『タイムスリップ森鴎外』 鯨 統一郎

(2005年8月読了分。感想などは当時のもの) タイムスリップ森鴎外 鯨 統一郎 (講談社文庫)¥730  評価…★★★★★ <あらすじ> 森鷗外こと森林太郎は病床で自分が毒を盛られていることに気付く。死にたくない、せめてあと一作は…。その思いが林太郎を床から起き上がらせた。しかし、殺人者はそれを見逃さずに後を追い崖から突き落とそうとする。そこで意識を失った林太郎が目覚めた場所は、同じ道玄坂ではあったが時代は平成14年だった。 林太郎は状況が飲み込めないまま若者に絡まれていたところをうららと七海の女子高生二人組に助けられ、その後3人は噛み合わない会話を交わすうちに明治の大文豪・森鷗外が現代にタイムスリップしてしまったらしいことを理解する。 やがて、うららと七海に文学の詳しい友人達も加わって林太郎を元の時代に戻す努力が始まるが、その過程で文学史上の大疑問、ひいては林太郎を殺そうとした犯人の名前も浮かび上がってくる。
いやー、面白かったです!つい先日同じく森鷗外が出てくる『官能小説家』に失望したばかりなので余計に。タイトルからして荒唐無稽、作者はバカミス界の旗手として名高い(笑)とくれば、もうハチャメチャ(死語?)なんだろうなと思いつつ読み始めたんですが、全然そんなことないんですよ。いや、そんなことあるかもしれないけど全然気にならない。 ※以下ネタバレ有り ユニクロの服を着て金髪ツンツンヘアにして即興のラップを歌う森鷗外。ありえねーっ!!って思うでしょ?でも自然なんですよ。カラオケを歌おうがインターネットをやろうが少しも鷗外らしさが損なわれていない不思議。むしろ、新しいもの好きで衛生観念の発達していた鷗外には現代の方がふさわしいかもという気持ちになるくらい。 森茉莉さんがご存命であれば、ぜひともこの作品の感想をお聞きしたいところです。きっと悪くはおっしゃらないことと思いますが(^^) 文学史の大疑問とその意外な犯人についても面白かったですが、私は文学者は早死にという印象があるのでさほど共感はおぼえませんでした。現代でも若くしてかなりの方が亡くなられてますからね。それほど医療技術が発展していない時代なら無理もないのでは、と思います。自殺も多いですしね。 でも、確かに乱歩ならやりそうとか思っちゃいますよね(^^;) 実際の彼は小心でとても実行できなかったとは思うけど話としては面白い。 この小説の結末通りに早世した作家が皆生き延びてもっと作品を書いていてくれたら嬉しいなぁとも思うけど、早世したからこその魅力もあるよねとも思ったり。 でも、乱歩と鷗外が親しく交際してたらとか想像するのは楽しいですね。それによって鷗外の作風が軟らかくなってたりすれば文学史は大きく変わっただろうなぁとか、娘の茉莉さんはもっと面白い人になってたかもしれないなぁとかね(^^;)