは、根強い反日感情、そして聞きしにまさるケチで自分本位な人たちだった。辟易するような隣人、愛犬の糞を片づけない淑女、責任を回避する会社員―。

それほど個人主義的な、自由平等をよしとする社会なのに、王室は安泰、国民総背番号制も実施されている。労働者は過保護なほど守られ、リストラとは無縁だし、拝金宗徒といわれながらも、対外援助活動や環境保護に熱心で、国際的発言力も強い。同性愛者同士の結婚、安楽死の容認‥。 この国には日本の未来を考えるヒントが沢山ある。  

( 表紙折り返し紹介文 )


鹿島茂氏が 『 乳房とサルトル 関係者以外立ち読み禁止 』 で紹介してた本書の内容が余りに面白そうだったので、つい購入してしまいました^^;

で、期待に違わず実に興味深く面白い本だったのですが、内容は『乳房と~』の紹介からイメージしてたものとは結構違うものでした。 『乳房と~』で本書について触れていた部分は、ほとんどが本書の紹介とその引用で綴られているかのように思える文章で、実際に本書を読んでから再読しても確かにそうだったのですが、それでも、きちんと鹿島節になっているのだなぁとちょっと感心。

閑話休題。 とにかく、この本には知られざるオランダ人の生態があふれています。全く理解できない部分、共感できない部分もあれば、興味深い部分、深く感心させられる部分もあって、オランダ人ってこんなに魅力的な人達だったのか!と驚かずにはいられません。まぁ、個人的には余り仲良く出来そうもないなぁという気はしますが^^;

著者はバリバリの理系でメーカーの技術職だった方で、文章は余り上手くはないし突っ込んだ考察のようなものもないですが、わかりやすく読みやすいですし、事実だけで充分に面白いのでこれでよろしいのではないかと思います^^

私のオランダについての知識は実にお粗末なもので、すぐに出てくるのはチューリップ、風車、飾り窓の女( いきなり品が下がる^^; )、鎖国時唯一の国交相手… てなくらいですかね。ちょっと踏み込んでも、その鎖国時に国交が許可されたのは踏み絵に抵抗がなかったからとか、英語で 「 Dutch 」 がつくのは余りいい言葉じゃないとか、その程度かな。更に頭を絞って、やっと太平洋戦争の時にインドネシアで日本と対立したよな…くらい。

これが最後に出てくるってのは実にお恥ずかしい話ですが、多くの日本人にとってはオランダは敵対国というよりは鎖国時にも付き合ってた友好国っていうイメージの方が強いんじゃないかなと思うんですよね。ところがどっこい( 死語 )、先方には全く逆で今でも非常に反日感情が強いというのですね。加害者はすぐに事件を忘れてしまうけど被害者は忘れないという好例ですね。まぁ、先方にしてみれば猿だと思ってたような連中にやられたから悔しさもひとしおなんでしょうけど。まぁ、この辺の話は掘り下げると大変なことになるので置いといて。

と、つい重い話を先に出しちゃいましたが、その知られざる生態でやっぱり面白いのはその吝嗇ぶりと個人主義ぶりです。とにかく金が大事という拝金主義ぶりはいっそ清々しいほどで、甚だ感心したのは、結婚式は平日の夜に行われ、そこで供されるのはほんのわずかな軽食だけだということ。もちろん招待客もお祝い金を包んだりはせず、高くても数千円程度のプレゼントを用意するだけなんだそうです。これは素晴らしい! 日本もぜひそうすべきだ、あの物凄くムダな金と準備時間を費やさねばならない結婚式なんかやめちまえと思う反面、女子はやっぱりキレイな服は着たいよな…と思ってしまったりして^^;

そして、拝金主義と並ぶ特徴である徹底した個人主義ぶりも面白いですねぇー。 KYなんて略語を作ってしまうような日本人には到底付き合いきれない人々とそのエピソードの数々。 どれもひどいのですが私生活に関してはまぁ、個人の自由ということで許せないことはないんですが、仕事や職場に対する姿勢はどうかと思いましたねぇ。仕事に関する考え方だけは模範的日本人である私は、彼らの職場における態度や仕事の姿勢に驚き呆れ、果ては怒りを覚えましたよ。 絶対ここでは生活できないと思いましたね(-"-;) 

ちなみにどのくらいひどいかと言うと、松下電器は「 仕事の改善を自己の向上とみなして真摯に働く 」 という企業理念があるそうなんですが、その考え方はオランダでは全く受け入れられず鼻で笑われるだけなので、拠点をおかないことにしているんだそうですよ。( 2008年現在はどうか知りませんが )

それやこれや、ほんとに全ての章にわたってエピソード紹介しつつコメントしたいとこなんですが、後半の社会制度関係になってくると言うべきことが多くなり過ぎるし、私の知識では捌ききれないし、大変なことになってしまうので、涙をのんでこの辺でやめときますが、我が国で昨今問題になっているところの、雇用、医療、高齢者関係の問題、税制、教育などについて、非常に参考になることが多いです。 国際社会におけるあり方など、彼の国と我が国では様々な事情が異なるので一概に真似できないことも多いですし、教育制度他一部に肯けない部分もありますが、それら制度の仕組みや徹底振りには目の覚めるような思いがします。

特に、「 拝金教徒 」と言われるほど吝嗇な国民性でありながら、他国に人災・天災などの大きな不幸が発生した場合は、国家も国民も即座に支援行動をとるということには感心しました。 物資や義援金を送る、人的支援を行う等々のことを災害が報道されると即時に一般の民間人がごくふつうに行うんだそうです。しかも、その場限りでなく継続的に。国家としても世界中で一番早く援助の手を差し伸べるのがオランダなんだそうですよ。それと環境保護に関する事業を率先してやっているのも素晴らしい。

こういうのを読むと、やっぱりアメリカや日本なんて、しょせん成り上がりのガキだよなぁと思わされます。 精神が成熟してない上に貧しいんですよね。 しかも、最近では成長せずに、ただ形が歪になっていっているだけのような気がします。  それは自分も含めてかもしれませんが…。

( 1月読了分 )