『涙堂 琴女癸酉日記』 宇江佐 真理

(2005年9月読了分。感想などは当時のもの) 涙堂 琴女癸酉日記   宇江佐 真理 (講談社文庫)¥560  評価…★★☆☆☆ <あらすじ> 同心であった夫が非業の死を遂げた後、琴は家を出て絵師で暮らしを立てている次男の賀太郎の元に身を寄せる。家の近くには幼馴染だった医師の清順や絵草紙問屋の伝兵衛らもおり、町家の生活にも慣れた琴は、賀太郎が『琴女日記』と名づけて装画も入れてくれた雑記帳に折々の出来事や雑感を記したりして結構楽しく暮らしていた。 しかし、その一方で亡夫の不審な死が心に影を落としていた。その真相を密かに探り始めた息子と娘婿たちを心配しつつも、真相を知りたい夫の汚名を雪ぎたいという気持ちも強く心惑う日々。しかし、真相は徐々に明らかになってきた。 夫の死をめぐる陰謀の究明を柱に、市井で生活する琴の身辺に起こるあれこれの事件を描いた連作。表題作『涙堂』他、 『白蛇騒動』 、 『近星』 、 『魑魅魍魎』 、 『笑い般若』 、 『土中の鯉』 の全6作を収録。
大好きな宇江佐さんにしてはいまいちでした。正直な感想はちょっとがっかり。事件の真相もさほど意外感もないし第一登場人物がやたら多い割にみな魅力に乏しい。 ※以下ネタバレ有り 娘婿の幾太郎は何か裏があるのかと思ってたら思わせぶりなだけだし、清順さんちのバカ娘とバカ婿はただ変なだけで何ら共感できるところないままだし、お冴は気風のいい鉄火肌ないい女なのかと期待していたら何かぐにゃぐにゃしてる上にバカっ母だし。賀太郎にはそんなに難はないけどそんな女に首ったけってとこで評価下がるよね。琴も何か考えがないし怒りっぽいし一貫してないし。そういうのがリアルな人間像と言えばそうかもしれませんが私はつまらなかった。 唯一、伊十だけがその告白の意外性も含めてちょっと魅力的ですが、あの告白はリアリティに欠けると思います。岡っ引きが同心の女房に淡い想いを抱くってのはありがちな設定ではあるけどそのために一生独身ってのはちょっとねぇ。普通に考えても不自然なのに家業がちゃんと店を構えた汁粉屋とあってはもう有り得なくないですか?やってけないでしょ? しかも、夫が亡くなったとたん十手を返した理由が  「あっしが奥様にどんな無体なことをしでかすか、手前ェが恐ろしくなったんでさァ」 って、そりゃないだろう。45歳にもなるばばぁ(現代ならともかく当時としてはリアルに婆ですよ)にどんな無体なことを仕掛けようっていうんだい。しかも相手は身分違いの奥様だよ? 琴さんも喜んでんじゃないよ。本来ならそういうの不快でしょうに。 宇江佐さんはご自分の年齢もあってか中高年の方の恋愛を結構描かれるんですが、 『甘露梅』 の時は微笑ましくすんなり受け入れられたけど今回のは私はダメですねぇ(-"-;)