『君が代は千代に八千代に』 高橋 源一郎

(2005年9月読了分。感想などは当時のもの)

君が代は千代に八千代に  高橋 源一郎 (文春文庫) ¥550

 評価…★★★☆☆

<あらすじ>

タクシー運転手のハルはいつものように街を流していた。不景気な上に今日は変な客ばかりでうんざりしているところにちょっと良さそうな客が現れた。

しかし、その男は地図を渡したってたきり一言も口をきかないし、車はその地図に沿って見たこともないような道をひたすら走りもはや今どこにいるかもわからない。ハルは不安になってくるが何とか目的地には着いた。ところが、何故かメーターは回っていないし、男はそれに関係なく全く料金を払おうとせず無言で降りてしまう。

ハルは料金を取り立てるために男の後を追って目の前のビルに入った。そこには冴えない感じの男が数人集まっていたが、良く見るとどれもどこかで見た事のある顔のようだ。それは…。(表題作)

他、 「Mama told me 」 「Papa I love you」 「Mother Father Brother Sister」 「殺しのライセンス」 「素数」 「SF」 「ヨウコ」 「チェンジ」 「チェンジ②」 「人生」 「愛と結婚の幻想」 「鬼畜」の全13篇を収録。


この前、同著者の作品を読んでがっかりしたばっかりなのですが懲りずにまた読んでみました。短編集だし違うかなというのと帯の「おぞましい」という語にちょっと惹かれて^^;

で、結果は合格でした。単に扱ってる題材(エロ、グロ、バイオレンスが主)が私の興味を惹くものだっただけという気も少々しますが。

しかし、ああ高橋源一郎らしいなぁと思う作品もあり、何か別人みたいだなぁと思う作品もありで結構楽しめました。「実験的」「ポストモダン」という説明がふさわしいとは思わなかったですが。というか、いわゆるポストモダン文学が流行だったころは実験的な作品だらけでしたが、この21世紀では一体どういうものが実験的と言えるのですかね?

本書の中では 『素数』 という作品がちょっと好きです。筋には全然関係ないけど映画『CUBE』を思い出した。私は超文系人間なので数学の天才的な人への憧れがあります。

あと、冒頭にある 『Mama told me』 はやや二日酔いの状態で読んでたら私もつられそうになりました…。卯月妙子作品とかAV女優のインタビューものとか読んでるせいでつい凄くリアルに想像してしまい…。(巻末の参考文献の中に同じ本があるのを発見^^;) あ、そのテの映像もちょっとだけ見た事あるな。伝説のAV監督・バクシーシ山下氏の本を読んで仰天して、氏の作品を探した結果はからずも見るはめになったもの。…私は何の引き出しを開けちゃってるんだ、おい。でも、凄かったっすよバクシーシ作品。 そういうシュミのない人には全く実用的じゃないと思いますけど。

…変な引出しは閉めて本題に戻ります。そんな感じで、読後は、良かったなぁ、結構面白かったわぁと思ってたのですが、こうして読書録を書いていると読み返したい気持ちが全く湧いてこないことに気付きました。読んでる時は「ああ、らしいなぁ」と思ってたところが今になって何か鼻につくというか。

どうも私にはもう高橋源一郎は過剰に過ぎる気がするのですね。私も歳をとったし彼も歳をとったからですかね。色んな意味で淋しく悲しいことです。