『赤光』 斎藤 茂吉

赤光  斎藤 茂吉 (新潮文庫)  ¥580 評価…★★★★★ <内容紹介> 『赤光』は、当時の歌壇に一大センセーションを巻き起こした。伊藤左千夫の死を悼む「悲報来」、そして「おひろ」「死にたまふ母」の連作など、作品は生の苦悩に満ち、強烈な人間感情にあふれていた。まさしく伝統的技法と、近代的自我の融合。はからずも茂吉は、短歌において日本の近代化を成し遂げた。いまここに、大正二年(1913)に刊行された『初版・赤光』を再現して贈る。 (文庫裏表紙紹介文より)
最近、現代短歌関係の本を続けて読んだので、思い立って手元にある歌集を読み返してみました。何もこんな正統派を出してこなくてもという感じですが、私は短歌より俳句の方が好きなので、現代短歌と古典以外だとこれくらいしか持ってないんです…。 でも、やっぱりいいですよ、斎藤 茂吉。お前に言われなくても知ってると言われそうですが^^; 教科書に載ってるというとそれだけで敬遠する人が結構いるようですが、私は教科書に載ってた短歌や俳句って結構好きでしたねえ。だって、そんな機会でもないと詩歌なんて読まないですからね。それに、やっぱり教科書は確実にいいとこ抑えてますから(笑) あ、でも、授業で鑑賞させられるのは大っ嫌いでした(-"-;) 私は詩の類は、読んで「あ、いいな」「面白いな」というようなことを感じるだけでいいと思うんですよね。そういう意味では茂吉の歌にはやっぱり凄いパワーがあります。言葉の使い方といい、詠まれる内容といい圧倒的です。 教科書によく載ってるのは、多分「死にたまふ母」の連作ですよね。「死に近き母に添寝のしんしんと…」とか「のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて…」とかのアレです。そのため、一般的には茂吉というとこの歌から受けるイメージが強いのではないかと思います。でも、実は全く違う雰囲気の歌も多いんですよ。まぁ、根底に流れるものは同じではあるんですがね^^; 茂吉の歌は基本的に非常にストレートだと思いますが、何というか生々しい感じすらするものも結構あります。特にこの歌集には、精神科医の茂吉ならではの歌が結構収録されていて面白いです。全然イメージ違いますよ。例えばこんな感じ。  ほほけたる囚人の眼のやや光り 女を云ふかも 刺しし女を  黴毒のひそみ流るる血液を 彼の男より採りて持ちたり  自殺せる狂者をあかき火に葬り にんげんの世に戦きにけり   もちろん普通の写生的な歌やなんかも良いのですけど、収録数も多いし秀歌も多いので引用してたらキリがないんで…(T_T) あ、今週になって急に涼しくなってきたことだし、今の季節に合う歌って縛りで選んでみよう(^_^)b  かすかなる うれひにゆるるわが心 蟋蟀聞くに堪へにけるかな  谷川の音をききつつ分け入れば 一あしごとに山あざやけし  秋のかぜ 吹きてゐたれば 遠かたの薄のなかに曼珠沙華赤し しかし、こうしてみるとほんとに「赤」がキーワードになってるんだなぁと実感されますね。 どの歌も何気なく選んだのに大半が赤のイメージだ。