『封印作品の謎―ウルトラセブンからブラック・ジャックまで』　安藤健二

◆封印作品の謎―ウルトラセブンからブラック・ジャックまで　安藤健二（だいわ文庫）￥840 　評価…★★★☆☆ ＜作品紹介＞『ウルトラセブン』第１２話｢遊星より愛をこめて｣、『怪奇大作戦』第２４話｢狂鬼人間｣、映画『ノストラダムスの大予言』、『ブラック・ジャック』第４１話｢植物人間｣と第５８話｢快楽の座｣、『Ｏ‐１５７予防ゲーム』───。これらの作品は、なぜ、どう禁じられたのか。粘り強い取材で意外な真相を明らかにする新世代ルポルタージュ！　　（文庫裏表紙紹介文）
うーん、思ってたのとちょっと違った。まず採り上げられる作品が少ない。紹介文に挙げてるので全部なんですね。で、意外な真実が明らかになるという感じでもない。何より著者が封印作品たちに特別な感情をもってない。これが大きいなぁ。自分も円谷作品や『ブラック・ジャック』には結構思い入れがあったりするし、実際マニアの多い作品たちでもあるので、無意識にそういうのを期待しちゃってたんだよね。だから、何とはなしに違和感がある。別に悪いわけではないけど。それはともかく、セブン１２話なんて欠番になった理由もマニアの中では常識だし、『怪奇大作戦』第２４話も『ブラック・ジャック』もそういうの好きな人の中では有名でしょ。こういうメジャーどころを敢えて取り上げるからには、もう少し新しい視点なり発見なりがほしかったな。ただ、セブン１２話にしても『怪奇大作戦』にしても、封印にまつわる事情や関係者の発言等についてこんなに詳しく書かれているものは初めてだったので、そこは収穫でしたね。噂には聞いてたけど円谷プロのやりくちにもびっくり。（とか書いてたらタイミングよく円谷プロ身売りのニュースが(@_@;) そんなことだからこんなことになるんだよ）あと、私は『ブラック・ジャック』の封印作品についての詳細は知らなかったので、これも面白かった。まさか医学博士で漫画の神様の手塚治虫が｢ロボトミー｣って語を誤用したとはねぇ。そりゃあ、恥ずかしくて世に出せないでしょうよ。当時でもその問題性などから随分話題になっていたはずなのにどうしちゃったんでしょうね。不思議。ああ、でも、ロボトミーがらみで最も有名で悲惨な桜庭事件（※）はこの後に起こってるのか（この事件については本書中にも記載あり）。ふむ。そう、偶然なのか精神病がらみの話が多くて、その辺は私は面白かったし色々考えさせられました。｢狂鬼人間｣は確かに問題点はいくつかあるけど設定というか着想が凄い。凶悪な犯罪を犯したらとりあえず心神耗弱って言っておけばいいだろうと、バイオモドキ神だのドラ○もんだのを持ち出して罪から逃れようとする異常性格者が頻出している現代ならともかく、今から３０年も前にこういう発想があったんですねぇ。これ何とかしてリメイクできないのかなぁ。『Ｏ－１５７予防ゲーム』に関しては、すまんが私はどうでもいい。１８禁ゲームのキャラを学校教材に使うことの可否とかいう以前に、そういう媚びる行政や媚びる教育はキライだ。てゆーか、この『Ｏ－１５７』に関して言えば単に担当者がオタクで仕事にシュミを持ち込んだだけだしさ。百歩譲って持ち込んでもいいけど、ちゃんとしろよな。 --------------------------------------------------------------------------- ※桜庭事件※ 1979年、桜庭章司(50)が、かつての主治医だった藤井氏宅に押し入り氏の妻と義母を殺害し、金銭・通帳などを奪って逃げたが、直後に職務質問を受け、凶器などが見つかったことから逮捕される。桜庭が語った動機は以下のようなものだった。スポーツライターだった桜庭は1964年にチングレクトミー（ロボトミーの一種）を受けてから、その後遺症（精神的意欲の減退、集中力の低下やてんかん、頭痛など）によりライターの職を失ってしまう。そして、その他の仕事についても以前の通りの自分ではなく、後遺症もひどいため続けることができない。やがて、まともな生活ができなくなった桜庭は自殺を考えるが、こうなったのも自分が手術を拒否していたにも関わらず、身内を騙して強行した藤井のせいだと考え付く。自分だけが死ぬのではなく、藤井にも一緒にいってもらおう。そして、家を調べて押し入ったのだが、3時間近く待っても藤井氏は帰ってこない。そこで、決行を後日に延期するため事情を知る藤井の妻と義母を殺し、物取りに見せかけようと金などを奪って逃げたのだという。 1997年、桜庭は無期懲役が確定した。　【参考資料】　　『隣りの殺人者たち―彼や彼女はなぜ、人を殺したのか? (別冊宝島 (333))』収録の　　松永憲生氏の記事「国選弁護人と殺人者」何ともやりきれなくなる悲惨な事件です。有名な事件なのでネット上にもかなり情報があると思います。興味のある方はぜひ詳細をどこかで読んでみて下さい。 ---------------------------------------------------------------------------