『 三億を護れ! 』 新堂 冬樹

三億を護れ! (上)  (下)  新堂 冬樹 (徳間文庫) 各¥660  評価…★★★☆☆ <あらすじ> 頭も要領も悪く風貌も冴えず性格にも難があり、当然仕事もできず、いつ失職してもおかしくないような底辺に限りなく近い42歳のサラリーマン・河内。そんな彼が何と年末ジャンボ宝くじで3億円を手にした!妻や娘の態度が手のひらを返したように変わったのはまだしも、噂を聞いて全く親しくもなかった親類や近所の連中までがすり寄ってきて、ついには娘の彼氏までもが借金の申し込みをしてくる始末だ。 辟易する河内だったが、魔の手は更に予想もしないところから忍び寄ってきていた。宝くじの高額当選者を狙う詐欺師集団だ。稀代の詐欺師をリーダーとする連中の計画が順調に進行する中、予想外の別口に咥えて、他の目的を持つ連中も河内に接近してきて…。下品でブラックな笑いに包まれた三億争奪戦の行方は!?
えー、これはまたちょっと新しい新堂冬樹ですね。詐欺師集団が出てくるし人間描写は露悪的だし、内容的には黒新堂なんですけど、単純に黒に分類するにはふざけ過ぎなんですよ、これ。 ※以下ネタバレ有り※ 面白いことは面白いけど、新堂作品を読み慣れてる身には詐欺師集団の描写や手口とかにも新味がなく、筋書きも読めるし、余りにバカバカしいエピソードの連続で、後半はちょっと飽きがこないでもない。まぁ、夢オチを重ねたりしてるし、セルフパロディっぽところもあるし、わざとなのかなとも思うけど。オチも大昔のマンガやドラマみたいだしね^^; しかし、河内はひど過ぎるよなぁ…。ほんとにバカでスケベで能天気なくせにひがみっぽくて、自分自身は何の能力もない上に努力もしないという、こんな最低の主人公はなかなかいないですね。作中でもそう言われてますが(笑) 主人公の最低さ加減とか、常軌を逸した感じの登場人物を複数登場させて大して活躍もさせず使い捨てするところとか、ちょっと戸梶圭太っぽいかも。ああ、今気付いたけど、ほんとトカジっぽいですよ、この作品。詐欺師集団が余りにもいつもの新堂節だったので気付かなかったけど、あれがなければトカジ作品と言われても疑わないかも。 あと、凄い大騒ぎしてる割には狙われている金額が余りに小さくありませんか?稀代の詐欺師集団に伝説の詐欺師とその部下まで現れて、それぞれが結構な労力と経費かけて、狙う金額はたったの3億ってねぇ。 …って、その一割も持ってないくせにデカい口叩きますけど、言うのはタダですからね^^; それにしても、大矢と加賀見は疑わしすぎるでしょう。最後まで彼らを疑うことなく、ほんとに善意の第三者だと思って読み続ける人はどのくらいいるのかしら? 最後の最後に大矢が加賀見に裏切られるのだけは意外だったけど、それは伝説の詐欺師たるもの仲間は大事にしなきゃという気持ちがあるからであって、いい意味での驚きではなくて逆にがっかりでしたね。雨宮が洋子を見捨てるのとは訳が違うもん(これはむしろ当然の行為)。計画が成功したのに仲間を裏切るなんてボスとしては最低でしょ。そんなことでは伝説の詐欺師にはなれないと思うのだが。 (2月読了分)