『アジア怪食紀行―「発酵仮面」は今日も行く』 小泉 武夫

アジア怪食紀行―「発酵仮面」は今日も行く 小泉 武夫 (光文社知恵の森文庫)¥920  評価…★★★★☆ <内容紹介> ベトナムラオスミャンマーウイグル、モンゴル、中国、韓国。ご存じ「冒険する舌」小泉先生が、アジア各地の食世界を舞台に、自慢の五臓六腑で八面六臂の大活躍。街を歩き、人と交わり、妙味と出会い、珍酒に酔う。100枚にも及ぶ写真と洒脱な文体で綴る、大いなる胃酸となる旅行エッセイ。アジアは実に美味しい。 (文庫裏表紙紹介文) こんなオレでさえ、「何ですか、この先生は……」と言いたいほど、この本には驚いてしまった。石ガメの蒸し焼き、大ネズミの燻製、豚の血豆腐、砂トカゲの姿焼き、センザンコウの炒め物って……。ゲッツ板谷氏の解説より) ------------------------ 本日7月10日は「納豆の日」ということで、「発酵仮面」小泉武夫氏の本を紹介。ちなみに内容紹介文は正確を期すために二種類を引用してみました。どう思うかは読む人の嗜好次第ということで^^; 一般的には板谷氏の意見に賛同する人が多いかと思いますが。
いやー、こんなにも美味しそうじゃない、食欲を失わせる食べ物本はそうありません(笑) いや、お好きなひと(著者のような…)にはたまらないのかもしれないのですが、凡人にはキツイ食材と料理の数々です。しかし、著者はその全てを嬉々として平らげた上に情熱あふれる描写をしてくれるもので、私なんかは時々うっかり「あ、おいしそう」とか思ってしまったりします^^; しかし、本書の恐ろしいところは写真入りなところですね。描写にだまされかけていた脳が一気に冷静に戻ります。私はゲテモノ食いに抵抗や偏見はない方だと思うんですが、やっぱり麺の上に炒めた竹虫(大きめの蛆みたいな形状)がどっさりのった「虫ラーメン」やカゴにびっしりの蛹のカラー写真見るとさすがにひきますわ…。あと、犬好きなので犬肉専門市場の写真はちょっと泣きそうでした(T_T) 文章だけで凄くひいたのは大ネズミの燻製のくだりですね。材料はラオス名産(?)のクマネズミを一回り大きくしたようなネズミ。これの皮を剥いで頭と尾を切って内臓を抜いたものを、アジの開きのように開いて塩と香辛料をまぶして燻製にしたのが首都ビエンチャンの名物なんだそうですが、発酵仮面のおじさんはこれを「10枚ほど買って、その後の旅のおやつに重宝」するのです。で、本人曰く「5枚10枚ならまだ可愛いのですが、売り場の台の上に何百枚と重ねているのですから、そりゃもうグロテスクにさえ思えるわけです」。 おじさん、一枚でも充分にグロテスクですよ…。 で、この後に続く口にしたときの描写がまたアレで、何か物凄くリアルに想像してしまうんですよね。食べたら口の中にきれいに取れてなかったネズミの毛が残ったりしそうとか、食べ終わったあとの足のツメの様とか異常にリアルに想像せずにはおられないのですよ。いやぁ、尻尾が切ってあるのがせめてもの救い。口からはみだす尻尾とか残った尻尾だけをしゃぶる様とか想像しなくてすむから。って、今してしまったが。 …と、何かグロテスクな面ばかり強調してしまう形になりましたが、知られざる異国の生活と食文化がリアルに感じられて非常に面白い本だと思います。最近の小泉先生はメディア慣れしたせいか文体も悪ノリし過ぎな感じがあって、そこだけ気になりますけど。 本当は初期の『奇食珍食』の方が好きなのですが、サブタイトルに「発酵仮面」が入ってるということで本書を選んでしまいました。ちなみに何故「発酵仮面」かというと発酵学専攻の大学教授で発酵食好きだからだと思われまする。 (2004年1月読了分)