『 13日の金曜日 』 (1980・米)

◆ 13日の金曜日  ( 1980年・アメリカ )

 監督:ショーン・S・カニンガム

 出演:アドリアンヌ・キング、ベッツィ・パーマー、ケビン・ベーコン

評価…★★★☆☆

<あらすじ>

美しい湖のほとりのキャンプ場クリスタル・レイクは、20年前に監視員の若者2人が何者かに惨殺された事件を皮切りに、子供の溺死、水質汚染と立て続けに不幸に見舞われ、長らく閉鎖され、地元では 「 呪われたキャンプ場 」 「 血のキャンプ場 」などと呼ばれて恐れられていた。

しかし、最初の事件から20年経った夏、キャンプは再開されることになった。都会からの子供達を受け入れるようにお膳立てが出来、その準備のために管理人のスティーヴと監視員の若者たちが集まってきた。当時の惨劇を知らず、はしゃぐ若者達。しかし、魔の手は確実に忍び寄っていた。ひとり、またひとりと若者達は姿を消していく。このキャンプ場は本当に呪われているのか? それとも…? 恐ろしい殺人鬼の正体は…!?

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わはは。今さらこんなあらすじ書いてる自分に笑っちゃった^^;

えー、ホラーファンにもそうでない人にも余りにも有名な 『 13日の金曜日 』シリーズですが、その第一作めには殺人鬼ジェイソンは出現しないことは意外に知られていません。

さて、本作の犯人は…? わはは^^;


私は13日の金曜にはこのシリーズのどれか一本を見ることにしています。

……とか言ったら、このブログ読んでる方には、うっかり信じられちゃいそうでコワいですね。 ウソです。単なる偶然です。先日、 『 ショック!残酷!切株映画の世界 』 という非常に愉快な本を買った( 会計時に店員の男のコに表紙と私の顔を二度見された^^; )のですが、その中で高橋ヨシキ氏が書かれてた『 13金 』シリーズの話が面白かったので、久しぶりにちょっと見てみようかと思いまして。

まぁ、前から見直さなきゃいけないなあとは思ってたんですよね。スラッシャー映画の元祖と言われるこの作品、シリーズ作品も含めて当然何度か見てはいますが、その頃( 20年以上前 )と今とではものの見方が相当に違ってますからね。

ちなみに同義語のように扱われがちですが、スプラッターとスラッシャーはちょっとニュアンスが違うんですよね。「 splatter = 水や泥などが飛び散る 」、「 slasher=ナイフで切る 」 という違いから判断して頂きたいのですが、前者はとにかく派手に血しぶきが飛び散り内蔵があふれるような残酷描写に重きを置いた映画で、後者は刃物を持った殺人鬼の映画と言った感じでしょうか。まぁ、昨今では大抵の場合は同じようなことになるわけですが^^; 

…と、まぁ、こんな人生において何の役にも立たない、むしろ害になるような薀蓄を語るようになった私の目で改めて鑑賞したいものだなぁと思っていたわけですよ。相変わらず前置き長いっすが。

※以下ネタバレ有り※

いやぁ、やっぱり見てよかった! 事前の知識はあったものの、改めて見るとほんとに意外なほどつまらないところがあるかと思えば、驚くほどよくできてると感心するところもあるし、時代の変遷も感じるし、何か不思議な感じでしたねぇ。でも、ほんとに何より驚いたのは、ほんっとに2作目以降とは全く違う話なんだなあってことですね。一応知ってはいたけど、改めて見て、こんなにまで違うのかと驚き呆れました。よくあれを続編として受け入れられてたな、私たち。殺人鬼ジェイソンの魅力恐るべしですね。

