『人を殺す、という仕事』 大石 圭

人を殺す、という仕事  大石 圭 (光文社文庫) ¥700  評価…★★★☆☆ <あらすじ> 僕のもとにある日届き始めた一通の手紙。そこに書かれた指示に従うことで、僕の人生は驚くほど順調だった。手紙のお陰で、今後も幸福な人生が続くと信じていた。それが「殺人」を命じるまでは。従わなかった結果―母が死んだ。次は妻や娘たちの番だというのだ。あどけない少女、臨月の妊婦…僕は次次と手を血に染めていく。  (文庫裏表紙紹介文より)
毎度おなじみ鬼畜系作家・大石圭氏の新作です。それにしても、あいかわらずストレートな題名だな。これ自分でつけてるのかしら?従来作品はともかく、本作の場合はちょっと内容と乖離している気がするのだけど。 ※以下ネタバレ有り※ いきなり結論から言っちゃうと、彼に殺人を指示してたのは創造主らしいのですね。手紙の署名にあった頭文字 「C」 = 「Creator」 だったと。えええー、それだったら、おいおい…と突っ込みたいところは多々ありますが、まぁ、この人の作品の場合、そんなこと言うのが野暮な感じですからねえ。 でもって、善良な小市民である橘が何故この任務に選ばれたかというと、小学生の時に絶滅した動物たちについての本を読んで書いた読書感想文に 「人間はこのよで一番わるい動物なのだから、ころしてしまうしかないと思いました」 と書いたかららしいです。はい、突っ込んじゃいけません^^; ちなみに、その関連から各章の冒頭に絶滅した動物たちについての話が載っていて、これはなかなかお得でしたね^^ そういう面妖な設定も本作の特色なんですけど、本作で最も特筆すべきは主人公が本当にまともな人であることですね。以前、『復讐執行人』紹介で触れたように、大石氏の特徴は「鬼畜系犯罪を加害者の側から、加害者の主観で書く」(ご本人の弁)ところにあるのですが、今回は主人公は加害者の立場ではあるものの、ある意味被害者であるし、その犯罪は全く鬼畜系ではないんですよ。だから、鬼畜・大石を期待してた人はちょっと期待外れかもしれません。まぁ、脇役にクズ鬼畜が一匹出るけど。 それ以外のいつも私の気に障る妻と子の人物造型やなんかは相変わらずでしたが、もう慣れちゃったのでどうでもいいかって感じになってきました。多分わざとなんだろうと思うことにした(実際そうなのかもしれないという気もする)。とはいえ、今回の妻の言動(特に死ぬ予定の夜)には読んでて突っ込まずにはおられなかったが…。  それにしても、橘の長女あやめちゃん(8歳)を異常性格のニートに強姦させるのはあんまりだ。話の展開上、襲うという行為には必然性はあるけど、未遂でいいじゃん。なのに、橘が助けに入った時点で、しっかり行為に及んでる上に既に数分は経過してるらしい状況ってのはどうよ?しかも、それで犯人を殺した主人公に対して、後にあやめちゃんが「私は生きてるんだから彼を殺さなくても良かったのに」ってなことを言うのもどうよ?女を聖化してるようでバカにしてるよな。 …と、突っ込まない約束なのに、つい突っ込んでしまったわ。年少者に対する性的虐待ネタ大っ嫌いなもので(-"-;) まぁ、あやめちゃんはリアリティのない存在だから読んでてそれほど辛くはなかったけど。しかし、「C」がほんとに創造主なら、この件についても酷すぎ。見過ごしてんじゃねえよ。しかも、現場に入れるようには手を貸しやがって。性格悪過ぎだよ。ボンちゃんと兄ちゃんの言うとおりだ! で、ラストは微妙。橘さんは結局最後のミッションをやり遂げたらしいんだけど、その後が明らかにされてないから。どうせなら、あやめちゃんとすみれちゃんと3人で今度こそ幸せに暮らしました…的なラストにしてくれれば良かったのに。橘さん、頑張ったのにかわいそうじゃん。 あと、この突飛な設定が特に生きてないよね。でも、まぁ、いいか。大石圭だからな。