『山名耕作の不思議な生活 』 横溝 正史

  ◆山名耕作の不思議な生活  横溝 正史 (徳間文庫) ¥660    評価…★★★☆☆ <内容紹介> 私の友人である山名耕作は新聞記者として充分な給与を得ていながらも、不便な場所にある奇妙な下宿に住み極めて吝嗇な生活を送っていた。そこに住むようになる以前にはふつうの若者らしい暮らしをしていた彼を知っているし、そういう生活をするようになってからも相変わらず身なりには人並み以上に気を遣い、爪なども磨いてある彼の様子を見るにつけても、単に経済上の理由でこういう生活をしているとも思えない。では、彼は何故このような生活をしているのだろう?実は彼には秘密の計画があったのだ。(表題作) 他、 『双生児』 『ネクタイ綺譚』 、当初は江戸川乱歩名義で発表された 『あ・てる・てえる・ふいるむ』 『角男』 など全14篇を収録。
横溝作品というとおどろおどろしい長編ばかりという印象が強いのですが、こんな軽妙な短編も書いているのですねぇ。凄い面白いってほどではないですが、時代を感じさせるナンセンスユーモア(懐かしい表現…)が何かほのぼのしてて楽しいです。 そして、作品紹介でも触れましたが、この本には雑誌掲載時は江戸川乱歩名義だった短編が2作も収録されてるんです! 大横溝が大乱歩の代作ってどういうこと!?と仰天しつつ解説を読んだらば、まず一作は横溝が『新青年』編集長だった時に、乱歩が依頼していた原稿が書けなかったというので乱歩の了解を得て自分の作品を乱歩名義で発表したものだそうです。…って、えええ???そんなのアリなんですか、おふたりとも?もしもし?って感じですよね(@_@;) もう一作もそんな感じで、乱歩が書かないっていうから関係者一同が了解の上の代作なんですが、現代の感覚からすると驚愕の事実ですよねー。え、そんなことでいいんですか???と訊きたくなっちゃいますが、良かったんでしょうなぁ…。解説では「まだ作家も文壇も幼く、それだけに自由闊達だった時代の、愉快なエピソードだといえるだろう」って結んでありますが、そうかなぁ…(*_*) ちなみに代作としての出来栄えはどうかと言うと、短編ということもあって判断しづらいですね。乱歩にしては雰囲気がないなぁという感じだけど、これは違うとまでは言い切れない。小説としての出来はそこそこかな。 ※以下ネタバレ有り 純粋にお話として面白かったのは『丹夫人の化粧台』かな。これはナンセンスとかでなく、ふつうに横溝っぽい作品。 『双生児』 『片腕』 『カリオストロ夫人』 などもその系列で面白くはあるけど、今となっては驚きが少ない感じなので^^; 『丹夫人~』の、嫁入り道具に婚前にある種の関係があった美少年を忍ばせてきて12年間そのまま化粧台の中で飼って関係を続けていたという設定は、年齢を初め様々な点で非常にムリがあると思いますが、夫人の夫や愛人の相次ぐ死もその事実を知ったショックによる自殺だったというのも含めて、まぁ実に予想外の物凄いオチでございました。 しかし、これに限らず昔の推理小説(国内外とも)は物凄く不自然な話であっても何となく納得させられてしまうのが不思議だ。書いてる方が自信満々だからかしら?現代ミステリとかだとつい重箱の隅つついちゃうのにねぇ^^; ちなみに徳間文庫は同じく大横溝の捕物帖シリーズという珍しいもの(『お役者文七捕物暦』既刊5巻)も出してくれてます。これは掘り出し物で、私は大変お気に入りです^^ (8月上旬読了)