一応、解説すると本作は連続殺人は起こるけど、ずっと姿無き殺人者なんですね。しかも、呪われたキャンプ場だから幽霊の仕業だろうってイメージの方が強い。電気が消えたり強い雨が降ったりするのも、何か超自然ぽいし、殺人鬼の神出鬼没ぶりと手際の良さも人間離れしてるしね。( 姿を現したとたんに凄く手際が悪くなるけど^^; ) そして、最後に正体を現した殺人鬼は子供を失った悲しみと、そんな状況に追い込んだ連中への怒りで心を病んでしまった母親だったというオチはサイコホラーです。 「 ママ、あいつらを殺して! 」 「 ええ、仇はとるわよ、ジェイソン! 」とろくに声も変えずに物凄くあからさまに母と息子の一人二役 ( 『 サイコ 』 のノーマン・ベイツと逆のパターンですな^^; ) してくれるボーヒーズ夫人は滑稽でありながら、逆にそこがリアルな感じもして結構コワイです。

しかし、どんなにいいところがあっても、ラストのアリスとボーヒーズ夫人とのグダグダの対決シーンは頂けませんねぇ(-"-;) 全く緊張感がない上にムダに長いんだもん。一度襲いかかって失敗した夫人が、再度アリスを追い詰めた時に何すると思います? 往復びんたですよ。その後もしばらく平手打ちの連打が続きます。いくら得物を失ったからってそれはないだろう…。今までの芸術的なまでの殺しぶりはどこに行ったんだ(T_T) 

そうそう、ウワサには聞いていたけど、無名時代のケヴィン・ベーコン演じるジャックの殺害シーンはほんとに素晴らしかったです! ( 実際に見てもいるはずなんだけど当時はこんな人間じゃなかったので記憶にない^^; ) 二段ベッドの上段に友人の惨殺死体が転がっているのも知らずに下段で楽しむカップルという設定がまず刺激的なんですね。しかも、上の男の子は下の女の子に気があったみたいだし。で、時代的なものなのか演出なのか、お楽しみの最中にほとんど声を発することもなく ( 喘ぎ声も激しい息遣いもほとんどなくて、表情と吐息のみで表現 ) 妙に静かなのもあって、緊張感が高まっていくわけです。

彼らはいつ気付くんだろう? 気付いた次の瞬間がおそらく彼らの最期の時だなとか思いつつ見ていると、とりあえず営みは無事完遂されて女の子の方が用足しに出て行く。そして、一人ベッドに横たわったジャックが上から何か滴り落ちてきているのに気付く。額に付いたそれを拭った手を見る様を見て、 「 あ、気付いちゃった!そうだよ、上だよ! 」 と思っていると、突如、ジャックの横たわるベッドの下から鋭い矢じりが突き出してきて、彼の喉を貫く。溢れ出す血はみるみるうちにシーツを染め、ショックで虚ろになったジャックの目はそのまま生命を失った虚ろさへと変わっていく。悲鳴すら上げることのできなかったジャックは何が起こったかに気付くことはなかっただろう。 てな感じで、地味だけど迫力があって、凄くいい殺しのシーンです。 純朴だった当時の観客には 「 俳優を本当に殺した 」 と思った人も多かったとか^^;  でも、相当にスレている上に仕掛けも知っている今の私が見ても結構な迫力ですからね。そういう映像に慣れていなかった上に単純バカな 純粋なアメリカ人たちがそう思い込んだのも無理はないと思います。

それ以外の殺人や死体シーンもよくできてはいます ( さすがトム・サヴィーニ^^ )が、やはり今見ると比較的地味で( 殺害シーンそのものがない死体すらある )、最も派手なのは犯人であるボーヒーズ夫人の首が切断されて吹っ飛ぶシーンでしょうね^^; 

しかし、いくら追い詰められたからと言って、人の首を切断して、してやったりとばかりに微笑んだアリスが私は怖かったですね。しかも、その後も凄く平然としてるしな。確かにボーヒーズ夫人は連続殺人犯ではあるけど、心無い若者たちのせいで愛する息子を失って心を病んだかわいそうな人なんだというような意識はカケラもないわけですねぇ。そりゃあ、死んだはずのジェイソンも蘇る( 本作ラスト )し、成長して暴れまわるわ( 続編以降 ) 。

