『残虐記』 桐野 夏生

残虐記  桐野 夏生 (新潮文庫) ¥420  評価…★★★★☆ <作品紹介> 自分は少女誘拐監禁事件の被害者だったという驚くべき手記を残して、作家が消えた。黒く汚れた男の爪、饐えた臭い、含んだ水の鉄錆の味。性と暴力の気配が満ちる密室で、少女が夜毎に育てた毒の夢と男の欲望とが交錯する。誰にも明かされない真実をめぐって少女に注がれた隠微な視線、幾重にも重なり合った虚構と現実の姿を、独創的なリアリズムを駆使して描出した傑作長編。 (文庫裏表紙紹介文より)
今、読みたてほやほやですが、何と言うか…、参った。桐野夏生は怖い。 きちんと感想を書く自信が全くないのですが、時間を置いたら余計書けなくなって永遠に書かない気がするので、とりあえず書き連ねて行きたいと思います。 以下はほんとに読む価値のない個人的な覚書ですm(_ _)m って、いつもそうだと言えばそうだけど…。 えーと、本作の著者である桐野夏生は現実に起こった事件に着想を得た作品を多く書いて、高い評価を得ている作家だということは改めて言うまでもないですよね。 しかし、私が桐野作品を初めて読んだのは、実は昨年のことなのです。こんなにも世間的に評価されていて、自分も好きなジャンルに違いないであろう桐野作品を何故読む気になれないのか自分でも不思議だったんですが、今思うと本能的に何か厭な臭いを感じていたのでしょうねぇ。一応、理性的には「題材となっている事件が最近のもの過ぎるからなあ…」と理由をつけたりしていた(勿論それもあるが)のですが、今回それだけではないものをはっきり感じました。 しかし、何がそんなに厭なのかは明確に言えないのです。生理的な嫌悪感があるような気もするし、何か不安感を呼び覚まさせられる気もするし…。決して共感できないわけでなく、むしろ凄く共鳴できるところがあって、だからこそ厭なんですね。 ちなみに初めて読んだ桐野作品である『グロテスク』は、かの有名な「東電OL殺人事件」が題材になっていて、この事件に非常に興味を持っていた私としては、文庫になった以上、これは読まないわけにはいかなかったのですね。で、読後、色んな意味で物凄く厭な気分になりつつも、この作品の場合は事件に対する結論(というか読み解き)が私としては凄く腑に落ちるものだったので、まぁ、いいかと思えたのですよ。小説としても物凄く面白かったし。 でも、本作はダメです。対象が少女だからなのか、小説としての面白さが『グロテスク』より薄いからなのか…。 別に著者が興味本位で書いてるとか、現実の事件の被害者や関係者のことを考慮してないとか言う気はないんですよ。確実に想起させてしまうとはいえ、やはり別のものですから。『グロテスク』はどうしても現実の事件と重ねないわけにはいかないところがあったけど、本作はほんとに別のものだと思うし。そして、作者は明らかに、被害者となるべく位置づけられた弱者(いわゆる女子供)の側に立って、彼らが望まない闘いを強いられることに怒りを感じつつ、これを書いていると思えるんですが、でもダメです。こんなんだったら、三文雑誌的に性的な興味を煽るような感じで書かれた作品を読んだ方がまだ落ち着く気がする。(もちろん物凄く腹は立つけどね) 何故なんだろう…? これは、やっぱり突きつけられたくない真実みたいな類のことなのかな。 私自身の中にある、相反した感情や汚い部分、暗い部分などに向き合わざるを得なくなるのが厭なのか。………うん、おそらくそうなのでしょうね。今、一応、文章にして考察しかけてたんだけど、とてもまとめられそうにないのでやめました。この作品について感想を書ける日は来ないだろうなぁ。 そして、桐野作品を再び手に取る勇気は、多分ない。でも、凄い作品だし、凄い作家だとは思う。 しかし、『グロテスク』を読んだ時にも強く思ったのだが、桐野夏生の本当の良さとか怖さは絶対男性にはわからないと思う。女性にもわからない人は結構いるかもしれないけど、逆にそういう人達はどういう風に読んでるの聞いてみたい気がするなぁ。