『道具づくし』 別役 実

道具づくし 別役 実 (ハヤカワ文庫NF) ¥651  評価…★★★★☆ <内容紹介> 気詰まりな対面の座を和ませるため傍らに置いた「おいとけさま」、平安時代に流行した口中遊具「したすさび」、痒いところを掻く快感を味わうための手具「はだなだめ」…いまは忘れられてしまった、不可解だけれども蠱惑的な古民具の数々を紹介しながら、現代人が失った「道具」と「もの」との豊饒なる関係を甦らせる。別役流超民俗学の集大成。『虫』 『もののけ』に続く、「づくし」シリーズ。(文庫本裏表紙紹介文より) ハヤカワだしこんな題名だし表紙だし、紹介文を読んでもだまされる人がいるかもしれないので、一応ここで言っとこう。これは真面目な顔で冗談を言う類の本です。つまり、紹介されてる道具は全てデタラメなの^^;
実は、私は前作 『もののけづくし』 をだまされて買った人だったりする(笑) だって、当時やたら妖怪本や怪談本が文庫で出てた時期で、それらと一緒に並べてあったんだもん。ほんとにアカデミックな本たちと一緒にうっかり大人買いしちゃったのさ…。そういう経緯で買ったこともあり、『もののけづくし』の方は余り感心はしなかったですね。まぁ、こちらは対象がそもそも架空のものなので、いくら架空の話を書いてもそんなに違和感がないというのもあるけど。もちろん嘘八百を書いてるのはすぐわかるんだけど、アカデミックな嘘をついてる面白さは半減する感じがあるんだな。 でも、本作の場合はこのやり方が図にあたっていて実に面白い。まぁ、とってもくだらないんですけどね^^; あ、でも最初の 『おいとけさま』 なんかはよくできてて、うっかりだまされそう。これを巻頭にしたのは大正解ですね。 バカ話の常として、話が尾籠な方向に流れがちなのがちょっと…という気もするけど、そこが逆に民俗学っぽい感じがしないでもない^^; 実際どのくらいくだらないかを以下にちょっと紹介。 うどんげ」 … うどんに生える毛のことである。言うまでもなく、うどんに毛が生えるのは極めて稀なことであったから(一説には三千年に一度と言われている)これは常に貴重なものとして取り扱われていた。 冒頭で一気に脱力させておいて、次に「三千年に一度」という真実を混ぜて「おや?」と思わせるという^^; こういう具合に、現実にその名前の別のものが存在していて、それに関する真実の情報を微妙に交えつつデタラメを述べるというのと、全く荒唐無稽な道具や風習を考え出して、それについて述べるというパターンがあって、どちらも面白いですが、私は後者の方が好きかも。 本来は原典があるものを洒落のめす感じの方が好きなんだけど、この本で語られている世界は、我々の住む世界のパラレルワールドか何かかなと思うくらい独自の進化を遂げてたりする(手の指は抜いたら生えてくるものとそうでないものがある…とか)ので、ちょっとSFを読むような面白さがあるのよね。 まぁ、真面目な人には全くおすすめできない本かな^^;