しかし、公開から28年後(!)の現在の目で見ると、しみじみ時代を感じるシーンがいくつかありましたねぇ。 まず、冒頭の若者たちのシーン。後の作品のイメージから無軌道な若者たちの乱痴気騒ぎと思ってたら、あなた、みんな揃いの、ボタンをきっちり留めて裾もパンツインした襟付きシャツ( 黄 )とバミューダバンツ( 白 )姿で、フォークギターを伴奏に 『 漕げよ、マイケル 』 の合唱ですよ! しかも、大学はハーバードだとか言ってるし。まぁ、そのシーンは作中で20年前っていう設定だから、今の目から見ると約50年前なわけだけど(笑) で、20年後の若者達はというと格段にバカにはなっているのですが、雰囲気的にはまだまだ結構優等生な感じ。仕事はマジメにやってるし、露出も低いし、いちゃつく時はちゃんと人目を避けてるし、本番はベッドでやってるし(笑) その他、服装にしても音楽にしてもなんか微笑ましい。

でも、ほんとにこの20年で若者の体格は向上したんだなぁとしみじみ思いましたねぇ。全員見事に貧乳。スレンダーってわけでもないのにですよ。アメリカ人なのに脚も短いし。今なら低予算の日本映画でも、この映画の女のコたちよりスタイルのいいコがそろってるよ。まぁ、顔の方は保証しないし、スタイルも全て天然ものかどうかは保証の限りじゃないけど。 いやぁ、いい時代になったもんだ^^; ( 結局お前の見るところはそこか )

ああー、でも、都会から来た若者達に警告を与える地元のオトナたちは驚くほど変わってなかったな。今の映画でもああいう風貌と言動で出てくるよ^^;

あと、このくらい有名な、古典と言ってもいいような作品にもなると色々な舞台裏を知ってから見るのも面白いですね。ヨシキさんの文章に書いてあったようなことをDVDの特典映像でご本人たちが語っているのを改めて見るのも楽しかったですし。私は本来はあんまりそういうのに興味ないんですが。

ちなみに、ボーヒーズ夫人役のベッツィ・パーマーは、実はアメリカでは有名なテレビタレントで、若い頃には結構な人気だったらしいんですね ( 本人曰く「 隣のおねえさん 」的キャラだったそうな )。 私は寡聞にしてこの事実をヨシキさんの文章を読むまで知りませんでした(*_*) あと、ビング・クロスビーの息子が出演してるのも。まぁ、これは超どうでもいいんですけど、その彼女が中年になって狂った殺人鬼を演じ、あまつさえ、首が切断され吹っ飛んでも尚身体が動いているというような最期を見せたというのは、それはもうアメリカ国民にとっては衝撃的だったわけですよ。えーと、日本で言えば榊原郁恵が八ツ墓村の犯人役をやったような衝撃でしょうか? ( 性別が違いますが日本を代表するサイコ系殺人鬼といえば、やはりこれかなと^^; ) まぁ、ともかく本国の皆さんは作品内容に受けた衝撃に加えて、そういう衝撃をも受けてしまったわけですね。 そう思うと公開時に大騒ぎになったのも、この作品が特別な位置付けにあるのも頷けます。

そして、本人はこんな映画にそんな役で出てしまった理由を、「 車が故障して新しい車を買うお金が欲しかったの。 脚本は全くひどいもんだったけど、こんな映画なら誰も見ないだろうからキャリアに傷はつかないだろうと思ったし 」 という言う風に語っているというのが悲しくもあり愉快でもあります。そういうことを考えながら本編を見ると、また味わい深いものですね。

その他、サウンドトラックや特殊メイクなどの裏話も満載で、この特典映像はお好きな人にはたまらないですね。あ、お好きな人には冒頭に紹介したヨシキさんの文章とそれが載ってる『 ショック!残酷!切株映画の世界 』もオススメです^^; ヨシキさんと柳下毅一郎氏以外の文章は結構ひどいものが多い ( しかも、一部内容がかぶっている (-"-;) けど、その文章のひどさに目をつぶれば内容は面白いし、映画案内として役に立ちます。 前述の両氏の文章は読み応えのあるものですしね。そういえば、ヨシキさんの文章 ( インタビュー含む )をこんなにまとまって読んだのは初めてかも。