『 江戸の商魂 』 佐江 衆一

◆ 江戸の商魂  佐江 衆一 (講談社文庫) ¥580  評価…★★★☆☆ <作品紹介> 大石内蔵助の志を命がけで試した赤穂浪士の功労者、天野屋利兵衛。「現銀安売り掛値なし」で商業に革命を起こした三井高利。洒落のきいた広告で儲けた山東京伝。角屋七郎兵衛、柊屋新次郎、銭屋五兵衛、中井源左衛門、五代友厚。 広告戦略や信頼関係の重視等、商売の原点。江戸の商人の矜持とは!   (文庫裏表紙紹介文より)
江戸時代の様々な職人の生活や人間模様を描いた作品集 『 江戸職人綺譚 』 のある著者が描いた江戸の商人の話ならば面白いだろうと思って購入したのですが、本書は全て実在の人物の話なので完全フィクションだった前者と比べると物語的な面白さはちょっと薄いですね。採り上げられている人物も比較的有名な人が多く、そんなに目新しいこともない感じです。 ※以下ネタバレ有り※ 天野屋利兵衛の話はちょっと新解釈( 拷問されても大石内蔵助のために武具を調達したということを白状しなかったため、赤穂浪士の功労者と言われる彼が拷問に屈しなかったのは実は大石のためではなく、以前に大石に試されたお返しに今度は自分が試してやろうと思ったからだ…というような話 )ですが、赤穂浪士がらみという時点でもういいって感じがしてしまうんですよね。 私も赤穂浪士大石内蔵助忠臣蔵的ではない解釈や裏話を初めて知った時は面白くて、いろいろ読み漁ったものですが、そもそも赤穂浪士にさして興味がある方でもなかったので、最近ではすっかり飽きてしまって。あー、でも、一般的にはこれが一番面白い作品かもしれないですね。 私が本書の中で一番面白いと思ったのは、『 紅花の岸 』かな。採り上げられている人物( 出羽国最上の紅花商人・柊屋新次郎 )を全く知らなかったし、作中で描かれている紅花の栽培や商いについても知らないことばかりで新鮮でした。その昔、「 絹の道 」を通って日本に伝来した紅花が最上で特産となり、最上から京へと運ばれる道のことを 「 紅の道 」というようになったというのも面白かったですね。「 紅の道 」とは美しい名前ですよね。 しかし、私にはおひさが何故身を投げねばならなかったのかが全く理解できないんですよねぇ…。少々事情はあるにしても、お互い心から愛し合っているというのに、あてにならない人の噂や心無い人の差し出口を幾つか耳にしただけで、たった1年が待てずに死ぬって不自然でしょう。積み重ねてきた年月は4年にもなるというのに。しかも、新次郎は疑わしいところなんか何もない真面目で誠実な人柄なのに。それに、おひさも思い悩むタイプでもないのになぁ。でも、実話なんだよね。うーむ。女心はわかりませんなぁ。 そういえば、この作品集の題名も何故これにしたのか、私にはちょっと理解できないんですよね。 「 商魂 」っていうと、まず出てくるのは「 商魂たくましい 」で、とにかく利益を得ようとするとか利に敏いとかそういうイメージですよね。でも、本書で描かれているのはそういうことではなく、商人の心意気みたいなものなんです。解説にも書かれているのですが、「 商人の魂 」としての「 商魂 」 なのです。でも、それって題名見ただけでは伝わり難いですよねぇ。 「 江戸の 」が付くとなおさらイメージするところから離れていく感じがします。 よくある歴史上の人物に学べ!とかいうビジネス書みたい…。 著者ご本人はこの語にこだわりがあるのかもしれないけど、もう少し良い題名があるのではないかと思うんですがねぇ。時代小説好きだと、この題名で敬遠する人が結構いそうで、良い作品集なのにもったいないです。