『 クラッシュ 』 (1996・加)

◆ クラッシュ (1996年・カナダ)

監督:デイヴィッド・クローネンバーグ

出演:ジェームズ・スペイダーデボラ・アンガーイライアス・コティーズ

    ホリー・ハンターロザンナ・アークェット 他

 評価…★★★☆☆

<作品紹介>

ジェームズとキャサリンは愛し合っている夫婦だが、最近ではお互い別の相手と、それもちょっと変わったシチュエーションでの情事に及び、それを報告し合うような性生活を送っていた。そんなある日、ジェームズは空港へと車を走らせている時に交通事故を起こしてしまう。それは激しい衝突事故で、相手側の運転手は亡くなり、同乗していた妻も重傷、そしてジェームズ自身も脚に重傷を負った。

事故自体の衝撃も大きかったが、ジェームズはその事故の瞬間に見た対向車の女性の振る舞いが気になったいた。その女性・ヘレンが同じ病院に入院していると知り、思わず彼女を探そうとしたジェームズだったが、リハビリ中に偶然彼女に出会う。彼女はジェームズには目もくれなかったが、彼女の連れである男が彼に興味を示す。何故かジェームズのことを知っているらしい男は彼に事故当時の写真を見せ付ける。

ジェームズは動揺しながらも内なる衝動に駆られ、退院後すぐに車を運転して事故を起こした自分の車を見に行く。そこで、またしてもヘレンと出会う。今は車は見たくもないし運転したくもないというヘレンだが、ジェームズの運転する車に乗っているうちに様子がおかしくなる。そして、ふたりは空港の駐車場へ車を止め、人目も憚らず激しく互いを求め合う。ふたりは同じ欲望を感じていたのだ。それは自動車事故に性的興奮を喚起されるところから生じるものだった。あの衝突事故の瞬間にジェームズが見たヘレンの姿は幻ではなかったのだ。あの時、彼女は確かに自らの乳房をまさぐっていた。

どうやら、あの事故の前から自分の性癖を理解し、それを満足させるべく行動していたらしいヘレンは初心者のジェームズに色々なことを教え、同好の士にも紹介してくれる。その中の中心人物ともいえる人物が病院で会った男・ヴォーンだった。

やがて、彼らの欲望はジェームズの妻キャサリンをも巻き込み、その行為は更にエスカレートしていく。


※※※作品の性質上、以下の文章には性的な描写や発言が多く含まれます。そういった内容が苦手な方はご遠慮下さい。※※※

※以下ネタバレ有り※

何考えてんだ、クローネンバーグ? …というのが見終わった後の最初の感想でしたね。だって、これって単なる変態性欲者の映画でしょ。主として欲情する対象が自動車事故なので、やや大掛かりだし犯罪的にもなってくるけど本質的にはSM映画と大差ないよ。理屈をつければエロスとタナトスとかいう話にもなるけどさぁ。ああ、クローネンバーグ映画につきものの肉体破壊みたいなものにもつながるのかもしれないけど、でも、理屈をつけたところで、だから何?って感じがしないでもない。描かれているのはやはり倒錯した性欲に過ぎないと思うの。俳優の皆さんは何故この映画に出たんだろう?

いや、そうは言っても、まぁ、面白かったんですけどね^^; さっき変態性欲のことしか描いてないと言ったけど、この変に理屈をつけてないところが逆に清々しくもあるし。映像もきれいだし俳優陣も魅力的、そして、何よりも時間が絶妙。いくら興味深い内容とは言え、他人様の倒錯した性生活を見るのはこれくらいで充分ですわ。まぁ、あくまで私にとって絶妙なんで、人によっては充分うんざりする長さかもしれないですが^^;

しかし、人はあんなにも性的欲求に関わることばかり考えて過ごしていられるものなのでしょうか?性的欲求を満たすことばかり考えているという時点で、精神的に病んでるってことなのかな。しかし、事故フェチ仲間うちで次々に相手を変えてセックスするとか、事故映像見ながら全員が相互に愛撫し合ったりとか、ジェームズの前で妻のキャサリンをヴォーンがとかまでは、まぁ、お盛んねぇ、あら、退廃してるわねぇとか思って見てましたが、ジェームズとヴォーンができちゃったのにはちょっと感心しました。そこまでやるなら良し!許す!って気になった(笑) 一応理屈を言えば、性交の相手が同性であっても良いということから、彼らの欲望を喚起するのは本当に事故なのだなということが実感され、彼らの病の深さと真剣さがわかるからなのですけど。

しかし、そうは言っても、最後にジェームズとキャサリンが亡くなったヴォーンの車で弔いドライブみたいなことを始めて、危険走行してるうちにキャサリンの車が大破して、車から投げ出された彼女の元にジェームズが駆け寄り、「 次はきっと… 」 とか言いながら2人でうっとりしてるのを見た時は、お前ら早く死ねよと言いたくなりましたね。

でも、このシーンって映画冒頭のシーンを踏まえてるのかなぁ? 互いの家庭外セックスを報告し合いながら、「 で、イケたの? 」 「 いや、仕事中だったから途中で呼ばれちゃって 」 「 あら、残念ね。でも、次はきっと大丈夫よ 」 みたいな会話を交わすところがあるんですがね。するってーと、これだけ大騒ぎしたというのに、実はこの夫婦は2人とも達してないってことなんでしょうか? これはもしや、壮大な不感症の物語だったりして? ああ、でも、ヴォーンと他にもフェチ仲間が死んでるし、事故フェチの人は死ぬ程度のことをしないとダメなのかなぁ? まぁ、いずれにしても世間の迷惑なので、自損事故もしくは仲間内のみでの事故でとっとと逝って下さいって感じですな。彼らの欲望を否定はしないけど共感もできない。 と言うか、その自らの欲望だけを追求する姿勢に共感できないのよね。もう少し悩んだりためらったりしようよ。君たちの行動は世間の迷惑なんだからさ。

あ、共感できないと言えば、すごくつまんないことなんですけど、キャサリンの下着の色が常に白なのが私には気になって仕方がなかったです。ヘレンみたくサテンタイプならまだしも、ガータベルトまでセットのレースタイプなのに白なのですよ。物凄い違和感です。ここは黒か赤だろう! 絶対敢えて外してきてるんだろうなぁと思うんだけど、意図がわからなくて気になる~(>_<) 

でも、どんな意図があろうとも、ブロンドでゴージャスなキャサリンのボディにはやっぱり濃色が似合うと思います。それが見たかった…(T_T) これで単に、クローネンバーグが白が好きなんだよねとかだったら怒るぞ。

しかし、ここまで妙だと原作が読みたいですね。そう、しかも原作は、あのSF界の巨匠J・G・バラードなんですよね。うーむ、読みたいな。文庫にならないだろうか…。