『 パンドラ★パニック 』 名香 智子

◆ パンドラ★パニック  名香 智子 (小学館文庫) 全2巻 各¥600

 

評価…★★★★★

 

<あらすじ> 舞台はとある宇宙の、とある星の、とある時代。王制国家の多い地域にある大国スウィーン王国の王女パンドラは18歳になり、全寮制のクリビア大学へと入学することになった。近隣諸国の王侯貴族の子弟専用の学校であるその大学は、生徒たちの自由お見合い場所のような役割を兼ねており、生徒のほとんどは勉強よりそちらが目的だった。

しかし、パンドラの目的は違っていた。幼い時に行方不明になった兄・ランティアの居場所を突き止める手がかりを探すことだったのだ。 ところが、パンドラは大学に行く途中に街で遭遇したトラブルから救ってくれた美形に一目ぼれしてしまう。

しかし、サイファーと言う名前のその人は、実は義賊・紅梟でスウィーン王家に恨みを抱くシーク王家の末裔だった。話しているうちに、サイファーの探すシーク王家に伝わる秘宝を行方不明になったランティアが持っているらしいことが判明する。

世間知らずのパンドラを利用しようとするサイファーに、サイファーに恋心を抱くバーゼ王家のメラリューク王子( ちなみにパンドラのムコ候補№1でもある )、サイファーの弟だが王族の身分を捨ててバーゼ王家に仕えるサーディアンが加わって、ランティアと秘宝を探す旅に出ることになる。

旅の途上で出会う不思議な力をもった部族たち、そして、それぞれの恋模様を含めた思惑が絡まって、事態は大混乱! ゴージャスなファンタジーブコメディー。

 

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何とか頑張ってあらすじ書いてみましたが、もう、とにかく読んで下さい!と言いたいです(>_<) ネタ割らないように注意して書いた文字だけでのあらすじでは、この作品の魅力はとうていお伝え致しかねますm(_ _)m

 

 


 もう、ほんとに名香智子さんは天才だと思うんですよ。これだけの物語世界を作り上げられる上に、こんな美しい絵が描ける。しかも、何十年にも亘って描いてらっしゃるんですよ。ジャンルも幅広いし。読むたびにほとほと感服します。

同じく天才としか言いようがない方に萩尾望都さんがいらっしゃいまして、同様に圧倒される物語世界と画力をお持ちなのですが、おふたりにはひとつ決定的な違いがあるのです。名香智子作品はとにかく明るい!本作なんかは能天気と言ってよい明るさがありますが、全体的な作風が明るく華やかなのですね。暗い嫌な話を描いていたとしても、根本的には陽性なのです。なので、ココロが疲れている時に読むのにこれほど適した作品はありません。( もちろん萩尾望都作品も敬愛してやみませんが、こちらは深く感動すると共に物凄くダメージを受ける作品があったりしますので…。覚悟して読めばこれはこれで、カタルシスが味わえたりはしますけどね。 )

 

私は名香作品をちゃんと読んだのは、実は成人してからで、書店で何気なく手に取った『 シャルトル公爵の愉しみ 』( 小学館文庫 全7巻 ) に完全にノックアウトされてしまったのでした。でも、名香作品の良さは、実はオトナの女性にほど強く感じられるのではないかと思うのですよね。登場する人物は生まれ育ちも高貴で、美形で、たいていは様々な能力にも優れてて…と書くといつの時代の少女マンガだと思われそうなんですが、これが浮世離れしてそうで意外とリアリティがあるんです。不思議なことに。浮世離れしていることを作者がきちんとわかって描いてて、これでもかって感じに出してきてくれるから、その浮世離れさ加減が楽しくて気持ちいいんですね。

 

そうそう、名香作品は、設定はまるでお伽噺のようなのに、登場人物がみんな妙に色事( 恋愛じゃないことに注目^^ ) に執着するところが特徴的なんですよね。これがオトナ向けな所以のひとつかも^^; 『 シャルトル公爵 』シリーズ然り、 『 レディ・ギネヴィア 』 然り、 『 鈴姫さま 』 然り。もちろん本作も例外ではありません^^; ちなみに、男性は様々なタイプが取り揃えられてますが、女性は大体は可憐( スレンダー )と妖艶 ( グラマー )の二種類ですね。そして、普通なら何も知らないお嬢様タイプのスレンダーちゃんが、何も知らない場合は知らないなりにアグレッシヴなところが今までの少女まんがにない感じで愉快なのです。確かにそういうことを何一つ知らないお嬢様は、恥じらいも知らない可能性が高いですよね^^

 

……と、前置きが凄く長くなっちゃいましたが、本作はシャルトル公爵シリーズのファンタジー版だとイメージして頂ければ知ってる方にはわかりやすいと思います。 パンドラは中身も外見も完全にヴィスタリアタイプだし^^;

知らない方は、お金持ちで家柄の良いお坊ちゃん、お嬢ちゃんたち ( ただし、完全な箱入りからアウトローまで含む )が、それぞれの地位や能力、人間関係や恋愛に関わるゴタゴタを抱えながら、折々に直面する事件や謎に立ち向かいながら、大団円に向かって進んでいくというような話だと思ってください^^; それぞれのキャラクターが実によく立っていて、ちょっとしたエピソードも面白いし、会話や何かも気が利いていて楽しいです。

 

でも、本作の面白さは浮世離れした王子王女たちの話ばかりではなく、むしろそのファンタジー要素にあります。舞台となる「 とある星 」では、完全にヒューマノイドタイプの種族と動物的な外見の種族が混在していて、衣装風俗や建物様式なんかはヨーロッパやアジア、エジプトのイメージで描かれており、それらの絵を見るだけでも楽しいのですが、中でも特別な力をもつ存在として描かれるジュオウ族の設定が非常に面白いです。そして、大筋ともいえるパンドラの行方不明の兄・ランティアに関わる話がこれまたよくできてる!

 

まんがの説明を余り文章でするのも野暮なんで、このくらいにしておきますが、ほんとに天才です。こういう天才が数多くいて、今も生まれ続けている、まんが大国日本に生まれて幸せだなぁと、優れたまんが作品を読んだ時はしみじみ思います。 あ、でも、名香作品は絵柄やなんかがめいっぱい少女まんがなので、少女まんがを読みなれてないオトナの男性が読むのはちょっとキビシイかもしれません…。